2009年 100km Walk
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◆渡辺 健太(岡山政経塾 8期生)
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岡山政経塾100km歩行レポート
「ここから。一歩ずつ。」
◇はじめに
私が、今年岡山政経塾に入って自己研鑽をしようと心に決めた大きな動機に、私が尊敬する父の定年退職、高校時代の野球部監督の勇退が重なったことがある。特に父が最終出社を迎えるのは6月末とあり、父の会社員生活の引退に花を添えるためにも、何としても今回の100キロ歩行を完歩すると心に決めていた。
先輩方の中でも、特に7期荻野さん、難波さん、西村さんには練習会や下見会で、たくさんのことを教えていただいた。私にとってこの御三方に出会えたことはとても大きかった。
西村さんには、「自分で何のために歩くのかを決めて歩くといいよ。誰にも言わなくていいから胸にしまって歩くといいよ。」と言われ、心にある言葉を決め当日をむかえた。物の準備をはじめ、様々な準備を行ったが、このレポートでは、100キロ歩行で学んだことを中心にまとめることとし割愛する。
◇プラス思考で前に進む勢いを、マイナス思考で不測の事態に備え、安心感を
私は、自他共に認めるプラス思考だ。今まで、根拠のない自信や行動に、周囲を不安にさせることもあったと思う。今回の100キロ歩行で、自分の最大の強みであるはずのプラス思考の弱点が見えた。
4月後半の練習会で、備前体育館から閑谷学校まで歩いた。実行委員として、無事に練習会を終えることも任務と認識し、最後尾を歩くことにした。同期の背中を見て、ちゃんと全員揃っているか、蛍光テープなど安全対策は万全かなどをチェックしながら歩いた。
当日は、先頭に立ってリードするより、できるだけ後ろから見守り、一緒に歩く人のためにできることがあれば率先して行動すると決めた。
本番当日は、予定通り最後尾で歩き始めることにした。先頭で走っている(!)能登さんや、練習会でも何度も一緒に歩いた8期釆女さん、榎波さん、吉田さんの姿を見て、前に行きたい気持ちが出てきた。
少しペースをあげ、8期波多さんと並び20キロ地点手前くらいまで一緒に歩いた。途中、波多さんの奥さんと産まれて間もない本当に可愛い息子さんの応援や、妻と娘の応援を受け、とても楽しく清々しい20キロだった。
その後、さらに少しでも順位をあげたいという欲が出てきてしまい、そこからペースをあげた。大富三叉路通過時点で8番目の通過。
「5番以内には入りたい。(会社の先輩でもあり、実行委員長でもある)榎波さんと一緒に歩きたい」という気持ちが高まり続けた。結果、備前体育館につく前に5番まで順位をあげ、榎波さんとの差を15分までつめることができたが、これ以上、順位があがることも榎波さんとの差が縮まることもなかった。
40キロ地点/備前体育館で初めて腰をおろして休憩した。その時点でも榎波さんに追いつきたい気持ちは強く、チェックポイントで、7期難波さんに「絶対ゴールまでに榎波さんに追いつきますよ!」と意気込んでいたことをはっきりと覚えている。そこから閑谷学校までの約20キロは、練習会で歩いていたこともあり、自信を持って歩けるはずだった。しかし、ここで100キロ歩行に際して、自分で決めたスタンスを思い出し、日が暮れるに従い気持ちが下向きになっていった。伊里漁協手前で颯爽と(本当に颯爽と)OHK堀アナに抜かれ、いよいよ痛む足も萎える気持ちも最悪の状態になっていた。
スタートして間もなく、当初のスタンスを忘れ、後先考えず無我夢中でペースをあげ、その結果失速。最悪である。自分自身のつまらない競争心と、初志をあっという間に見失い自爆してしまったことを本当に情けなく、悔しく思った。
