2013年 100km Walk

 
◆酒井 千歳(岡山政経塾 12期生・ゼッケン:309)

晴れの国 おかやま 24時間・100キロ歩行レポート             2013年5月10日
「支え続けたい人、支え続けてくれた人」



 制限時間の27時間15分後、平成25年5月5日13時15分。
 後楽園のゴール地点に立つ事ができました。
 支えて下さった方々、共に100キロの道のりを歩んだ友、全員完歩を誓った12期の仲間・・・そこにはいなかったけれど、沢山の方の笑顔が浮かんできて涙がとまらなかった。
 ゴール地点には澄み渡った青空が広がり、あたたかい日ざしと、鮮やかな緑が迎えてくれた。



●今年の100キロ歩行の目的

岡山政経塾が掲げている目的。
 24時間以内で100キロを自己責任で、無事完歩する事。
 限界を超え、未知の領域に挑戦し、勇気と精神力を養う。

私はこの大会目的に加え、
大好きな仲間と、大好きなおかやまの、美しい自然を抱きしめ、
爽やかな空気を吸い込んで、
歴史を感じながら、
夢を語り合い、感謝を胸に
一歩一歩前に進みます。

笑顔を絶やさず、必ず完歩します。
一緒に挑戦しようと誘った5人の仲間、そして岡山政経塾同期の15人の仲間が全員完歩を達成する。
そして、大好きな人と手を繋いでゴールする!・・・と誓いを立て、準備を始めた。



●3つの準備

 (1)心の準備

 まずは、目標設定。昨年の初チャレンジ時は、テーマを「父の還暦祝い・親子100キロ歩行」とし、100キロを楽しく歩き、親子3人一緒にゴールテープを切ることを目標として掲げた。その為に、何としても完歩し、父には60代をますます飛躍させてほしいと思った。また、離れて暮らす妹を含めた親子3人で同じ時間を共有できることも貴重なことだと思い挑戦。沢山の方に支えられ、無事、親子3人で完歩を果たせた。

 さて今年は、「一個人としての挑戦」、そして「塾生の一員としての挑戦」、私の中に二つのテーマがあった。一個人としては、昨年の感動を今度は友人と共に味わいたいと思い、一緒にチャレンジしないかと誘った5人の友と完歩を果たすこと。そのために、私は何ができ、どう動くのか。そして、塾生の一員として、先輩方が達成されたように同期全員完歩を果たす為、私の責任を行動としてどう示すのか。(これら事に関しては、スタートをきってからもずっと考えながら歩いていた)

 自宅の壁には100キロ歩行の申込用紙を貼り、後楽園のゴールテープを切るイメージを毎日繰り返した。下見は通算4回(反省点としては90キロ地点以降の中原橋付近の土手を降り、住宅地に入った箇所を細かくみておく必要があった)。友人達、そして塾生同士との事前の情報交換。そしてメールなどで励まし合い、志気を上げていくことも準備のひとつとして意識して行った。また、サポーター会議にも参加させて頂くことで、この2日間の為にどれだけの人たちの時間と量力と想いが込められてきたのかを肌で感じた。

 (2)身体の準備
 
 前年同様に練習会には週1回は必ず参加することにした。また、日々の生活の中では仕事柄比較的歩いているほうだと思うが、歩くフォームを意識して生活した。
 食生活もバランスの良い食事を心がけ、主食は雑穀入り御飯、野菜を摂る量を増やし、水分をたくさん摂取(おかげで体調が今までになく良い)。

 (3)物の準備

 リュックの中身。鎮痛剤、湿布、エアサロンパス、テーピング、ヘッドライト、夜行たすき、夜間用の着替え(ヒートテック、Tシャツ)、水分500ml×2本、10期生藤井さんから頂いた愛情おにぎり2個、おやつ(お煎餅、飴等)。
 服装。帽子(UV対策、日射病対策)、Tシャツ、アームカバー(UV対策)、半ズボン(スカート)、サポート機能付きタイツ、サポート機能付き靴下。
 靴。昨年の相棒のアディダスのシューズ。
 その他(物ではありませんが)。今回、友人の井手友子さんが特製ドリンク、おにぎり、キュウリ漬、果物、豚汁の炊き出し、マッサージ等、24時間(以上)全面サポートして下った。



