2008年 直島特別例会

 
◆佐藤 俊輔(岡山政経塾 七期生)
犬島、直島、豊島合宿レポート
  『犬島・直島・豊島合宿を終えて』



直島、犬島を訪れて
 瀬戸内海を俯瞰的にみると多数の島が散らばり、多島美を形成しているのが太平洋や日本海とは異なる特徴です。そして、多くの島々には人が居住し、集落が形成されていますが過疎化、高齢化が進行し、活気が失われつつあるのが現状です。これらの島に外部から人が訪れるケースは夏の海水浴客か釣り客程度であるのが一般的でしょう。しかし、今回訪れた直島(犬島)については国内だけではなく海外からも観光客が訪れるというのだから、驚嘆せざるをえません。また、企業、自治体、住民が協働してまちおこしを行っている点も画期的なモデルであるといえると思います。
 島という海によって遮断されアクセスに劣る地域に多額の資本を投下するのは非常に勇気のいることだと思います。わざわざ、船を使ってアートを見に来る人がどの程度いるのか、十分な採算が取れるのかということを考えると通常、企業は二の足を踏むのではないかという気がします。しかし、瀬戸内海という美しい島の中でモダンアートを見る、また、アートと集落の融合を見に世界中から観光客が訪れるというのだからこの企業とその経営者の先見性を感じずにはおれません。
 今日の日本では建物についていわゆるスクラップ&ビルドの循環が終わり、既存の建物を利用してバリューアップを図ろうとする動きが多くみられますが、この直島(犬島)のプロジェクトは町(島)全体のバリューアップを図って町(島)に付加価値を造り上げたということができると思います。このように直島(犬島)プロジェクトは京都のような伝統的な観光地とは異なる性格を持つモダンな観光地として異彩を放っており、観光地の創造、まちづくりという観点から貴重なモデルを提示しているという点でこれらの島を見分できたことは貴重な体験となりました。
 また、ベネッセハウスで聞いた福武幹事の講演は日本の行く末を考える上で非常に参考になりましたし、村田教授の講演はアメリカ大統領選挙等についての独自の明快な切り口による解説で国際政治についての造詣を深めることができました。

豊島を訪れて
 豊島の産廃問題については一時マスコミを賑わしましたが、今は人々の記憶から薄れつつある問題であると思います。また、マスコミが取り上げられていた当時も私には悪い企業がいて産業廃棄物を違法に投棄してしまったといった程度の認識しかなく、法の不備、県という地方自治体の責任、住民の行動力、県民の偏見などの非常に深刻で広範囲な問題を内包していることを今回、石井氏の話を聞くまでは知りませんでした。
 今回のお話で特に印象に残ったのは、県という公共の利益に服するべき団体が公共の利益に反する行為を知りつつも見逃すという形で外形的に見て悪に加担する場合が現実にあったということでした。自治体運営上の意思決定は人間が行うものですからありうることではありますが、あってはならないことだと思います。なぜこのような事態となってしまったのかその経緯を分析して再発防止に努めるべきであると同時に分析結果について情報開示するべきだと思いました。また、最終的に住民が勝利するわけですが、それまでには多くの苦難があったことを知りました。そして、これらの苦難にくじけず努力された住民の方々の熱意の背後には日本の近代化(西洋化)において破壊されていった「むら」という共同体意識があったということには驚かされました。住民たちが権利意識によって立ち上がる姿は極めて民主的ですが、その行動の背後にあるのは島という隔絶された地域だからこそ残っていた日本古来からの「むら」としての共同体的意識なのだとすれば、反個人主義的に見えるむら的な共同体意識は決して民主主義に反しないどころか民主的な行動の源にもなりうるということを知りました。
 むしろ今日の諸問題を紐解く鍵として共同体意識というものについてもっと熟慮するべきではないかということや現代に見合った共同体的な意識の構築の有用性等についても考えさせられました。
 
最後に
 犬島、直島、豊島での経験は美しい瀬戸内海、モダンアートを見ながらの心地よいものでしたがまちづくり、社会問題等についての多くの知見を得ることができた有意義なものでした。今度、また誰かと再び訪れたい、そんな気になっております。そして、直島がいずれ007の舞台として映画化されることを期待しつつ筆をおきたいと思います。