活動内容

ACTIVITY

2018年 直島特別例会レポート(直島・豊島)

福武語録

2018.08.04

紺谷 百世
(岡山政経塾 14期生)

1. はじめに

 私は今年の4月に岡山から東京に転勤した。平日は満員電車に乗って通勤し、休日はどこに行っても人の海。東京に転勤してからの4ヶ月間で、私は心身ともに疲弊した。
 そんな中、今年も日本が世界に誇る現代アートの島・直島と豊島を訪れ、福武塾長の講演を拝聴した。人の海に溺れて疲弊していた私も、瀬戸内のきらきらと輝く穏やかな海と心揺さぶるアートのおかげで、心身ともにリフレッシュすることができた。
 何度も行っているはずなのに、毎回違う印象を受けるアート達。特に今回は、地中美術館にあるウォルター・デ・マリアの作品の球体に感銘を受けた。天井から差し込む光で表情は変化するものの、部屋の真ん中に堂々と鎮座して周りの環境の変化にも動じない確固とした安定感。私の心は環境が変わって大きく動揺しているのに、この球体は周りの環境が変わっても動じない。私も動じない心を持たなければ、真の自分を取り戻さなければと強く思った。
 今回で4回の直島合宿参加となり福武塾長の講演も数回拝聴しているが、今回の私は都会で疲弊していたため、経済偏重や過度な都市への集中を問題視する塾長の考え方にはこれまでで最も共感をした。

2. 福武語録

 福武塾長の講演を何度か拝聴し、地域づくりや人生に関する考え方を学んだ。以下に福武塾長の考え方で特徴的なものを、「福武語録」としてまとめたい。

①過度な近代化と都市集中化への“レジスタンス”
福武塾長は経済至上主義により直島や豊島等の自然が破壊されたことに憤りを感じていた。瀬戸内海の豊かな自然の中に、メッセージ性の強い現代美術を置くことによって、レジスタンスという考えを具現化した。自然こそが人間にとって最高の教師である。

②経済は文化の僕
 経済は人々を豊かにする手段であって目的ではない。目的はあくまでも「文化」だ、という考え方である。その考え方を推し進め、福武財団はベネッセホールディングスの株主となり、企業活動から得られた配当金を原資としてベネッセアートサイト直島を運営している(=公益資本主義)。

③在るものを活かして無いものを創る。
現代文明は「在るものを壊して無いものを創っている」。それとは逆に、ベネッセアートサイト直島は土地の自然や歴史を大切にし、すでに在るものを活かしながら、新たなものを創り出している。

④よく生きる=幸せになるには「幸せなコミュニティに住むこと」。
幸せなコミュニティとは「人生の達人であるお年寄りの笑顔があふれているところ」。直島は都市の若者と島のお年寄りをアート・建築が媒介することで、お年寄りを笑顔にしている(=直島メソッド)。島のお年寄りの中には、74歳で京都から来た26歳の女性とカップルになったおじいさんもいる。

⑤日本が生き残る方法は「個性と魅力のある地域の集合体」になること
 各地域には固有の魅力がある。地域がその魅力を生かしてまちづくりに取り組めば、日本は生き残ることができる。町内会単位でも良いので、地域を自分たちでよくしていくことが必要。

⑥この国がよくなるためには地方分権が必要
 日本は中央集権国家である。中央集権国家は国が何でも決める。一方で、地方分権では判断は人々に委ねられる。日本は中央集権国家であるため、日本人は何も考えていない。日本人が主体性を持って国を良くしていくためにも、地方分権が必要である。

⑦日本では国益は考えられても国民益は考えられていない
 日本の政治はお金で何でも解決できるという慢心があるため「国益」が重視され、「国民益」は軽視されている。食糧自給率の低い日本では、食糧は輸入に頼っているが、お金がなくなったら食糧が買えなくなってしまうという危機を孕んでいる。生きること、すなわち食糧・エネルギーを保障するのが政治の役目である。

⑧田舎をいたわる
 日本は田舎をバカにし、放置しているが、いたわらないと日本は滅びる。なぜなら、田舎は食糧の供給源だから。田舎に住んでいるひとはタフで生活力がある。都会にいる人はお金がなくなると干上がってしまう。

⑨やりたいことがあったら本気で熱を入れてやる、70歳までに成就する
 福武塾長は30年以上前から直島の開発に携わっている。大地の芸術祭の総合ディレクターである北川フラム氏は、芸術祭の開催について住民を説得するため、2,000回も講演して回った。やるべきもの=世のため、人のためになることを見つける。そして、しんどくてもやり続け、70歳までに成就する。

⑩世界を知る
 世界を知らないと地域で何をやるべきかが見えない。日本にいたら世界で通用する考え方は養われない。日本人は他国の言語を話せるようにし、諸外国の人々と仲良くなるべき。そして様々な考えを聞いて、自分の判断基準を持つべきである。できれば外国人と結婚したほうがよい。

3. おわりに

 私は直島合宿の後、新潟県越後妻有地区で開催されている「大地の芸術祭」を訪れた。ベネッセアートサイト直島は瀬戸内の島々が舞台であるが、大地の芸術祭は里山が舞台となっている。大地の芸術祭の基本理念は「人間は自然に内包される」である。私はこの夏、海や里山の中で過ごすことで、自分は自然の一部であり、自然の中で暮らすことが自然なのだと感じた。コンクリートジャングルの中で、人の海に紛れて暮らすことはやはり不自然なのだと思う。「よく生きる」という意味を、また人生の豊かさとは何かを肌で体感した夏であった。