2012年 直島特別例会

 
◆中川真寿男(岡山政経塾 十期生)
岡山政経塾  直島特別例会レポート
『直島合宿で思ったこと』



●直島
 昨年に続き、今年も直島合宿に参加しました。
 今回特に感じたのは、3連休ということもあってか、人の多いのには驚きました。それも若い女性が多かったように思いました。アートを求めて全国各地から来ていたのでしょうか、それぞれの鑑賞ポイントでにぎやかに話したり、作品に触れる姿に出会い、直島の知名度が高まっているのだと改めて感じました。
家プロジェクトは、福武幹事の「在るものを活かし、無いものを作る」という考えのもと、古い民家を改修・改築しながら空間そのものを作品化していた。過疎化と高齢化が進み、空き家が目立つ中、家屋を譲り受けて、町並み保存とかではなく、その家を活かし新しい価値を持たせアート作品にするという斬新な考えで家プロジェクトを進めている。このプロジェクトを進める中で、地域の人々も巻き込み、大きな流れになって地域の人々の笑顔があふれるまちになっているのが印象的でした。観光客と気軽に話をしたり、ボランティアで施設の案内をしてくれたり、家々に暖簾を掛けたりして、まちの様子も住んでいる人の意識も変わってきており、家プロジェクトがまちを変えているのがよくわかりました。
 福武幹事が講演の中で、ボロボロに壊れた護王神社の写真を見せてくれました。新しい護王神社は、簡素な中にも斬新なデザインであり、それだけでも驚きなのに、なぜかその下に石室まである。そして、その石室から外に出るには、うす暗い羨道を通り、狭い石室から外に出る。そうすると、目の前には輝く瀬戸内海の景色が広がり、一転別の世界に迷い込んだように感じました。護王神社は不思議な建物であり、また神秘的な空間でもあり、神社と海とは密接にかかわっているのかなと思いました。


●おかげ横丁・伊勢福社長 橋川史宏さんの講演
 私は、お伊勢さんには何度か行きましたが、おかげ横丁ができてから伊勢神宮には参っていませんし、おかげ横丁を訪れたことはありません。おかげ横丁を調べてみると、第61回神宮式年遷宮の年、1993年(平成5年)7月16日に伊勢神宮内宮門前町「おはらい町」の中ほどで、お伊勢さんの「おかげ」という感謝の気持を持って開業した。また、 伊勢の人々は、自分の施しが神様に届きますようにと「おかげの心」で「施行」と呼ばれる振る舞いを行い、物・心の両面から旅人を支え、あたたかく迎えたと言われています。時代は変わっても、伊勢人の中には、日々あることを神に感謝する「神恩感謝」の精神が受け継がれており、そして自然の恵みに感謝し、日々おかげさまの心で働く伊勢人たちによって息づく町、それが「おかげ横丁」であると書かれていました。
 橋川さんは、この伊勢人の精神を受け継ぎ、町づくりの考えのコンセプトを、「伊勢を訪れる人を持てなす。建物、商品、人によって行う。」と位置づけています。建物は、古い町並みを新しくつくり、それも硬い木である栂の木を使って重みのある木造建築の町並みを作り、江戸時代後期から明治時代の町を再現しています。商品は、伊勢路の生産者の良心を表し、品質基準を導入していいものを提供しており、思いやりのある接客を行い、お客さんに喜んでもらうことを第一に考え、神宮参拝の感謝の気持ちで、もてなしの文化を大切にした町づくりを行い、年間400万人を超える人が訪れる、すばらしいおかげ横丁に育っている。
おかげ横丁は、4000坪の敷地内に、江戸から明治にかけての伊勢路の代表的な建築物が移築・再現され、この地方の魅力が凝縮され、三重の老舗の味、名産品、歴史、風習、人情まで、一度に体感できる町並みになっている。
 橋川さんの話の中で、古いものは残しつつ、使えるものは使い、現代的な意味づけを加え地域づくりを行うと言われていた。「あるものを活用する」とは、どこかで聞いた言葉だな、福武幹事が言っている「在るものを活かし、無いものを作る」と通じるものがあると思いました。また、文化はガラパゴス的に発展するとも言われており、よそから持ってきたものでは地域は発展しない、その地域にあるものを活かせとも言われました。まさにその通りだと感じ、早島のまちづくりを考える上でこの言葉は大切にしていきたいと思いました。地域にはその地域の伝統、積み重ねてきた文化があり、この地域資源を大切にしながら、まちづくりを考えていきたいと思いました。


