2008年6月 岡山政経塾 体験入隊 特別例会
|
|
◆竹内 健一(岡山政経塾 四期生)
|
『日本原で見つけた大切なもの』
私は今まで岡山政経塾の中で、様々なものを学ぶ事ができました。それは、「非日常」と「極限」という2つのキーワードが、多くのプログラムの中にあるからだと思います。
「非日常」と「極限状態」は、私に多くの刺激と新しい気づきを与えてくれます。今回、陸上自衛隊への体験入隊研修の話があった時、体力に自信はないし、この週を除くと毎週末に出張が入っているので迷いましたが、新しいものを見つけたい気持ちから参加させていただきました。
参加してみて・・・死ぬかと思いました。ただし、多くの「非日常」と「極限状態」を体感する事ができました。
ただ、この体験を「日常に置き換えて行動に反映する」「現代社会に当てはめて考察する」ことが出来ないと、せっかくの体験は一過性に終わってしまいます。今回は特に日常の業務(私の職業領域)である「教育」に置き換えながら考えました。
1.基本的な生活習慣の大切さ
我々社会人もそうですが、子どもにとって最も大切な事は、「時間を守る」「挨拶をしっかりする」「服装をきっちりする」「忘れ物をしない」「約束・規則を守る」といった基本的な生活習慣だと思います。
日常生活において「挨拶の仕方」を知らない人間はいないと思います。「時間を守る」事が大切だと思わない人も少ないと思います。私はこういった基本生活力を大切にしていますし、それが出来ない人間は信用できません。
しかし、陸上自衛隊には私の想像をこえるほど、徹底された世界がありました。今回の研修でこのルールを守る事そのものが苦しい経験であり、体がついていかない悔しい経験でした。今、日常生活で弱くなっている「規律」が自衛隊の中にありました。もっともっと基本的な生活を大切にして、自分を律していかなければならないと感じましたし、こういった規律が強化される世の中(教育)になるべきだと感じました。
2.強制から学べる事がたくさんある
わが国の教育現場では、教師が生徒に対して「強制」しにくい環境にあると思います。それは度を過ぎると「体罰」に分類されますし、家庭教育で厳しいしつけがされていないからです。また「強制」は受動的な人間を作り、自ら考え行動する「自主性」を奪うのではないか、という人もいます。でも本当にそうでしょうか?
私は今まで、強制力の中で様々の事を学び、獲得してきたと思います。学力面もそうですが、部活動や、社会に入ってからの活動もそうです。身近な例でいえば100キロ歩行だってそれに当たるかも知れません。そして、強制力の中で継続して頑張った事は、自らの力となっていると思います。
子どもたちには、ある程度の強制力の中で、人間としての生活ルールや、知力(学力・学習力)、体力、徳力(包容力・精神力)を教えていき、その成功体験の中から、自ら学び、実践していく力をつけさせていくべきだと私は思います。
今回、強制されなければ朝3時から歩き続けたでしょうか?極限状態を感じられたでしょうか?冒頭、極限状態から新しいものが見えてくると書きましたが、そこには、「強制」というものが必要な場面もあると感じました。会社での生活の中でも、後輩たちに(もちろん自分自身にも)強制を厳しく与えていく事が必要だと感じました。
3.団体行動からの学び
自衛隊では、情熱に加え、「チームワーク、助け合い」を強調されていました。一人でもルールを破れば、チームとして烙印が押されるわけです。その過程の中で、まわりから助けられる場面もありました。また、チームの中での自分の出来る事を考える機会ともなりました。
「学校」というコミュニティーは、多くの集団行動の中で学べる素晴らしい場所だと思います。子ども同士での学びもありますし、多様な価値観の人間との触れ合いで成長できる部分もあります。「学校」とは、ただ学力をつける場所ではなく、社会で生きていくための人間的な成長が出来る場所だと思います。
私は現在、高等学校を支援する仕事をしています。今回、「生徒」のような立場の体験を通して、今の仕事の大切さを改めて感じる事が出来ました。より一層、「学校を支援する」という現在のスタンスを大切にしながら仕事を頑張りたいと強く感じました。
また、チームで行動するには「コミュニケーション」が大切である事も、今回の大きな学びでした。コミュニケーションを取らないと分からない事がたくさんあり、判断を誤ってしまうからです。私は現在の仕事で同じ課の仲間が38人います。そのリーダーでありながら、今週も博多⇒佐世保⇒名古屋⇒東京⇒岡山(5時間)⇒東京⇒青森⇒金沢と出張に行き、コミュニケーションが取れていません。おそらく相当な迷惑や不安を与えていると思います。あまり活動の枠を広げすぎて、チーム行動に支障をきたさないように注意しなければと感じました。
4.自分を律するという事
極限状態になると人間の弱さが顔を出します。今回の体験入隊プログラムの中でも、私自身の弱さが何度も顔を出しました。その時、チームという制約や、周りからの叱咤激励、強制力などに助けられましたが、もう一つは自分自身を律するという事です。
強制される場面で出来る事は大切ですが、強制されなければ出来ない、というのでは困ります。また、強制される場に自分を置くのが嫌なら、自分自身でルールを作り、自分自身に強制力をもつ必要があります。それが「自律」だと思います。
自分の仕事に置き換えたとき、「好きな事ばかりしてないか」「もっと良いものが作れるのに妥協していないか」など、最低限クリアできていれば、その先で甘さが出ている部分が思い出されます。欲張り過ぎてもいけませんが、「もういっちょ」を積み重ねる事が出来れば、さらに貢献できると思います。亡くなった父がくれた「それがお前の限界か」という言葉を思い出しました。
