活動内容

ACTIVITY

2019年5月 丸亀町商店街視察 2019年

丸亀町商店街レポート

2019.05.25

岡本 昌士
(岡山政経塾 18期生)

1.はじめに

 私が何よりも感動したのは,古川康造理事長の講義の素晴らしさである。
 たんたんとしていて,聴衆を引き付けるパフォーマンスなどなかった。
しかし,淀みがなく,わかりやすく,講義のはじめから終わりまで引き込まれた。
今までいったいどのくらいの回数,まちづくりに関する講演をされてきたのだろうか。
人生のうちどれだけの時間を,丸亀町商店街の発展に割かれたのだろうか。
古川康造理事長のような熱意を持ったリーダーがコミュニティ内部に居れば,上手くいかないわけがないと感じざるを得なかった。
そのような人材を発掘し,育成し,みんなで応援する。
コミュニティ発展のためにはそれが欠かせないことを,丸亀町で感じてきた。

2.レポートの内容

 都市再開発法について調査をしたので,調査の過程も記載しつつレポートする。
 丸亀町商店街の都市再開発の特徴は,「居住者を呼び戻すこと」「定期借地権の利用」であるとのことだったが,そもそも都市再開発事業がどのようなレールに沿って進むものなのかを,私は全く知らなかった。
 そこで,まずは,制度の基本を定めた都市再開発法を調べてみようと思ったわけである。私自身がまちづくりの方法論の基礎を学習するために,このようなレポートを書くこととしたが,岡山政経塾の同期生の理想のまちづくりへの一助となれば幸いである。

3.都市再開発法についての調査

(1) 法律はどこで読めるか

分冊六法全書に掲載されていたが,インターネットで検索すれば,都市再開発法の全文を読むことが可能であった。

(2) ふんわりとした概略の把握
 まず,法律を読む前に,制度の概略について,おおよその見当をつける。
 私は,以下のように見当を付けた。
地権者たちが,都市再開発法に定められた制度を利用して再開発をすると,地権者たちには補助金が注入されるなどの経済的メリットがあり,大規模な開発事業をすることができる。しかし,その一方で,土地の活用方法が公共性をもつようにある程度制限される。これにより,地方自治体や住民に必要な土地活用がなされることになる。
このような見当が正しいか間違っているかを,法律を読みながら確認し,修正しながら,より具体的に理解していく作業に入る。

(3) 立法目的の理解
 なんのためにこのような法律が制定されたのか(立法目的)は,第1条に記載されている。第1条は最も重要なので,全文を抜粋すると以下のとおりである。
「この法律は,市街地の計画的な再開発に関し必要な事項を定めることにより,都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新とを図り,もって公共の福祉に寄与することを目的とする」
 3つの難しいキーワードが記載されている。①高度利用②都市機能③公共の福祉である。以下,これらを噛み砕いて言い換え,具体例を挙げて,自分なりに理解してみる。
 ①高度利用とは,土地の面積は限られているから,需要に最もマッチするように土地を活用するという意味である。例えば,丸亀町商店街では,1,2階をテナントにしてその上を居住エリアにした高層マンションを建設したことは,土地の高度利用をしているといえる。
 ②都市機能とは,都市全体として発揮するさまざまな社会的な機能のことである。例えば丸亀町商店街では,高齢者向けのマンションの2階に医療機関を配置することで,高齢者医療都市という機能を備えている。また,高級ブランドの路面店を密集させるなどして,観光都市としての機能も備えている。
 ③公共の福祉とは,特定の個人や集団だけでなく,ひろく社会全体の利益となることを意味する。例えば,丸亀町商店街では,アーケードの道が広くて歩きやすかったり,A街区の広場や丸亀町グリーンで様々な催しがなされたりと,商店街の地権者以外の利益になるような整備がされており,公共の福祉に寄与しているといえる。
 
(4) 地権者たちへの経済的メリット
 国が,上記のような目的で立法をしたことはなるほど理解ができた。しかし,都市再開発法の制度の利用を検討する主体は地権者なので,まず,地権者への経済的メリットが法律上きちんと定められているのかを確認したい。補助金等がなければ,再開発事業など夢のまた夢であるから心配である。
 そこで,都市再開発法の目次をざっと見ると,それにあたりそうなものとして「第五章 費用の負担等」というものがある。第五章を見ると,そのうち,122条と123条において,地権者が施行者になった場合に経済的メリットを受けられる内容が定められていた。
 122条では,地方公共団体と国が,施行者に対して費用の一部を補助できることが定められており,123条では,国と地方公共団体は,施行者に対して,事業資金の融通・あっせん・その他の援助に努めることが定められている。
 また,121条には,再開発によってできる広場などの重要な公共施設の整備費用については,公共施設の管理者になる者に負担することを求めることができると定められている。
 とりあえず,地権者としては安心であろうか。

