活動内容

ACTIVITY

2018年 直島特別例会レポート(直島・豊島)

「しあわせなまちづくり」とは

2018.08.04

本村 哲治
(岡山政経塾 5期生)

はじめに

 私にとって直島・豊島を訪れるのは10年ぶりのこと。初めて訪問したのは今から13年前。当時、豊島の産業廃棄物の山を見て衝撃を受けたのが今もなお鮮明に目に焼きついている。「便利さ、効率、快楽を追い求めた結果としてのゴミ」。すべて私たち一人一人が普段意識もせず快適な生活を行うことで生み出してきたモノだ。一見、快適な生活=幸せな生活にも繋がっているように感じていたが果たしてそうなのか。
福武塾長の講演の中にもあった「しあわせとは何か」。そして私自身のテーマとなっている「しあわせなまちづくり」とはどういうものなのかを3つの視点から自分の中で再考する機会となった。

1. 島民の方からの視点

今回の合宿では、島民の方から直接現場のお話を聞いてみたいと思っていた。初日、地中美術館の外を清掃されていた濱崎さんという方と約1時間に渡って様々なお話や意見交換をすることができた。その中で印象的だった言葉が二つ。
「島にとって一番大切なのはアクセス」
「退職して帰ってきて一生この島でこの仕事をして生きていきたい」
 私自身岡山駅前という環境でビジネスやまちおこしなどの地域活動をさせていただいている中で、公共交通の問題も含めたアクセスについては近隣企業や岡山市、岡山電気軌道、バス会社などとも協議を重ねている。そうした中でいかに岡山駅と中心市街地、近隣観光地とのアクセスをワンストップで行えるかという問題だけではなく、直島や豊島、犬島といった瀬戸内の島々も含めもっと広い視座を持った交通網の整備について地域として考えて行かなければならないと改めて実感した。
 また、二つ目の「退職して帰ってきて一生この島でこの仕事をして生きていきたい」という言葉には「しあわせとは何か」「しあわせなまちづくりとは何か」というテーマについての大きなヒントを頂いたように思う。高齢者の方が笑顔でこの島に、町に住み、働いて一生を過ごしていきたいと言わせる魅力が直島にはある。そしてそれは直島だからこそできるのか、直島でないとダメなのか。我が町に落とし込んでいかに高齢者の方が笑顔で暮らせるまちづくりができるかが私の新たなテーマとなった。

2. 現代アートからの視点

 地中美術館の訪問は今回で3回目。豊島美術館は初めての訪問となった。今まではただ自分が感じるままにその時気づいたことを心に留め置いてきた。ただ、今回は今までとは違った視点で、あえて美術館の学芸員の方に作者の背景や作品への思いを聞いたあと自分なりに感じ、掴むことを意図して回った。その中で今回は私が好きなジェームズタレルではなく、ウォルターデマリアの作品について特に感じたことがあった。学芸員の方によるとウォルターデマリアは作品についてタイトルも、感想も述べていない。ただあるがままに観た人に感じてほしい。だからあえて作品名も感想も述べていないのだそうだ。私が今回気づいたのは作品の球体に移る天窓の空だった。様々な位置や角度から天窓の空は球体の上部に映し出される。形や大きさを変えながら…。
私がこの作品から感じたのは「多様性」。「豊かさ」とは「多様な文化や価値観を受け入れることだ」という話を耳にすることがある。「空」に同じものは無い。時や季節の移り変わりにより様々な色、形に変化していく。今回ウォルターデマリアの作品からお金やモノといった物質的な「豊かさ」ではなく、時間や空間、感情や価値観といった目に見えない多様なものの中に「しあわせ」に繋がる「豊かさ」があるのではないか。そして、そういう「豊かな時間軸、空間をもったまちづくり」を行っているのが直島であり、豊島ではないかと感じた。

3. 福武塾長の講演からの視点

 福武塾長の講演の中で「幸せ」とは何かという問いかけがあった。私は幸せという字は実はあまり好きな漢字ではありません。「幸せ」という字は「辛い」という字と似ているから。これには諸説あるのですが、元々「幸せ」という字は象形文字で「手かせ」という意味から来ているという説があります。こうした意味合いから、私は普段「しあわせ」という字を漢字で表すのに「仕合わせ」という字を使います。福武塾長の「しあわせ」とは何かという問いに対して私なりの答えは「心を合わせる、通わせること」が“しあわせ”なのではないでしょうか。美味しいものが食べられた。いい車に乗った。いい服を買った。こうした物質的な欲求を満たすことでも幸せを感じることはできるでしょう。しかしそれはひと時の事だと思うのです。そうではなく、家族や友人、知人、地域の人や自分を取り囲んでくれている周りの人と「心を合わせ、通わせて一緒に時間をかけて共に歩んでいく」ことが本質的な意味での「仕合わせ」なのではないでしょうか。そして実はそうした活動を長年にわたって継続して取り組んでいるのが直島であり、豊島なのではないでしょうか。なぜ直島・豊島を何度も訪れたくなるのか。そうした答えもここにあるのではないかと思います。

最後に

 今回10年ぶりに直島・豊島を訪問しこれまでとは全く違った感情や想いを抱くことができました。直島・豊島特別例会を開催頂きました福武塾長、小山事務局長、ご案内頂いた西美さん、一緒に議論を交わした17期生、OBのみなさま。本当にありがとうございました。最後に福武塾長のクルーザーから見た豊島の産業廃棄物処理場の光景が目に焼きついて離れません。私はクルーザーの中で仲間と談笑しながらも、心から笑うことができませんでした。10年前と形を変えた豊島の産業廃棄物処理場は私たちに「このままの価値観でいいのか」と問いかけてくるように感じるのです。今の私にできることは本当に限りがあるですが、未来に向かって新しい循環型社会の構築に取り組んでいくのは私たちの世代の使命ではないかと強く感じています。そしてそれが「しあわせなまちづくり」にも生かせると信じて…。