そこからたった3キロ程の伊里中のローソンまでの道のりが、この100キロ歩行の中で、一番不安で、自身のふがいなさに嫌気をさした区間だった。距離以上に長く感じた。辛かった。
伊里中のローソンで2度目の腰をおろしての休憩。携帯の充電も切れ、携帯の充電器もここで調達した。痛む足に湿布薬を塗り込み、気持ちを切りかえようと「よしっ」と気合いを入れ閑谷学校へ向かう山道へ向かった。
ここから身体にも気持ちにも奇跡がおこった。
ローソンを出発して間もなく、20キロ地点まで一緒に歩いていた波多さんから電話がかかってきた。何を話したかは詳しく覚えていないが、気持ちを立て直そうとした矢先だっただけにとても嬉しかった。本当に嬉しかった。一緒に頑張っている仲間の存在が前後にいることを心強く思った。ここで妻が作ってくれたおにぎりを一気に食べ、さらに「いける!いける!」と気合いを入れ直した。
身体も心もエネルギーに満ちあふれ、そこから閑谷学校までの5キロはあっという間だった。私にとっての原動力は他者との競争心から生まれるものではなく、家族や仲間の存在であることに気付いた最初のポイントだった。「一歩ずつ」このフレーズが頭を何度も駆け巡ったのもここからだった。
閑谷学校先の地元の方が用意してくださったテントで、6期今井さんに追いつき、そこから91キロ地点まで一緒に歩くことになった。私にとって、この区間を今井さんと歩けたことは相当ラッキーだったと思う。今井さんとは、7時間近く一緒に歩かせていただいたが、本当にあっという間だった。ペースをつかみ、とても順調に歩けた。この区間で、今井さんと様々なことを語る中で、今回の100キロ歩行に対する自分の気持ちがようやく整理された。
「100キロ歩行は完歩することが目的ではなくて、あくまで手段。完歩することは前提であり、その中で、何を学び取るかが重要」ということを改めて確認した。その時初めて、自分のつまらない競争心や、初志を貫けなかった意志の弱さに出会えたことは、大きな学びだったと素直に思えた。同時にすごく楽になれた。また、一心不乱に100キロのゴールだけを目標に頑張ることは、私にとっては難しいことだったということにも気付いた。一歩ずつ歩く意味を確認して、今を一生懸命に一歩ずつ、一歩ずつと歩き続けることの方が心地よかったし、結果ペースも上がった。
プラス思考でいることや、目標を掲げ、ひたすらそれにむけて頑張ることが今までの生き方だった。それでうまくいったこともたくさんあった。それだけにこの体験、この感覚は不思議で仕方なかった。
今回学んだことの中で「一歩ずつ確実に歩み続ければ、必ず積み上がる」ということは、当たり前のことなのかもしれないが、私にとってはとても新鮮だった。後半は、今井さんのタイミングを参考に、エネルギー切れに備えて、栄養補給や水分補給を早め早めに行ったことも完歩につながったと思う。今井さんの存在は本当に大きな支えだった。
いつか見た雑誌の特集で、シアトルマリナーズの城島選手が、「僕はマイナス思考。不測の事態に備えて色々と準備し、当日に不安を残さないことが最高のパフォーマンスを生むと考えている」とインタビューに答えていた。この意味も、今回初めて自分の頭で理解できた気がする。
私はプラス思考だ。ただ、あまり自分では認めずにいたが、いつもどこかで「根拠のない自信ではないだろうか、自己への過信ではないだろうか」と不安もあった。自分の中に眠っているマイナス思考を少しずつ受け入れていきたい。プラス思考で前に進む勢いをつけ、マイナス思考で不測の事態に対する準備と安心があれば、もっと自分の行動に自信を持てるのではと思えるようになった。家族や仲間を安心させることも大切な事だと思う。
