はじめに
寂れた商店街に活気を取り戻すことは容易なことではない(容易であれば、日本各地に点在するどこの商店街も活気に溢れている)が、今回視察した高松丸亀町商店街は、私がこれまで知る商店街とは雰囲気が違っていた。老若男女問わず多くの人で賑わっており、視察時はちょうど若者向けのライブイベントも開催されていた。
盛況の要因は、複雑かつ計算尽くされており、たった数時間の視察・講義で紐解けるものではないが、古川理事長の講義を基にその一部を報告する。
1.高松丸亀町商店街再開発(まちづくり)事業のポイント
古川理事長曰く、まちづくりとは
「今、困っていること、これから先、困るであろうことを、今の うちに解決しておくために、住民自らが皆で行う大切な作業」
とのことである。役所でも民間営利企業でもなく、そこに関係する方々が主体とならなくては、思い描くまちにはならない。
その上で、高松丸亀町商店街のまちづくり(再開発)には、幾つかのポイントがあった。
① 商店街に居住者を取り戻す
買い物需要(居住者)を増やせば、供給(商売)はあとからついてくる。一過性の買い物客を呼ぶだけでは、持続しない。
また、店に買いたいものがなければ、商店街に金は落ちない。
高松丸亀町商店街の居住区(分譲住宅)は全500戸とのことである。
② 失敗例から学ぶ
・役所主導→総花的な考え方でしか進められない
マネジメント機能がなく、民間に丸投げする
・民間企業主導→利益・売上優先でまちづくりが目的ではない
etc
失敗した手法を取らず、独自のやり方(『前例主義に捉われない民間主導型再開発』)で事業を進めた
③ 全員同意型
各地権者の資産状況、例えば面積、建物種類(鉄筋か木造か)の違いにより、法定に基づき補償費等も違ってくるため、事業の過程で地域のコミュニティに亀裂が走る可能性がある。
崩壊回避のため、地権者全員の同意による事業とした(条件として、事業で得られる利益を地代の配当率で平等に按分することとした)
④ 税収増の効果
市中心部の活性化(眠っていた土地の活用)により、新たな収入(利益)と新たな税収を生む。それを事前に数字で表し、補助金を活用した(図❶)
(図❶)
2.前例主義に捉われない民間主導型再開発事業
①再開発事業費の抑制
試算では、従来型の再開発、土地を購入し建物を建てる方式であれば、総事業費約200億(土地130億、建物70億)の資金が必要であった。丸亀町商店街では、土地を借りる方式でイニシャルコストを抑え、70億で事業が成立する仕組みとした。
また、70億のうち、市中金融機関からの借入金は2.6億(図❷)、地権者27名で考えると0.1億/名、再開発事業の規模からいうと決して大きな額ではなく、地権者の経済・心理的負担低減につながったと推測できる。
(図❷)
②定期借地権の活用
土地を購入するではなく借りることは先に述べたが、高松丸亀町商店街では、『普通借地権』ではなく『定期借地権』を採用した。その理由として、定期間(60年)経過後、土地は更地に戻されて地権者に返還される、すなわち上物所有者が権利を行使して居座ることができず、地権者の権利を確実に守ることが出来る。
地権者は、先祖からの土地を手放すことなく後に続く子孫に受け継ぐことができ、更には契約期間中、確実に賃料が入るため安心できる契約形態である(60年後、全地権者の合意のもとに建物を存続させるのも当然あり)。
なお、古川理事長によると、借地期間を100年にすることも可能であったが、その時に孫世代がこの商店街をどうするか、どうしたいか考えたらよいとの発想で、60年にしたそうだ。
③『所有』と『利用』の分離
当商店街では、新たに会社(高松丸亀町まちづくり会社)を設立し、まちづくりのプロ集団が商業床を一体的にマネジメントすることで、商店街の興隆を図ることとした。
すなわち、『所有』と『利用≒経営』の分離することにより
→細分化された土地の一体利用
→業種の偏り、合理的でない店舗配置の適正化
→後継者問題の解消
して、ほしいものが見つからない商店の集まりを「ほしいものがある」「足を運びたい」商店街に変貌させたのである。
3.まとめ
古川理事長の話を基に、高松丸亀町商店街の成功要因を解析してみたが、上述以外多くの要素も絡み合い(全てが事前に熟考された上で対策が講じられている!)、また終末医療のことなど触れてない点も多々ある。
それを前提にまとめるとすると、街の『活性化』は下記が常に循環している(させる)こと、日本各地で発展してきた商店街はそれを提供する場であり、高松丸亀町商店街はあらゆる手法を用いて見事なまでにそれを実現している。

以上
※図❶~❸は古川理事長の資料から引用