2012年 直島特別例会
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◆中江 悠(岡山政経塾 十期生)
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岡山政経塾 直島特別例会レポート
『心を耕す』
1 はじめに
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」
フェリーに乗って岡山を離れ、美しい瀬戸内海の旅にふけっているとふと目に入ってくる大きな赤かぼちゃ、そして近代的な海の駅「なおしま」。のどかさとユーモアと近代感を混ぜたような不思議な風景。まるで自分の住んでいる世界とは別の世界に来たような感覚は、川端康成の小説『雪国』の冒頭の一文に通じる気がする。はしゃぐばかりだった昨年とは違い、のんびりそんなことを考えながら私は二度目の直島に降り立ちました。
2 二度目の現代アート
今年もまた現代アートの数々が私たちを迎えてくれました。しかし、昨年と同じ作品を見ているにもかかわらず、昨年とはどこか違うものを感じました。
地中美術館で見たジェームス・タレルの『オープンスペース』。以前はオレンジの部屋から青い光の部屋に入るときにその不思議な空間に圧倒されましたが、今回は青い部屋からオレンジの部屋を振り返ったときに、まるでオレンジ色の写真か絵画があるかのように感じました。
アートそのものは変わらなくとも、そこを訪れる人の見方や心の状態によって感じることや気づくことは変わってくるものだと思います。
3 橋川先生、福武幹事の講演
講演をしてくださった橋川先生と福武幹事、お二人のお話には共通する部分がありました。
「あるものを生かし、ないものを創る」昨年この直島合宿で出会った福武幹事の言葉。そして、同じ直島の地でおかげ横丁の街並みについて「古いものを『古い』と表現しても心動かさない。古いものを残しつつ、現代的な価値を付け加える」と言われた橋川先生。二つの言葉に共通するのは発想の転換。まるで直島合宿のためにあるかのような講演でした。
また、福武幹事は講演のなかで「信念」について触れられました。そして、その信念をひしひしと感じたのがその直前に行われた橋川先生の講演でした。おかげ横丁の商品の選別はすべて橋川先生が行われ、もしそれが支持されなかったら自分の感性が鈍かっただけのことと言い切られた橋川先生の言葉にはおかげ横丁を運営されている橋川先生の信念を感じました。
直接「信念」ということを口にされたのではありません。橋川先生が語られるおかげ横丁のエピソードの一つ一つから信念が感じられたのです。
4 心を耕す
現代アートを見たり、講演を聞いたりして学ぶことによって人は「心を耕す」ことができると思います。
忙しい毎日を過ごしていたり、仕事で失敗したり、同じような毎日ばかり送っていたりすると私たちの心は凝り固まってしまいます。感性は鈍り、思考は偏り、信念はぶれてしまう。考えることをやめ、自分が正しいと思い込むことさえあります。岡山政経塾を卒塾してからの私がそうでした。
実際は、同じ毎日を送っているわけではないのです。同じものを食べ、同じ言葉を話し、同じ人に会い、同じ仕事を同じ順番で、同じようにこなしている日々なんてないでしょう。忙しい、と思っていても時間は24時間誰にでも同じように与えられているはず…同じ量の仕事をしていても人によって忙しいと感じるかは違うでしょう。それは、それぞれの人の考え方や心持ち次第で変わります。
今回、直島、豊島、犬島を巡って見た様々な現代アート、そして大変貴重な橋川先生と福武幹事の講演、心温まる島民の方々の姿…これらは凝り固まっていた私の心を柔らかくほぐし、新たな学びへの活力を与えてくれました。人は学ぶことで、刺激をもらい心が固くなってしまうのを防ぎ、学びたいという意欲をもつことができます。そして日ごろからよく耕されている柔らかい心は、同じような毎日の中にも学びを見つけ、さらなる学びを得ることができるようになります。だからこそ、学び続けることが大切なのでしょう。
5 おわりに
今回の直島合宿でも、普段触れることのできないアートの数々や、講演、元気に作品の解説をしてくださるお年寄りたち、その一つ一つからたくさんの学びとエネルギーをいただきました。
しかし、私は毎日直島に住んでいるのではありません。今回直島で感じたような自分とは異なる様々な感性、人の温かさ、学び続けることの大切さを日々の中から見つけていきたいです。この直島での学び一度きりで終わらせるのではなく、これからも学び続け、自分が何をすべきなのか考え、行動し続けていきたいです。
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