2008年 直島特別例会

 
◆大原 正(岡山政経塾 六期生)
犬島、直島、豊島合宿レポート
  『考える力を身につける』
 
2008年直島特別例会(犬島・直島・豊島)に追加された目的




I. はじめに
 2007年、昨年の直島特別例会における目的は、『見る』・『体感する』・『聞く』・『発想の転換をする』の4項目であった。2008年、今年はこの目的にさらにひとつ『考える力を身につける』という項目が加わった。昨年、現代アートを見たその人それぞれの感性に委ねられた新鮮な感動。そして、受けた新鮮な感動から、次は自分なりに創造することの重要性を解かれた。2007年、ここまでが目的であったと私は整理をした。あれから1年、目的に『考える力を身につける』という項目が追加された意図は何であろうか。

II. “どうしようもない国になってしまった” あのメッセージから1年
 昨年、講演開始早々のメッセージは“どうしようもない国になってしまった”であった。1年を経過してどうなっているのか。いくつか指標を上げてみる。

> 借金 約6兆円の増加見込
 借入金、政府短期証券を含む日本全体の債務残高は依然として1000兆円を超え、国と地方の長期債務残高だけを捉えても、約772兆円(平成19年度末)→約778兆円(平成20年度末)へと約6兆円の増加が見込まれている。
  これは
   1日あたり 約16,438,356,164円
   1時間あたり 約684,931,507円
   1分あたり 約11,415,525円
   1秒あたり 約190,259円
  に及ぶ。
 (出所:「借金時計」http://www.takarabe-hrj.co.jp/clockabout.htm
 
> 日経平均株価(例会終了日の翌日終値) 約30%の下落
   18,140.94円(2007/7/9) → 13,010.16円(2008/7/14)
   (出所:日本経済新聞社)

> 自殺者数 931人の増加
   32,155人(平成18年度) →  33,093人(平成19年度)
   (出所:平成20年6月発表 警察庁統計資料より)

 借金は増え続け、資産が減り、自殺者が増える。昨年と比べて良くなった事柄を探すことがとても難しくなっている現状がある。『この国では何でも手に入るがひとつだけ無いものがある。それは希望だ』その通りかもしれない。
 
III. 犬島アートプロジェクト・三島由紀夫の檄文
 直島の現代アートに文字があったであろうか。私はあまり記憶に残っていない。犬島アートプロジェクトには文字が存在した。三島由紀夫の檄文である。文字の連なる文章は作者の思いが一直線に表現される。
 私にとって下記の部分が印象深い。
『われわれは戦後の日本が、経済的繁栄にうつつを抜かし、国の大本を忘れ、国民精神を失い、本を正さずして末に走り、その場しのぎと偽善に陥り、自ら魂の空白状態へ落ち込んでゆくのを見た。政治は矛盾の糊塗、自己の保身、権力欲、偽善にのみ捧げられ、国家百年の大計は外国に委ね、敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされ、日本人自ら日本の歴史と伝統を涜してゆくのを、歯噛みをしながら見ていなければならなかった。』
 1970年までに主体的に国の未来像を描いて実践していれば、“どうしようもない国になってしまった”という名の坂道を、少なくとも今この瞬間も転げ落ち続けていることは無かったはずであるという重い重いメッセージを、犬島アートプロジェクトから受け取りました。
 
IV. 考える力を身につける
 中国は2001年10月、上海にて開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳・閣僚会議に先立ち、同年6月15日、中国・ロシア・カザフスタン・キルギスタン・タジキスタン・ウズベキスタンの6ヶ国による多国間協力組織として上海協力機構を設立している。これは上海の存在を国際的にアピールする結果となった。設立の目的は、加盟国が抱える国際テロや民族分離運動、宗教過激主義問題への共同対処のほか、経済や文化等幅広い分野での協力強化を図るとある。その後、モンゴル・インド・パキスタン・アフガニスタン・イランが加盟の希望を表明し、アフガニスタン以外はオブザーバー出席の地位を得ている。アフガニスタンはアメリカの傀儡政権であると解釈され不可である模様。上海協力機構が中国・ロシア・インドといったユーラシア大陸の潜在的大国の連合体に発展することになり、アメリカに対抗しうる非米同盟(反米ではなく、同盟の強制力はない)として成長することは、アフリカや南アメリカの発展途上国・資源国から歓迎されている。また、印パ両国が加盟することで、中印パ3国間の対立の解消も期待されているという。中国は国家百年の大計を主体的に自ら描き、考え、プラン&スケジュールを立て、実践したのでしょう。
 村田晃嗣同志社大学法学部教授は、「予想される出来事を描き分析する時、既に決まっている出来事を手帳に書き込むことにより、おおよその背景なり、アウトラインが見えてくる」と、このような意の事を言われていました。
 『考える力を身につける』ことが出来ていれば、主体的に物事を考え、いつまでに何をしなければならないかという発想が出来、そして、背景なり、アウトラインが見えてくるのだと思います。『考える力を身につける』ことが出来ていないから、国家百年の大計を外国に委ね、経済までもが共倒れになってしまった今日があるのではないでしょうか。
 
V. おわりに
 世の中にはきっかけが無ければ、なかなか知りえないことがあります。『見る』・『体感する』・『聞く』ことにより現状とその先の延長線上の未来に危惧を持つならば、今までの方法が時代に合わなくなったことに気づきます。『発想の転換』をして、やり方を変える必要が出てきます。定義を明確に方向性を示し、決して手段と目的を履き違えることなく実践していかなければなりません。
 2008年直島特別例会における目的に『考える力を身につける』という項目が追加された意図は、“さらにどうしようもない国になり続けている”日本国を地域から良くしていくために、塾生それぞれがやりたい事をやるのではなく、広く大局的に考え抜いて、やるべきことをやらなければならないというメッセージではないでしょうか。
 どうしようもない国には問題・課題が山積しています。自分の役割が見えるようにするために、日頃から『考える力を身につける』ための訓練を意識的に習慣化しなければならないということを2008年直島特別例会は教えてくれました。皆様、ありがとうございます。
 
 最後に、今回、豊島に関する講演を暑い現地で聞かせていただいた事は、昨年より身にしみる思いを持つことができました。まさに『体感する』でありました。石井亨様にお礼申し上げます。