2009年 直島特別例会

 
◆三宅 雅(岡山政経塾 五期生)
ベネッセアートサイト直島合宿レポート
  『胎動』



 今年のレポートを記すに際し、かつてのレポートを見直してみました。『世界に冠たる内海の美しさ』、あるいは『文化力』といった視点から記述しておりました。もちろん、そうした評価は依然として妥当なものです。

 直島例会への参加は5期現役塾生の頃から4年連続となります。個人的な来訪などを含めれば、直島、豊島はそれぞれ6度目の来訪になります。何度訪れてもまた来たくなる、そこにあるものは何か。今年、少しそれが見え始めた気がしました。一言で言えば『胎動』です。

●犬島の『胎動』
 精錬所は昨年オープンしたばかりであるため、ハードウェア的に大きな変化は無い。しかし、ガイドの技量には大きな進歩が見られた。この島のテーマは過去に関わる。かつての産業の噴出である精錬所と、かつての文学の噴出である三島由紀夫。立ち並ぶレンガの煙突がそれらの墓碑銘であり、環境サイクルを活用した建屋がそれらの棺であるようにも見える。いまだ黄泉の国に旅立つことも叶わず、訪問者に慟哭してくる。今後の展開に期待したい。

●直島の『胎動』
 家プロジェクトに新たなスポットが増えてきた。今年初めて見る石橋と碁会所。きんざは塀越しに覗くだけ。「有るものを活かし、無いものを創る」ここにも真髄が見られる。観光客の数が年々増えている。それに合せて町並みがどんどん綺麗になってきた。福武幹事がヘリコプターでご来場。出力全開のご講演は「私の生き方形成プロセス」。成功の方程式の解答を探したい。地元の海の幸を堪能し、恒例の懇親会で大いに語り合う。

●豊島の『胎動』
 今年最も大きな変化を感じたのは豊島。新しい美術館の誕生には大いに期待したい。産廃の処理問題の前途はまだ厳しいが、石井氏を始め「豊島問題」に立ち向かった島民の連帯があれば必ずや完遂されるはず。石井氏の講演のストーリーは概ね例年通り。しかし、少しずつ分野・方向の違う部分があり、勉強になる。何より、明らかに未来志向の話が増えてきた。「産廃処理の方途はついた、さてこれから島をどうするか」、である。昨年出来たという、島の観光協会の人に島内一周のガイドをお願いした。島への愛着や誇りに満ちた話は心地よい。最期に廃校となった小学校公堂で分科会ディスカッション。建屋のあらゆる部分に島民協働の手作りの匂いがする。点在する耕作放棄地は痛々しいが、この島には地域の人々の『胎動』の予感がある。


 『胎動』、すなわち胎児の蠢き。その仕掛け人は福武幹事であり、それぞれのアーティスト達です。また小山事務局長であり、石井氏であり、もちろんベネッセハウス関係者や直島、犬島、豊島の住民達でしょう。そして、われわれ岡山政経塾のメンバーも何らかの関わりが持てればと思います。

 今年、確かにそこに『胎動』がありました。来年からいよいよ、「瀬戸内国際芸術祭」が始まります。その行く末から目が話せそうにありません。

 事務局及び幹事の皆様、そして例会担当の皆様、今年もすばらしい直島例会に参加させて頂きありがとうございました。