2008年６月　岡山政経塾 体験入隊 特別例会
　
◆大原　祥正(岡山政経塾　六期生)

『身近な事と大義』
　　　2008年、自衛隊日本原駐屯地への体験入隊

I. はじめに
　ゴラン高原。場所もその場所のおかれている現状もある程度理解していたつもりであった。しかし、PKOに派遣された自衛官の方から地形の立面図を見せて頂き、イスラエルとの国境付近の高低差に唖然とした。国境を接した隣国と必ずしも友好関係が築かれていない現状があると、軍事力の強い国は軍事上重要な場所を占領する。ここではイスラエルとシリア両国の衝突を避けるため自衛官がPKO活動の一環としてUNDOF（国連兵力引き離し監視隊）にて後方支援を担当している。
　大陸から日本を見た地図を見せて頂いた。千島列島・北海道が左側。九州・沖縄は右側に描かれている。こんな地図は今まで見たことが無かった。大陸から見ると、陸続きの国境が無い日本列島は、日本の排他的経済水域よって、大陸から太平洋への進路を塞いでいるように見える。北方領土・尖閣諸島の問題が存在しているのが理解できる。
　それぞれの国に国益が存在し、時としてその国の指導者により、軍事力をもって国益を維持拡大しようとする動きはまだまだ世界のいたるところで存在している。万一の時、誰がどのように日本を守っていくのか。『Final Goalkeeper of Defense』、私たちが離隊する際の講演で、この言葉は自衛隊の存在する意味を深く私に植え付けました。
　
II. リーダーの役割
　普段入ることのできない場所に足を踏み入れるととても緊張します。ましてや検問ゲートがあり、傍に銃を持っている人がいるとなおさら緊張の度合いが高まった。最近は企業の新人研修等を受け入れているという。大阪市でも40歳以上の幹部職員を入隊させてはどうかとの動きもあるようです。意識を変える必要性に迫られている誰もが直面している現実の証だと思う。私自身もその一人です。今回は自衛隊のご好意により迷彩服一式を貸与していただきました。私たちの意識を変えるために、先ず身に付ける服装から用意していただいたのです。
　情熱と協調を大切に、『時間厳守』・『チーム協力』・『リーダーシップ』を遂行して下さいと指導されました。全体を3班に分割、それぞれの班で班長が決められた。私の所属する2班はなぜか私が指名された。いきなり班員11名のリーダーに指名された。普段職場において自分のことだけを考えて仕事をして良いポジションにいる私にとって、新鮮であるが戸惑いの連続であった。班員は班員として何をすべきかを考え行動し、班長は班全体を見て任務完遂の為の指示をする。決して単純作業に自ら率先してはいけないと指導されました。まず就寝場所となる野営テントの設置を時間内に行なう。適切な指示を出さなくてはならなかった。与えられた任務をできるだけ早く完遂するために、班長は考えながら行動し指示を出す。そして班員の現状を把握し上官に報告する。リーダーの役割は重かった。
　
III. 体力は全ての土台
　離隊後1週間、いつもと違う筋肉痛が続いた。体力検定の後遺症である。腕立て・腹筋・3000ｍ走。今までに行なった事のある運動なのになぜか。自分自身では回数と距離にこだわって行ったことのある運動も、自衛隊ではさらに時間制限が加わる。ここが大きな違いであった。なぜ時間制限を設定して体力検定を行なうのか。時間は無制限にあるのではないからであった。体力検定で上級のランクに上がる目的は、体力は全ての土台であり、“隊員の命を落とさせない為”であると講演時に教わった。自衛隊ではあたりまえである現実のリスクへの対応策なのである。実際のところ、現実のリーダーは全ての配下の隊員の体力と同等以上の体力を有しないとならない。そうでないと配下の隊員を守ることなどできないからである。
　私といえば、限られた時間の中で最善の成果を挙げるべく気持ちばかりが先走り、たいした結果も出ず、いつもと違う筋肉痛に体力検定直後からみまわれた。当然のごとく体力検定は不合格。不合格の証明書まで頂いた。普段、メタボ対策を気にしているレベルの自分が情けなくなった。健全な肉体に健全な精神は宿るというように、精神が徐々に病んでいかないように、これからは“体力は全ての土台”を意識し続けたいと思う。
　
IV. おわりに
　『誇り高き陸上自衛官の心得』とは「挑戦－挑め果敢に」「献身－尽くせ一途に」「誠実－貫け誠を」です。事に望んでは危険を顧みず、身をもって責務を完遂することを国民に負託されていると講演の中で述べられていました。また、『Final Goalkeeper of Defense』。だから国民の理解と協力が必要であるとも述べられました。
　また、“『志合えば胡越も昆弟たり』《「漢書」鄒陽伝から。志が合えば、北方の胡の者と南方の越の者とでも兄弟同様になれる意》志が一致すれば、他人どうしでも兄弟のように親しくなれる。”という言葉を教えていただきました。世界中がこの言葉のようになれば備えてある武器の全てが無駄になりとてもよい事だと思います。しかし現実は異なり、リスクが存在する以上、それをヘッジする必要があるのも事実です。
　身近な事として体力やリーダーシップの重要性を再認識するだけでなく、国民を守るという大義に、筆舌に尽くしがたい思いをもった2日間であり、とてもとても奥の深い特別例会でした。今日も彼らが訓練をしていることを忘れずにいたい。