●予定通りにいかない

 約50キロ地点の伊里漁協にて、先に進む友人の中川茂治さん以外の5人が集合。時刻は9時30分。足に出来た豆がつぶれた友人、不安で涙ぐむ友人、身体の痛みと戦う友人・・・。ここでペースを落とすと、完歩の可能性は低くなる。しかし、閑谷学校までの真っ暗な上り坂を、友人を残し歩くことは出来ない。私にはまだ体力は十分残っていた。出来るだけ前向きな話をし、笑い、友人のリュックを背負って前だけを向いて歩いた。
 閑谷学校を通過し、共に歩く友人の岸本直子さんが勤務する病院を通過する頃、岸本さんは元気を取り戻し、私は安堵感と彼女のタフさを目の当たりにしに「やはり完歩!」と決意を更に強くした。また、共に練習を重ねた友人の船津友里さんは決して弱音を吐かずに黙々と歩いた。彼女は絶対に完歩するという強い意志を持っており、私も彼女は絶対達成すると確信していた。そして、サポートして下さった井手友子さんの旦那さんである井手達成さんは、名前の通り淡々と前へ前へと進んだ。
 そして、スタート地点から共に歩いてきた斉藤広一郎さん。彼は被災地である気仙沼出身で、広島から100キロ歩行の挑戦をする為に来ていた。ヘルニアを抱え、トレーナーから50キロが限界と言われていた。しかし、政経塾の復興支援の取り組みを知り、皆さんに感謝したいという思いがあり『負げねぇぞ 気仙沼』と書かれたTシャツを着、120キロを目指す意気込みで挑んでいた。60キロ地点を越え、斉藤さんの膝裏の痛みが増す。70キロ地点で井手友子さんのマッサージを受けるが、苦痛の表情・・・。ここで岸本さん、船津さんには先に出発してもらう。



●葛藤

 80キロ地点手前でとうとう朝を迎える。少し前を井手さんが歩く。明らかに前年に比べペースが遅い・・・。このままだと、完歩の責任が果たせなくなる。私の体力はまだ残っているから、先を行くべきか。隣にいる斉藤さんの腕を支えながらの葛藤が始まる。
 政経塾12期生の一員として、全員完歩を達成させる!ずっとずっと胸にあった目標。
何度も脳裏に同期の仲間たち、そして、小山事務局の顔が浮かんできた (退塾届けも・・・) 。私の未完歩(リタイア)が大切な仲間の全員完歩の目標を叶わなくさせてしまっていいのか。
 悔しくて、腹立たしくて、申し訳なくて。
 一体私はどうすべきなのだろうか・・・。
そんな私に、斉藤さんは「今からだったら間に合う。先に行ってゴールしていいから」と言ってくれた。しかし、「先にゴールしたとして、私は満足は得られない。私は最後まで諦めずにゴールを目指し続ける。大切な人を支え、大切な人と手を繋いでゴールしたいと思っている。」そう伝え、覚悟を決め、最後まで彼を支えきり一緒に進むことを選んだ。
 どうすべきかではなくて、どうしたのいかを考え抜いて出した私の答え。
 


●『失敗』という豊かな経験

  私たちは90キロ地点で9時50分頃、このまま進んでもタイムアップになるとのことで、リタイアを宣告された。リタイア宣告を受け、それでも前に進みたかった私たちは小山事務局長に電話をかけ、タイムアップ後もゴールを目指し進ませて下さいと無理なお願いをした。電話の向こうでは、小山事務局長が全てを悟って下さっていた。
 その後は気力だけで歩く斉藤さんを支え、チャレンジャーの姿の無くなった土手の上を歩き続けた。大会終了時刻を過ぎても歩き続ける私たちに政経塾OBの山本さん、藤井さん、佐藤さん・・・沢山の方が駆けつけ、声をかけ、サポートをして下さった。この時にはオレンジ色のジャンパーを見るだけで、条件反射で涙が出るようになっていた。
 13時30分、法界院手前の三軒屋本町公会堂(95.5キロ地点)で、斉藤さんの体が限界に達し、彼の意思で歩行を断念した。
 予想していなかった、今回の『失敗』・・・。
 OB山本さんの車で95.5キロリタイア地点から後楽園に向かう道中。自分の選択や行動を振り返り、至らなさや未熟さを感じた。と同時に、昨年の完歩の時を遥かに上回る感謝の思いが溢れてきて涙がとまらなくなった。



●仲間の有難さ


 閉会式がとっくに済んだ後楽園では、先に完歩を達成した4人の仲間とサポートし続けてくれた井手友子さんが待ってくれていて、『100キロ歩いてよかった!支えてくれてありがとう』と言ってくれた。そんな仲間を見て、私は自分が一年前完歩した時よりも、何倍も嬉しく満足感を感じた。
 そしてその夜、事務局に行き、歩ききった12期生の仲間たちのことを小山事務局長から聞き、サポートをしてくれた同期の入野さんのことを思ったとき、出会って2ヶ月弱の仲間達のことをとても誇りに感じた。



●1日遅れのゴール

 翌日。「残り5キロを歩こうと思う」と言う斉藤さんと共に、三軒屋本町公会堂から後楽園を改めて目指した。
 5月5日13時15分、タイムアップ時刻から27時15分後…後楽園のゴール地点を手を繋いでゴール!!
 一生忘れられない瞬間!




●感謝

 自分が本当に大切にしたいことは何かを考え、それを貫かせてもらい、私は13時30分、95キロ地点リタイア=失敗という勲章を今年得ました。この勲章は決して自分ひとりでは得ることのできなかったものです。この勲章には、多くの気付き、課題、そして感謝が詰まっています。
 政経塾の関係者の皆さん、サポーターの方々、医療サポートを引き受けてくれた友人の弟さん、沿道の方、たくさんのチャレンジャーの方、2年連続で唐揚げをもって来てくれた先輩・友人・家族、岡山の自然……とても数え切れない『感謝』が今あります!
 本当にありがとうございました!! 

 来年は時間内に必ず完歩します!