●福武幹事の講演
 福武幹事は直島は老人がたくさんいる、その老人たちの笑顔があふれるコミュニティづくり、この世の極楽づくりを直島で考えている。宗教は、あの世での幸せを求めている。現実の世の幸せは、年を取れば取るほど幸せになれるような世の中でないといけない、人はいい地域に住むことによって幸せになれる。いい地域とは、お年寄りの笑顔があふれるまちだと話されていました。直島で、昔から島にあった「在るものを活かし、無いものを現代アートを活用して作り」、それにより島を訪れる若い人々とお年寄りの交流が生まれ、お年寄りの笑顔があふれるまちづくりを行う。こういった福武幹事の思い通り、今たくさんの若者が島を訪れ、現代アートを鑑賞し、お年寄りと話をしている若者の姿を度々見かけました。
 昔ながらの直島の暮らし、生活習慣、家並みと現代美術。合わない、似合わない取り合わせのように思っていましたが、都会の人どころか外国の人も大勢訪れ、交流が生まれ、町が変わっていると昨年思いましたが、今年改めてそういう目でまちを見ていると、更にその意を強くしました。現代美術が地域を変える大きな力を持っている、まちづくりに貢献していると思いました。
 福武幹事は、講演の中でいろいろ示唆に富む話をしてくれました。その中で、地域は食糧、エネルギーの自給自足可能なコミュニティ作りを行うべきだ。エネルギーを自分のところで賄う、どうやって行うのかと思っていたら、塩による発電を考えていると言われました。ただしそれ以上の説明はなかったので、あとの食事会で尋ねるとそれは企業秘密だ、もうすぐすると分かると笑っておられました。はたしてそういうことが可能なのか、でも、福武幹事なら出来そうな気もしますがーーー。
 また、自分の経験に基づいて福武幹事から次のような話があり、とても興味深く聞き入りました。日本の人間は個人として自立していない、哲学を持っていない人がほとんどである。そういう目的意識も、意見も持っていない人がいくら頑張っても良くはならない。何のために、どうするべきかという人生の目標を持って、ことに当たれ。そして夢を持て。夢がなければ何も実現しない。人生の岐路に立った時、夢に近い方に意思決定する。そうすると、夢が自分を誘導してくれ、自分のやりたいことができる、と言われた。そして、凡人が非凡になるには、自分のやりたいことを決め、それを続けてやることが大切だ。できれば5つのことを決め、それを10年、20年と続けてやれ。時間は24時間しかないのだから、使い方を考えろ。平日の疲れは平日に解消し、土曜日、日曜日は自分のやりたいことをやれ、と言われました。私も、少年団の活動とか、自治会の活動とか、国際交流協会の活動とか、いくつかの活動を行なっているが、時間の使い方は難しく、いつも時間に追われているのが現状です。時間をコントロールして、生活パターンを変えていかなければならないと強く思いました。
 そして、日本はどうなってもよい、岡山だけは生き残れ。まずいもの、美味しくないものは都会に送り、新鮮で、安くて美味しいものは地元で食べろとも言われていました。岡山には、おいしいものがたくさんある。地元にはいいものがたくさんある。地元のいいものを、自分たちで見捨てている。その地元のいいものを生かす方法を考えていけ、と言われていました。これについては、橋川さんも講演の中で「その地域にあるものを活かせ」と言われていて、まさに同じことであり、地域が生き延びていくには地域固有のものを活かしていくべきであって、とても大切なことだと思って聞きました。


●終わりに
 今回は、2度目の直島合宿でしたが、前回は直島を実際見て、体感し、現代美術を鑑賞し、島のおかれている状況に触れました。今回は橋川さん、福武幹事から色々な経験に基づいたお話を聞くことができ、早島のまちづくりについていろいろ考える材料を与えていただいたと思っています。早島の人が楽しく生きていけるまち、お年寄りの笑顔があふれるまち、いいコミュニティづくりを早島で行っていきたいと思いました。こういった機会を与えていただいた
 小山事務局長をはじめ参加された皆さんに心から感謝申し上げます。