(5) 施行者・施行区域
 いや,まてよ。よく読むと,定められているのは,「地権者」ではなく「施行者」に対する経済的メリットである。そこで,施行者にはどうすればなれるのか調べる必要がある。施行者はどうやら都市再開発法においては基本的な用語のようである。基本的な用語は初めの方に定義が記載されていることが多い。都市再開発法では2条に様々な用語が定義されていた。
「施行者 市街地再開発事業を施行する者をいう。」(2条2号)
そして,これに引き続き,2条の2において,どのような者が,どのような区域の土地について第一種市街地再開発事業を施行することができるかが定められていた。以下にまとめる。
①施工できる者(2条の2)
 ・土地の所有権,借地権を有する者,または,これらの者の同意を得た者(1項)
 ・市街地再開発組合(2項)
 ・一定の条件を満たした株式会社(3項)
 ・地方公共団体(4項)
 ・独立行政法人都市再生機構(5項)
 ・地方住宅供給公社(6項)
 例えば,丸亀町商店街A街区市街地再開発組合は,「市街地再開発組合」である。
②施工できる土地の区域(2条の2第1項)
 ・高度利用地区
 ・都市再生特別地区
 ・特定用途誘導地区
 ・特定地区計画等区域
 例えば,丸亀町商店街のA街区G街区は「都市再生特別地区」になっている
都市再開発法が利用できるかどうかに関わるため,これらの地区・区域に指定されることは,とても重要であるといえる。 

(6) 市街地再開発組合(8条~50条)
 集団の意思を取りまとめて,ものごとを動かすためには,一般的に,組合や会社などの形を用いるのが便利である。そのため,丸亀町商店街においても,市街地再開発組合を設立したものと思われる(そのほかにもメリットがあるはずだが,調査しきれなかった)。
では,再開発組合市街地再開発組合を設立するには,どうすればよいか?
要約すると,以下のとおりである。

ア 再開発事業予定区域内の5人以上の地権者・借地権者が共同して①定款②事業計画を定めて,都道府県知事の認可を得れば組合を設立することができる(11条1項)
イ ②の事業計画には,ⅰ施行地区,ⅱ設計の概要,ⅲ事業施工期間,ⅳ資金計画を定めなければならない(12条,7条の11)
ウ 組合設立認可の申請をしようとする者は,施行地区内の宅地所有権者すべての者のうち3分の2の同意を得て,借地権者すべての者のうち3分の2の同意を得る必要がある(14条1項)。
エ 都道府県知事は,②の事業計画が第一種市街地再開発事業に関する都市計画に適合しないと認める場合には,組合の設立を認可しないことができる(17条3号)。

このように手続きを並べると,簡単なように思えるが,現実には,地権者の数が多くなればなるほど,ウの同意を得るのは難しくなるのではないかと思われる。
丸亀町商店街の事例では,地権者が多かったにもかかわらず,②の事業計画をしっかりと練って,全ての利害関係者に利益がでるような内容の計画を作り上げ,丁寧に説明したことにより,施行地区内の権利者全員の同意を得ることに成功している。
エの「都市計画に適合」する内容にするには,どのような事業計画にすれば良いのかという点も,大きな問題である。都市計画の内容に関しては,2条の3,3条,4条に定めがあり,公共の福祉に寄与する土地の高度利用ができるような都市計画を定めるものと思われる。たとえば,大規模な建物を建てなければならず,敷地内に公共施設を含むようにする内容となるのではないかと思われる。

(7) 権利変換(70条以下)
組合の設立が認可されると,認可があった旨公告される(60条2項2号)。この公告があると,第一種市街地再開発事業の特徴である「権利変換」の手続きが始まる。
  権利変換とは,平たくいうと,地区内に土地や建物に関する権利を持っている人に,それに見合う価額(等価)で,新しく建設されるビルの床とそのビルの敷地に関する権利を置き換えて与える手続きのことである。権利変換によって与えられるビルの床のことを,不動産用語で「権利床(けんりしょう)」と呼ぶ。
  丸亀町商店街のケースでは,地権者に権利床が与えられる。
  これに対し,ビルを建てた施工者が取得するビルの床のことを「保留床(ほりゅうしょう)」と呼ぶ。
  丸亀町商店街A街区のケースでは,再開発組合が保留床を取得しているはずである。