2012年 100km Walk

 
◆田 尚志(岡山政経塾 9期生 サポーター)

晴れの国 おかやま 24時間・100キロ歩行レポート             2012年5月16日
「リスタート」



はじめに

 初めて会った時、その子は小学校に上がりたての6歳の女の子だった。駅の改札を抜けて私の傍までやって来て、ニカッと笑いかけると、何も言わずに、僕の手を握った。
 人懐っこくて、甘えん坊で、泣き虫で、負けず嫌い。一緒に出掛けると、一回り歳の離れたお姉ちゃんにお菓子をねだり、疲れるとおんぶを求め、背中で眠る。勉強や習い事よりも、スポーツやゲームや漫画が好きで、周囲の大人に指摘を受けると、少し不機嫌になる。
 どこにでもいるようなその女の子は、自分の気持ちに素直すぎて、時に、周りが見えなくなり、対人関係に悩み、表情は曇り、自分の殻に閉じ込もり始めた。

 24時間100キロ歩行、私のサポートのテーマは「ゼッケン:1 カワバタアミ」を完歩へと導くこと。私がかつて経験した感動を、彼女自身が体感する事で得られるものこそが、これからの彼女の人生に、最も大切な事だと考えたからだ。
 18歳となった義妹に、自分にできる事は何か。それを考える事から始めた。



練習会への道すがら

 倉敷の練習会に彼女を参加させる為に、片道40分の送迎中に、彼女と話をした。
 「なぜ歩くのか。何の為に歩くのか。」
 家族の事、友達の事、自分自身の事・・・これまでの18年間という彼女の人生を、彼女自身が整理できるよう、気持ちを引き出すように話を進めた。楽しい事も、嬉しい事も、辛い事も、歩く目的を明確にし、そこから得られる経験を未来に生かす為には、避けては通れない大切な作業だった。
 「心の準備」にかける時間。これこそが、100キロに臨む上で最も大切な時間だったように思う。



選手宣誓

 彼女が書き下ろしたその宣誓文を見て、彼女が100キロ歩行へ臨む上で、越えなくてはならないもの、受け入れなくてはならないもの、それが決意として刻まれていることが伝わってきた。彼女はすでに、完歩した後の新しい自分と出会う為のスタートを切っていた。
 本番当日の宣誓は、これまでにない緊張感だったはずだ。少し失敗して、直後に、僕に向かって「ゴメーン」と口を動かしたが、十分だった。よくここまできた。後は、練習を重ねてきた自分と、サポーターを信じて歩けばいい。ここからが僕たちの出番だと、自身の気持ちを切り替えた。



サポートを終えて

 彼女の完歩は、私自身の喜びでもあり、同時に家族やサポーターの喜びでもあった。そして彼女は、かつての自分と、同じような境遇にいる人達に、勇気と希望を与えた。「第1回晴れの国おかやま24時間100キロ歩行」。チャレンジャー一人一人が主役であり、私はその内の一人に思いを寄せていた。そして多くの学びがあった。一人の主人公が100キロに臨むまでの葛藤、そして練習を重ねて完歩し、未来に繋げるまでの一連の過程。人はいつだって変われる、感動できる、成長できる。それを、教えるつもりが、逆に教えられた。
 今の自分は、どうだろう・・・そう思うと、少し頭でっかちになりがちである事に気づく。自分は、あの時の経験を、未来となった今の自分の成長に、まだ生かせていない。あの時書いたレポートを読み直し、気持ちを新たにしようと思う。

茜美ちゃん。よくやった!!