受験生は、受験勉強で自分自身を律する事で毎日苦しんでいます。しかし、プラス20分頑張るかどうかで、1年経てば凄い量になります。ここを生徒に伝え、生徒が「もういっちょ」を実現できる支援をしたいです。これは学力をつけるだけではなく、学力養成を通して、人間的な「自律心」を支援したいがためです。
5.現在の自衛隊について考える
今回の自衛隊体験入隊の主たる目的は、「国家の安全保障を考え、その最前線である自衛隊の活動を肌で感じる」との事でした。実際に隊員の方のお話しを聞く事も出来ましたので、そこで気づいた事を、永峯先生の講話のときに感じた事と重ねながら考えます。
【自衛隊は本当に強いのか?】
有事のときに、自衛隊は国民を守る事が出来るのか?日本の自衛隊って本当に強いのか?という部分については、私が最も知りたい部分でした。今回の体験でその答えは分かりませんでしたが、少なくとも隊員の方は毎日からだを鍛え、そして国民を守ろうという強い気持ちがある事を肌で感じる事が出来ました。また、こういった訓練をしているからこそ、他国から安全保障を侵されない部分もあるのだろうと感じました。
一方で、服や靴、戦闘機器などにおいて、新しいものが支給されない現状もきかれました。コストとのバランスからそうなっているのでしょう。大きな視点から考えないといけない問題であると思いました。
【自衛隊の仕事って?】
自衛隊の仕事(本来の役割)は、「有事に国を守る事」だと思いますし、私はその部分に期待しています。PKO活動や災害支援活動なども行うわけですが、その心理について聞きたいと思っていました。講話では、PKO活動のお話をいただきました。命令で派遣されているかと思っていましたが、希望制で派遣されている部分は驚きました。また、災害支援活動においても、是非行いたい、という声が多かったです。国民を守りたい、国民の役に立ちたいという気持ちが浸透しており、体も心も素晴らしい方々だと感じました。
【有事の可能性はあるのか?】
これも答えは出ませんでした。隊員の方々もここについては分からないという方が多かったです。しかし、いつ来るのか分からない、ひょっとすると除隊されるまで何も起こらないかも知れないのに、常にその準備・訓練をされ続けている事がすごいと思いました。我々は火災訓練でさえ、それほど本気でしない場合があります。地震訓練だとなおさらです。しかし、その可能性の高さではなく、有事の際の影響の大きさを考え、備えておくという視点が大切だと思いました。とにかく、自衛隊の方々は凄いと、今回の体験を通して尊敬の念が強まりました。
6.日常生活のありがたさ
体験入隊を終え帰宅すると、夕飯が出来上がっていました。「1900までに食べ終え整列」という事もなく、よく噛んで召し上がる事が出来ました。夕食後、お風呂に入りました。湯船に長く浸かり、T字剃刀でゆっくりと髭をそりました。テレビを見て、新聞を読んで、クーラーをつけた部屋で布団に入りました。
日ごろ当たり前と思っていた行動が、とても幸せです。家族にも感謝です。世界にはこういう生活をしている人ばかりではない。その中で現状に不満ばかり言っているという事は何かがおかしいのではないか?と少し考えました。
例えば教育に置き換えると、保護者は教師に高いものを求めすぎてませんか?当たり前に思って子どもの教育が成立するためには、教師の努力があるのに、そこに感謝できていますか?自分たちの家庭教育は完璧なのですか?と思う事があります。自分自身が人に感謝できないなら、感謝される人間にはなれないと思います。
国家の安全保障(自衛隊の準備)、先人の努力も含めて、様々な人があって自分の日常生活がある事を改めて感謝し、そして今度は他人の役に立ちたいと感じました。
7.岡山政経塾のレポート
今回は、体験入隊プログラムの最後に感想を書く時間がありましたので、政経塾レポートは少し時間を開けて提出期限の2週間ギリギリに振り返りを行いました。レポートという「規則」の中で振り返る機会をいただいていますが、100キロ歩行であってもレポートを書いたときと現在では感じる事が異なります。レポート以外のところでも何度も振り返り、自分のものにしていかないといけないと感じました。
一方、岡山政経塾のレポートさえ期限内に提出できない人がいます。これには残念な気持ちがする事も多いですが、正直個人の事だから関係ないと思っている部分もありました。しかし、今回のような研修内容で提出しない人がいたとしたら、その人は何も得るものがないと思います。また、そういった人がいた場合には、チームとして岡山政経塾はダメな集団だと感じ、強く反省したいと思います。
8.まとめ
永峯先生、小山事務局長、2期生山田さんをはじめ、このような機会を作っていただいた方すべてに感謝申し上げます。今回の体験からの気づきを以下のようにまとめ、今後の行動指針とします。
@ 非日常と極限状態を体感できるイベントには積極的に参画する。
A 基本的な生活や規則を大切にし、それが実現できる人間になる。
B 状況に応じて、強制と成功体験を織り交ぜながら、仲間とともに成長する。
C 他者とのコミュニケーションを大切にし、チームワークを強化する。
D 現状に甘んじず、「もういっちょ!」を実現できる自分自身への強制力をもつ。
E 国家の安全保障のために尽力されている自衛隊に感謝の意をもち、自分たちがすべき事については今後考察していく。
F 物事(リスク管理)は起きる可能性だけで判断せず、影響の大きさも考え準備しておく。
G 今の日常生活がある事を当たり前と思わず、感謝しながら生きていく。
以上
|
|
|
|