91キロ/古都ローソン地点のチェックポイントで、7期の富田さん、荻野さん、西村さんに強く抱きしめられ、背中を叩いて激励していただいた。私にとって思い入れの強い方々からの激励に気持ちが熱くなり、涙が込み上げ、歯をくいしばって最後の9キロに向かった。
◇最愛の家族への感謝の気持ち
冒頭で述べた、100キロ歩行に向けて、事前に心に決めたことは家族に関することだった。本番前日、奈良の両親、伯母がわざわざ岡山に来てくれたことや、当日、応援に駆け付けてくれた妻や娘のことを思うと、古都ローソンで押さえていた涙が一気に溢れた。家族の存在に心から感謝した。ありがとう。家族に向けたこの気持ちは、私にとって一生の強みであり、支えであることも確認できた。
次第に空が明るくなり始めた頃、最後の旭川河川敷を歩いていた。蓬莱橋が見えたとき、橋の上には8期トップでゴールされた釆女さんと、道中何度も励ましてくださった西原幹事のお姿が見えた。嬉しくてガッツポーズで二人の声援に答えた。
更に心が熱くなったのは、堤防沿いの階段を上がり、蓬莱橋を渡ろうとしたとき、ゴールに間に合うよう駆け付けてくれた妻と娘の姿が目に入った瞬間だった。2歳の娘にとっては、いまひとつ状況がつかめない様子だったが、かまわず抱きかかえ、ゴールテープを切るまで娘を抱いたまま歩いた。足の痛みは全く感じなかった。家族と一緒にゴールテープを切れたことが嬉しかった。心の中ではずっと一緒に歩いていた。
午前5時26分。すっかり明るくなった後楽園に帰ってくることができた。完歩。先にゴールされていた8期の釆女さん、吉田さん、榎波さんと目が合ってまた感動した。加えて、榎波さんと一緒に歩きたかったという思いから悔し涙が込み上げてきた。
◇心がつながる握手
ゴールしてからタイムリミットまでの10時までの時間はあっという間だった。次々にゴールするチャレンジャーへ蓬莱橋の上から声援を送り続けた。他のチャレンジャーの完歩が自分のことのように嬉しかった。10時直前、先輩期生に囲まれて走ってゴールされた津村さんの姿にも心を打たれた。チャレンジャーやサポート隊の皆さんと、何度もがっちり握手をした。涙を浮かべている人もたくさんいた。握手をして心がつながった感触を得たのは、生まれて初めてだった。これからも心がつながる握手をたくさんしたい。
◇最後に 〜感謝の気持ちを込めて〜 ※文体不統一ご容赦ください。
本番当日だけでなく、何カ月も前から準備にあたってくださったサポート隊の皆さん、このような機会を与えてくださった小山事務局長、先輩塾生、岡山政経塾関連の全ての皆さん、閑谷学校で差し入れをいただいた地元の皆さんへ心から感謝しています。サポーターの皆さんの赤いジャケットが見えるたびに大きな安心感をいただきました。また、車の中からの声援に何度も励まされました。
スタートとゴール時には、会社の上司もわざわざ駆けつけてくれました。本当に嬉しかったです。公私関係なく、心からの行動で支えてくださる素敵な上司のもとで仕事ができる喜びを再認識しました。また、会社の同僚がリバーサイドで差し入れを準備して待っていてくれました。心に染みました。お二人が何か困ったことがあれば真っ先に駆けつけます。
100キロは、ただ歩くだけなら、とっても長い距離だと思います。しかし、自分自身に向き合うためには必要な距離だと感じました。自分自身に向き合い、家族や仲間の大切さを強く感じたこの経験をこれからの人生の指針にしていきたいと思います。
今回関わった全ての皆さんへ感謝を込めて。本当にありがとうございました。
本当の始まりはここから。一歩ずつ。一歩ずつ。
この100キロ歩行完歩を、6月末を持って社会人生活にピリオドを打つ父へ捧げます。父さん、今まで本当にお疲れ様でした。父さんを心から誇りに思います。
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