1. はじめに
「しあわせなコミュニティ」とは何か・・・
福武塾長が定義する「しあわせなコミュニティ」とは「お年寄りの笑顔で満たされるコミュニティ」であると話される。では、私はどう考えるのか。私は、「そこに住んでいる方の心も身体も健康で笑顔があふれるコミュニティ」それが「しあわせなコミュニティ」と考える。そして「しあわせなコミュニティ」をつくるためには、行政・企業・地域が連携しシナジー効果を生むことがひとつ重要なキーになるのではと考える。
2. 島々の概要と歴史
瀬戸内国際芸術祭でも知られ、前回開催された12の島と2つの港を舞台に2016年には100万人超の観光客が訪れ、経済効果も149億円¹⁾と言われている。また、今回の例会で訪れた直島では過去5年の人口・世帯推移をみても減少の幅も緩やかである²⁾。今ではアートを通じて注目される島々であるが、過去には様々な問題を抱えていた。直島は大正時代から続く精錬所の亜硫酸ガスで緑が失われた島となり、豊島は1970年代から始まった産業廃棄物不法投棄の現場となり、犬島は銅精錬所として1909年から閉鎖までの10年間は人口3000~5000人であったが現在では平均年齢75歳、人口50人以下の限界集落となっている。
3.ベネッセアートサイト直島
3-1アートと企業
「ベネッセアートサイト直島」は1980年代より直島・豊島・犬島の3島を舞台にベネッセホールディングスと福武財団が展開しているアート活動の総称である。
そもそもなぜ、瀬戸内海に浮かぶ島々で展開されたのだろうか。
福武書店創業者である福武哲彦氏は「瀬戸内海の島に世界中の子供たちが集えるようなキャンプ場を作りたい」と考えていた。他方で、近代都市産業の隆盛の陰で瀬戸内特有の自然を失った直島には穢れのイメージが伴い、三宅親連元直島町長は「島の南側一帯を、文化的、健康的で清潔な観光地として開発したい」
という思いがあった。³⁾その二人の思いが出会い、直島南部の文化・リゾートエリア構想がスタートした。しかし、その直後に福武哲彦氏が急逝したため、福武總一郎塾長が後を継ぎ、その後何度も直島や瀬戸内海を訪れることで、経済至上主義社会は新しいものを生み出すために既存のものを破壊する危険なアイデアである。すなわち、「在るものを壊し、新しいものを創る」と考えた。
そこで過度な近代化と都市集中化へのレジスタンス活動として、現代アートと日本初の国立公園である瀬戸内海の風光明媚な自然を用いて、「しあわせなコミュニティ」づくりを具現化していき私たちの心の奥にメッセージを放っている。また、アートや建築物が都市から訪れる若者と地元のお年寄りを媒介し、お年寄りの笑顔をつくっている。アートには、世代や背景の異なる人々を集める力があることを物語っている。
「ベネッセアートサイト直島を展開するにあたっては、島全体が良くならないと“ベネッセ”(=よく生きる)ではない。だから島民の皆さん、島の自然環境を第一に考え、その上で芸術との融合を志した。」⁴⁾と2011年当時の直島町観光協会会長のインタビュー記事がある。ここからも、「在るものを活かし、無いものを創る」という福武塾長の考えが受け継がれている。この考えは島の歴史や自然、住民を知り・見て・聞いて体感することで相手を尊重でき、その上でよりしあわせになる方法を考えていくことに繋がると感じた。
3-2 アートと地域活性
「在るものを活かし、無いものを創る」
このコンセプトを基本とした家プロジェクトは、空き家になった古民家等を改修し、アーティストが作品化したもので生活の場でもある本村を散策しながら鑑賞するものである。生活動線上で来島者と住民とが出会い、都市と地方、若者とお年寄り、住む人と訪れる人とが交流する中で、新たなコミュニティの在り方が生まれているとされる。⁵⁾
家プロジェクトの代表作「角屋」では、作品家屋の床に散りばめられたLEDのカウンター一つ一つの所有者に島民がなって作品に参加することで、アートに対する拒否感を払拭し、一連の取り組みに取り込まれる形となった。他作品でも島民による資材提供等のコミュニティ参加や交流が生まれたとされる。
家プロジェクト「角屋」 出所:ベネッセアートサイト直島HP
(http://www.benesse-artsite.jp/arthouse/kadoya.html)
3-3 アートと行政の取り組み
直島におけるアート事業に対する直島町の関わり方は、後方支援型であり、第3セクターなどの形で事業に参画して積極的に表立った施策を打ち出したり、資金を拠出して事業に参画したりするのではなく、まちづくり景観条例制定による景観保全等に徹してきたとされる。⁶⁾このことは、ベネッセアートサイト直島を尊重し、信頼があった故に後方支援型がとられこのプロジェクトを支えてきたのではないかと考える。
4.アートを通じたシナジー効果
ベネッセアートサイト直島での活動は、強い信念を持った一人の人間(=福武塾長)と一つの企業(=ベネッセホールディングス)が負の遺産を抱えた島々を、現代アートを用いて「しあわせなコミュニティ」をつくるという、まさに発想の転換が島々の地域再生と住民のしあわせにつながっているのではないか。30年経った現在も当時の志がそのまま島々に根付き受け継がれている。そして国内最大の芸術祭も展開され上述もしたが大きな経済効果をもたらし、島の人々の元気と笑顔を取り戻したのではないだろうか。
5. おわりに
福武塾長が講演の中で、「個性と魅力のある小さな集合体をつくる」「希望とやり続けることでどうにかなる」「世のため人のためにやり続けることを見つけてもらいたい」とおっしゃった言葉に背中を押していただいた。
この言葉を心に留め、住民の生活動線上で住民と一緒に考え、時には様々な得意分野を持つ関係先へ繋げてシナジー効果を起こし、私が目的としている「一人でも多くの人が心身ともに健康で笑顔があふれる暮らしができる」コミュニティづくりを行っていきたいと改めて思った。
最後になりますが、福武塾長をはじめ貴重な体験や学びの機会を与えてくださいました関係者の皆様に心より感謝とお礼を申し上げます。
参考文献
1)「瀬戸内国際芸術祭2016」開催に伴う経済波及効果‐日本銀行(https://www3.boj.or.jp/takamatsu/econo/pdf/ss170111.pdf)
2)直島町統計情報
(http://www.town.naoshima.lg.jp/government/gaiyo/statistics.html#cmsDF8C9)
3)笠原良二「現代アートがもたらした島の誇りとアイデンティティー」
(https://www.jcca.or.jp/kaishi/245/245_toku5.pdf)
4)公益財団法人日本交通公社「世界が注目する“徹底的にアート”な島」における直島町観光協会会長インタビュー
(http://www.jtb.or.jp/report/inbound-naoshima-2011)
5)ベネッセアートサイト直島 HP
( http://benesse-artsite.jp/art/arthouse.html)
6)西孝「観光集客型ミュージアムとローカル・コミュニティ-直島の事例からみたその可能性と課題-」