2021年11月 豊後高田市(まちづくり・教育)現地視察
豊後高田市を訪問して
2021.11.27
松本俊二
(岡山政経塾 20期生)
大分県豊後高田市を今回訪問してまず感じたのは遠いこと。岡山から現地まで片道約450km。車で約6時間を要した。
その距離を移動してまで得られるものは何だろう?と疑念を抱きながら車を走らせた。
行きとは逆に帰路は、また来たいと思うくらい考えさせられるものがあったが、やはり遠かった。
まずはじめに昭和の町を散策。
映画で見るthe昭和の感じが満載の町。それもそのはず昭和30年代の当時のそのままの店舗が軒を連ねており、昭和の町を名乗る20年前までは人の通らない商店街と化していたとか。
そうした中、各店舗の昔ながらの大切にして守ってきたものを目玉にしようと「一店一宝」を掲げ、展示するとともに昭和の頃からの逸品を「一店一品」として販売している。
また何よりも大切に感じる「昭和の商人の再生」として各店主と来店されたお客さまとの会話を通じ心を通わせる昔ながらの商いに力を注いでいることは懐かしさを超えて尊敬さえ覚えた。
今時の若者の行き交う姿も見られたが店主の方々がそうした若者たちのネット依存の現状をどの様にとらえているのだろうか?
ただ言えるのは心を通わせることはどちらかからの一方通行ではいけないことで、例えば店主から投げかけられたボールをキャッチし再び投げ返すことで会話が成立する。その段階で心が折れてしまう店主の方がいなければいいと余計な心配をしてしまう。
実際、自分の店舗でも若い人のみならず、少し年配の方でも尋ねることが苦手な方が目立つようになってきた。結果ネットで調べると言う悪循環が生まれているから、心を通わせることの難しさを痛感している。
しかし、待ち合わせ場所でもあった伯剌西爾珈琲舎の店主は素晴らしかった。話しかける時の間合い、物腰の柔らかな話し口調。さりげなくお店のアピールポイント(水を汲みに行っている、自家製のチョコレート等)を会話の中に入れる点など、見習うべき点が多くあった。
午後からは教育委員会へ移動し教育長、まちづくり地域活力創造課等の担当課長からこれまでの経緯や現状、これから目指すことなどへのお話を伺った。
全ての方のお話から、官民の歯車が上手く噛み合っているからこそ「移り住みたい田舎町ランキング」上位を永年継続していることに納得がいった。
また、その根底にはインフラ整備も必要で、さらにそれを活用するアイデアが上手く実行されているのだと感じた。ハードとソフトの問題はいつの時代にもどの地域でも起こりうることで、どちらかに偏りすぎても上手くは機能しない。ここ豊後高田市はそのバランスが非常にいいことがその魅力につながっているとも感じた。
どの地方都市でも課題の人口問題。
居住者を増やすための様々な施策があることも説明頂けた。
例えば空き家バンク。子育て支援。土地無償提供等。
中でも子育て支援はファミリー層の移住促進にアピールするポイントは高いと思う。当然公的サービスを手厚くするためには相当な予算も必要になる。そこを豊後高田市はふるさと納税を活用し、その全てを子育て支援関連に投入すると聞き驚いた。そこまでの政策の実現、継続は市長や教育長の長期安定による賜物なのであろう。国政でも本来は安定政権であれば、より国民の利益は増えそうなものであるが、残念ながら腐敗を生み特定の個人や企業にのみ恩恵が与えられる悪循環と言える。地方にこそ真っ当な政治の原点があるのではとも感じた。
実際にこうした施策の効果もあり過去5年間で人口は社会増に転じて効果を出している。
居住者を増やすためにはその地域の仕事の問題に対しても手を打ってあった。通勤圏内に大きな工業団地があり、常に求人が絶えることはないそう。また、市内での起業支援や新規就農支援などそうした支援策も手厚い。
教育問題にもその施策はあった。
昭和の町は教育の町をキャッチフレーズに、特色のある学校づくりに力を注いでいた。
その一つは「学びの21世紀塾」で、全ての学校をコミュニティスクールにして、教員、地域住民、保護者が学校運営協議会を形成し、その協議会を通じて一定の権限と責任をもって学校運営に参画するものであった。
「学びの21世紀塾」は3つのカテゴリーで構成されている。
それは 知 確かな学力
徳 豊かな心
体 健やかな体
幼少期からそうした基本方針のもと様々な学びや体験を通じて、自ら学び、自ら考える力を身につけ豊かな人間に育ってほしいという願いを実現する組織になっている。
その3つのカテゴリーのバランスも大切なことだと思う。
その内容は聞けば聞くほど良く練られていると感心させられる。もちろん一律に教えるわけでなく、個々人のペースに合わせたり、劣っているところは夏期冬期の長期休業期間に特別講座を開催したりしてバックアップすることまでぬかりは少ない。
保護者の不安要素までこのような施策で払拭できるポイントは大きい。
魅力あふれるまちづくりとは何か?を考えさせられる今回の訪問であった。
地方都市の抱える諸問題(人口・教育・税収)をこの豊後高田市は中長期のスパンで施策を定め、実施し、更にその効果も見え始めている。組織が機能するとこれほどまでの効果をもたらすのかと驚きを隠せない。
自然あふれるこの地に移住し、働き、子育てをし生活する。さらにその子供世代も都会に出るかもしれないが、良き思い出を振り返り生まれ育った故郷に戻りたくなる。そのような好循環が夢見れる豊後高田市の訪問だった。
また近い年に再訪したいと思う。