2011年 直島特別例会

 
◆佐藤 敏哉(岡山政経塾 十期生)
岡山政経塾  直島特別例会レポート                    平成23年7月24日
  「笑顔」こそが「アート」!



1 はじめに(直島合宿の意味)
 合宿から戻り、「直島合宿とは、何だったのか」ということについて悶々としながら考えるうちに辿りついたのは、福武幹事の講演録の次の一節だった。
 「現代社会に対するメッセージを持った現代美術を媒介にして、そうした都市と、自然溢れる島々を繋ぐ事によって、都会と田舎、そしてお年寄りと若者、男と女、そこに『住む人々』と『訪れる人々』とが互いに交流し、お互いのよさを発見し、認め合うことができます。そのことが都市に住む人々にとってもいい影響をあたえ、過疎といわれる地域も蘇り、それぞれの地域の持つ多様で豊かな文化を活かしていく『バランスのとれた価値観の社会』が出来る事を期待しています。そして『在るものを活かし、無いものを創っていく』という21世紀の新しい文明観を、ここ瀬戸内海から、世界に発信していきたいと思います。」
 文章を読んだだけでは、ふーん、で終わってしまうであろう。合宿を終えた今なら、自分の経験をもとに、福武幹事がおっしゃることを「感じる」ことができる。合宿は、このことを体感するための場であったのだ、と実感した。以下、私の経験・実感を元に報告します。


2 現代アートとは何か
 何のために、私たちは島々で多くの現代アートに触れたのか。一体、現代アートとは何か。福武幹事は「男と女とが仲良くなるためのもの」と定義されたという。それは間違っている、自分はアートで女性と仲良くなったことがない、と小山事務局長は笑っておっしゃるが、「男と女」を「人と人」に置き換えてみれば納得できる。
 私たちは、アートに触れる、という体験を通して、仲間たちとより一層絆を深め、また地元の方や、他の地方から来られた方と触れ合う機会を得た。現代アートの意味なんて、はっきり言ってさっぱり分からない。でも分からないことを「これは何でしょうかねぇ」と素直に口に出すことで、他人との共通体験とコミュニケーションが生まれてくる。「さあ何でしょうねぇ」と答えるだけで、自然と笑顔になる。それで良いではないか。
 もちろん、おぼろげながら、「こういうことかな」と、自分なりの解釈ができればかなりの達人といえるだろう。地元のおじさんが「それはね・・・」と解説を始めると観光で来た女性が「すごーい!」となる。少々悔しいが、そういうパターンもあるかもしれない。
 ジェームズ・タレルの作品の体験を「すごかったね」と共有することも同様の効果があるだろう(スキンシップのチャンスも含めて!)。
 また、直島の現代アートには地元のものを活かす、というコンセプトが貫徹されている。「アイラブ湯」のご近所のおばあさんが、はにかんだような、弾けたような何とも言えない笑顔で「大竹(伸朗)さんのサインがあるんよ」とひょうたんを見せてくれた。アートが地域に完全に溶け込み、作者も地元の人に温かく迎えられている。アートと町が一体になっている、こんな場所が、日本中、いや世界中どこにあるだろうか。何より、人と人とをつなぐ、という意味では「笑顔」こそが最高の「アート」なのだと私は強く感じた。


3 瀬戸内の島々を巡って(「光と影」)
 直島では、赤と黄色のかぼちゃ、家プロジェクト、3つの美術館とアートの数々、北川フラム氏の講演。 犬島では、「精錬所」とその中の三島由紀夫の「檄」、家プロジェクト。豊島では、不法投棄跡地、豊島美術館、心臓音のアーカイブ。本当に様々なものを見て、聞いて、触れて、体感した。私は、「光と影」ということを連想した。
 美しい自然とアートとの融合、そして人々の笑顔。これらは、私たちが出会った、「光」。
 豊島では、現代社会の「影」に向き合った。豊島問題の根本は、人間の文明が、自然では処理できないような「ゴミ」を生み出すこと。頂いた資料の中で調停代理人の一人大川弁護士がこう述べている。
 「このたたかいは、私たちの社会が目先の利益を追い続け、生産だけを重視し続ければ、取り返しのつかない結果を招くことを多くの人に知らせることになりました。そして、『使い捨ての社会』から、『廃棄物を出さない社会』に向かうべきことを社会の共通認識とすることに、大きな役割を果たしたのです。」
 今この瞬間にも、私たちの社会は多くのものを作りながら、同時に多くのものを破壊し捨てている。大量生産・大量消費・大量廃棄の、「在るものを壊す社会」の「影」の中に私たちは生きている。瀬戸内の島々の「光」は未だ、小さい。


4 終わりに(世界の未来のために)
 戦後の日本は「在るものを壊す」ことによって発展してきた。太平洋戦争によって焦土となった国土を再建して高度経済成長を成し遂げた日本人には、発展とは何もないところに(何かあればそれを壊して)建物を建てることである、という常識が染みついてしまったのだろう。
 私たちの使命は「在るものを壊す社会」から「在るものを活かす社会」へと発想を転換し、そうした常識をくつがえすことである、との思いに至った。この転換が瀬戸内の島々から、岡山へ、日本全土へ、そして世界中へと広がった時、世界の人々が次世代の「光」を手に入れられるであろう。まずは世界中にその光を届けること。そのために私に何ができるか、真剣に考えたい。
 しかし、忘れてはならないのは、光あるところには常に影ができること。全く未熟な私も、自分の「発想力」と「本質を見極める力」を磨くことによって、次の時代の光と影のあり方について自分なりの視点をもち、より良い社会をつくることに少しでも貢献したい。より良い社会をつくろうとする人間の営みとは、なくならない影をなくすための不断の努力に他ならない、と思う。

 最後に、このような貴重な機会を設けて下さった小山事務局長、現地で大変お世話になったOBの西美さんをはじめ全ての関係者に御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
「笑顔」筆者撮影
         以上