2009年 直島特別例会
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◆渡辺 健太(岡山政経塾 八期生)
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ベネッセアートサイト直島合宿レポート
島に想う。島から想う。
◇はじめに
私にとって直島訪問は5度目、犬島と豊島は初めての訪問であった。今回の例会で学びたいと考えていたことは、「まっさらな気持ちで現代アートや各島の空気を感じること」であった。同時に「見る・聞く・体感する。考える力を身につける。発想の転換をする」という例会の目的は十分に理解しているつもりだった。しかし、各島に立ち、各島の空気に触れることで、想像以上の刺激があった。
◇犬島/産業の発展と衰退
最初に訪れた島は、犬島。銅の精錬で栄え、銅の価格暴落による衰退を圧縮したような空間がとても印象的だった。島国である日本にとって、犬島のように産業で栄え、産業で衰退・過疎化している島はありふれた風景なのかもしれない。時代の流れによって多少の上下があることは、ある程度仕方がないことかもしれないが、地域が永く強く生き続けるためには、「流行」だけではない何かを見極め、守り、つないでいく必要があると感じた。
「犬島アートプロジェクト精錬所」は、とても印象に残った。元々アートとして作られたわけではない精錬所は、ロールプレイングゲームに出てくる城下町のような赤レンガの独特な雰囲気を持ち、アートプロジェクトとして切り出された瞬間に作品となり、メッセージを発する強い建造物へと変化する。私たちは、日常の何気ないシーンに対し、強い固定観念を持ち「これは会社であり、働く人がいる場所」「ここは田んぼ。稲作を行っている」など、単純な1問1答での解釈しかしていないのではないだろうか。言いかえると、そうすることで安心しているようにも考えられる。
犬島で見た景色や三島をモチーフにした柳氏の作品は、見る人によって感じ方は違えど、このアートプロジェクトによってフォーカスされ、何気ない日常を切り出して目の前に突き出されたことはそこを訪れた人すべてに共通の事実である。
◇直島/答えは1つではない。己の心が今どう感じたかが全て。
7年前に新人研修で訪れて以来、5度目の訪問となる直島。ある程度の背景知識もあったため、家プロジェクトでは8期生に拙い解説をすることとなった。何度見ても、一緒に見る人や、自分の年齢、立場が変わると感じ方が違うというのは今回も改めて痛感した。加えて今回強く実感したのは、人は正解を求めたがるということだった。特に今回初めて直島で現代アートを目にした人は、「これはどういうことを伝えたいのか」「これにはどんな意味があるのか」という質問をされていた。これ自体が悪いことではないのだが、現代に生きる私たちにとって答えがあることが自然で、間違った解釈や見方をしたくないという防衛本能が知らないうちに身にしみついているのだろうと思った。
福武会長からも「歴史ある名画や作品は、見方や多くの解説が出回った作品は、一通りの見方しかできなくなる。」とお聞きした。
夕方の福武会長からの講話にも心を打たれた。「よく生きる」ことはシンプルである。「シンプル」だからこそ人は迷い、よく生きられない。「言っていることとやっていることを一致させる。」自分自身の人生を最高のものにすることで、福武会長への御礼に代えられるようにしたい。
身近な人を幸せに。先祖を大切に。心に誓いたい。
◇豊島/政治の責任。自らの島(まち)を自らの手で守ること。
正直、一番強烈な印象を持ったのが豊島だった。産業廃棄物による大きな事件。政治の責任。自らの島を自らの手で守るということの意味を学ぶことができた。島だからこそできたこと。島だからこそ大変だったことはあったにせよ、自分のまちを自分の手で守るということは、どこに住む人間にとっても、本当はもっと身近なことでなければならない。政治の責任を問うと同時に、
「自分は自分が住むまちを自分の手で守ると心から言えるかどうか?」
「同じ町内に住む人をどれだけ知っているか?」
「豊島事件のような、問題が起こったら転居という手段で、
解決した気にならないだろうか?」
と何度も自問自答した。産業廃棄物は人々の暮らしが向上する中でうまれてきた副作用である。循環型社会を考えることなんて微塵もなかった当時は、ゴミが出ることは当然で、その後のことを考える必要性もなかったのだと思う。大切なのは、これからできることを考えること。使い捨ての文化を改めること。産業が変わる必要性。消費者の立場で考えること。政治を考えること。私にできることは無限大だと感じた。
仕事上、中高生対象に小論文入試対策講演会を全国の学校でお話しさせていただく場面がある。そこでもよく取り上げる環境問題について、豊島で学んだことを、これからの日本を背負う若者に対して少しでも伝えることができればと思う。まずはここから始めたい。
◇最後に
それぞれの島で強烈な体験をすることができた。すぐに消化できないものも多くあるが、感じたことを今後の分科会での議論にも活かしていきたい。今回の特別例会は、島で自分の人生観や感性に触れ、島(コミュニティ)を通じて自分の考えに大きな刺激があった。今後、さらに自身の考え方を磨き、今後の活動に邁進していきたいと思う。
今回の例会では、例会担当を務めさせていただいた。森田さん、吉田さんのリードがあったことも大きかったが、何より小山事務局長、西美さん、藤井さん、石井元県議、各島でお世話になった方々に心から感謝したい。本当にありがとうございました。
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