2008年6月 岡山政経塾 体験入隊 特別例会

 
◆山崎  悠(岡山政経塾 七期生)

『自衛隊生活体験入隊を経験して』
    〜愛してます わが祖国 日本〜



 今回、6月14から15日にかけて行われた、岡山政経塾自衛隊生活体験入隊を通して得られた学びをまとめる。
 
1、〜自衛隊は落ちこぼれを作らない学校〜
 元自衛官N氏が教えてくださった。「自衛隊は落ちこぼれを作らない学校です。」と。自衛隊は絶対に見捨てない。自衛隊はできるようになるまで育てる。今回の体験入隊を通して、自衛隊は現在の社会や教育現場に流れる個人主義、競争主義とは、根本的に違う考えで動いていると思った。
 
2、集団の中で生きる。集団として生きる。
 自衛隊の基本は徹底した集団行動だ。集団行動の秘訣は「穴を開けないこと」であると感じた。「穴を開けない」には、2つの意味がある。1つは自分自身が集団の穴にならないこと、つまり自分の責任を全うすること。そして、穴を埋めること。ほかの班員が困っていたら助ける。遅れていたら背中を押す。自分だけが助かるという考えは無い。成功する時は班全体で。失敗する時も班全体で。今回のプログラムを振り返ってみると、このことを徹底して体験・実感できる内容であった。
 天幕張りは班で役割を分担して行わなければ、時間内に終わらない。大砲は操縦主、砲撃主、計算主など、各パートがいて、初めて機能する。炊事訓練も、カレーとご飯とサラダが無ければおいしい夕食はできあがらない。
 特に早朝の行軍訓練では「穴を開けないこと」についてよく考えさせられた。この訓練では1班6名につき20kgの背嚢が2つずつ与えられ、その背嚢を背負って駐屯地内を5周する。つまり訓練内で1人少なくとも1回、うち4名は2回、背嚢を背負っての行軍となる。ただ、それは計算上そうなるだけで、背嚢の分担をただ機械的に回していては、全員完歩は難しいかもしれない。心身ともに弱っているのは班員全員が同じ状況だが、体力や性別、健康状態など、全てを考慮に入れて班内で分担しなければならない。1周終わるごとに、点呼と体調把握が行われる。班長は速やかに班員を掌握する。班員は積極的に班長の掌握下に入る。場合によっては余裕のある人が3回いくことも必要だったろうし、誰かにお願いしなければならなかったかもしれない。自分が集団の穴になってもいけないし、集団の中に穴を作ってもいけない。6名につき、2つずつという絶妙の割合で背嚢を割り振られた自衛隊の方のプログラム作りに感服させられた。
 周回を重ねるごとに増していく連帯感。自然と背嚢の着脱を班員同士で手伝いだす。口にこそ出さないが、「お願いします」と「ありがとう」を込めて。そんな場面がそこかしこで見られた。「穴を開けない」。この言葉の響きには、冷たいものが感じられるかもしれない。しかし実際私が体感したのは義務や強制といった、負のイメージではなく、信頼や愛情といった極めてプラスの感情に因るものであった。各個人が自衛隊という大きな生物の一細胞であるような、そんな有機的な繋がりを感じた。そしてその細胞の1つ1つが自分だけに特化した能力を活用し、自分の役割を見事に果たしている。

3、集団の中で生きる個人
 私はこれまで自衛隊は、いわゆる滅私奉公を旨としているのかな、と思っていた。しかし、自衛官の方々の講演を聞かせていただいたり、実際にお話させていただいたりすることで、それは少し違うな、ということに気がついた。自衛官の方々は1人1人が自分の職に誇りを持ち、きらきらとしている。日の丸を背負い、この国を守るのは自分たちだ、という責任感と情熱が感じられた。そのことで自己実現をしている、自分を確立しているのだ。その姿はゆるぎなく、ぶれずに、力強い。その強さは、年と比例しているように感じた。浅田次郎がその著書『歩兵の本領』で頻繁に用いていた、「メンコの数」という表現を体験的に感じることができた。
 
4、3つの愛情
 事に臨めば実際に戦闘する可能性がある以上、甘えは許されない。強固な組織を作るため、厳しい統制のもと生きておられる。しかし、その厳しさの根底にはとても深い愛情があると感じた。「愛してます わが祖国 日本。」今回の体験で一番心に残った言葉だ。自分たちを育んできた国、日本に対する愛情。その国を守る仲間に対する愛情。そして自分自身に対する愛情。愛とは対象を「自分のもの」と思うことができること。「自分のこと」として考えることができること。1人と集団との関係、意味について考えることができた、貴重な経験だった。

5、最後に
 このような体験ができたのも、素晴らしいカリキュラムと大きな愛情で受け入れてくださった日本原駐屯地の皆様、生活体験入隊実現にご尽力いただいた永岑先生、小山事務局長、山田先輩、幹事会の皆様、そして一緒に参加された先輩塾生、同期の皆様をはじめ、関係の皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
 レポートに関して、自分が全体の穴になってしまったことを恥ずかしく思っています。申し訳ありませんでした。学びを実践し活かすことができなければ、学んでいないのと同じだ、ということを身をもって学びました。
 
                平成20年7月15日 岡山政経塾7期生 山崎 悠