2009年 直島特別例会
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◆森田 明男(岡山政経塾 八期生)
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ベネッセアートサイト直島合宿レポート
『アートと産廃、いずれも人が造り出した対極のモノ。』
24時間100km歩行、自衛隊体験入隊と体育会系の行事が終わり、まるで小学生が遠足を心待ちにして前夜眠れないという感覚に近いようなワクワクする気持ちになるほど、この直島特別合宿は私にとって楽しみな行事でありました。それはこれまでとは違い、もう肉体を酷使する必要がないんだという安堵感もあるのだと思います。また、この直島特別合宿が瀬戸内の潮騒の香りと現代アートという文化の匂いに満ち溢れる代表的な文化会系の行事であることも当然あるのだと思います。しかし、それ以上にこの興味の大きさというものは、今の私の職業と大いに関係もしているのです。
岡山政経塾8期に入塾させていただくにあたり、式典の決意表明で私は次のように述べました。 「私は現在、広告の仕事に就いており、それは天職であったかのように楽しく働けている。そしてその広告は人々に夢や希望、期待などを与えることができるチカラも持っていると思っている。私はこの岡山政経塾での学びと縁を活かし、この広告のチカラを使って世の中に蔓延している閉塞感を打破していきたい。そして、そのために政治、経済、文化、教育、福祉などのテーマをもっと掘り下げて今一度きちんと向き合っていきたいと考えている。」
文化は、スポーツ同様、その広告という分野とも密接な関係にあるものであり、ある意味では私の仕事の領域とも言えるものでもあります。その文化の先端モデルと身近に触れ合えるのだから、楽しみにならないわけがないのです。なぜ、文化やスポーツは、多くの人々に喜びや感動といったものを与えることができるのでしょうか。それらを紐解いていくことで、私の分科会でのテーマもより鮮明になっていくのではないかと関心が膨らんでいったのです。
現代アートの素晴らしさを感じた犬島・直島。
瀬戸内の島々のなかで唯一、岡山県に属してアート展開を見せる犬島。この小さい島に以前は数千人の人たちが移り住み、銅の精錬などで生計を立てていたのですという浪漫溢れるガイドさんの案内からアートの世界へと引き込まれていきました。赤レンガで造られた煙突とカラミ煉瓦の石塀がまず歴史と風情を醸し出している。まるで早く見てくれと言わんばかりの個性の主張。そしてミュージアムの入り口を通り、自然との共生を考えた建造物という構造的な話しに左脳は納得しながら、右脳はもう迷路を進む子供のような嬉しさで早くもワクワクの第1ピークです。建築家三分一氏、アーティスト柳氏の見事なコラボがその後もずっと続いていく。どんどんその作品に魅了されていく自分がいる。三島由紀夫をテーマとした素晴らしいミュージアムである。この犬島でも今後、家プロジェクトが始まるとのこと。またそれらがスタートしたら是非訪れてみたいと思わせる素敵なアートサイトでした。
直島は、この特別合宿の下見でも一度訪問させていただいたので、今回で2回目となるのですが、地中美術館やミュージアムは何度訪れても飽きることがなかったです。この建物も安藤忠雄氏と各アーティストのコラボが絶妙です。近代建築と現代アートが上手く融合している。ただ、今回、初体験であった直島家プロジェクトはなぜか私には理解不能でした。宮島達男・角屋は何となく芸術の素晴らしさを理解できた感がありましたが、あとは分からず、全て「?」が付きました。ちょっと難解な作品が多いのだろか。しかし、何回か訪れて観賞しているうちに「?」が解けることもあるかもしれません。今後の楽しみとしたいと思います。
これらの現代アートに触れてひとつだけ分かったことがあります。アートは空間を支配するということです。そしてその空間は強烈に人々の五感を刺激します。アート作品そのものだけの価値ではなく、やはり近代建築であれ、過疎廃屋であれ、何かの構造物とコラボレーションした瞬間にその価値以上の魅力を空間として発信し出すのではないでしょうか。ヨーロッパの街並みや日本の禅寺などもそうですが、日常ではない異空間に身を置き、美的価値のあるものに接した時に感性は反応するのだと思いました。
産廃の島、豊島での人間の愚かさ。
翌日の豊島では、元県議の石井氏の解説と講演で産廃と闘った島民の方々の歴史と現実を伺った。ある一人の金儲け主義の悪知恵が、行政で捻じ曲げられて正当化され25年という長い歳月のかかるゴミ問題となった。和解が成立し、600億円もの費用(税金)が投入され、今も事後処理が行われているのですが、まだまだ完全な回復までは先が見えない状況のようである。産業廃棄物は本来、文明進化の証しであり、供給した生産者と需要した生活者が一体となって循環型社会のためにリサイクル、リフォーム、そしてリユースをまず模索すべきものでなくてはなりません。そのうえでどうしても出るゴミはできるだけ無害化して廃棄しなくてはいけない。なぜそのことができず、このような事態となったのか。そこには正義という言葉もない。道徳や倫理という観念すらない。あるのは人間のエゴだけではなかったかと思います。それらと闘い続けた石井氏始め、島民の方々のご苦労とご尽力にはひたすら頭が下がります。この豊島教訓は、もっと広く社会に知られ、そして活かされなければならないと思います。そしてこのことが風化せず後世の人々に語り継がれることも大切なことだと思います。しかし、一方で犬島、直島のように限界集落を超えて人々を惹きつけるアートの島、豊島となっていくことも例えば重要なことです。現在は過去のためにあるものではなく、未来のためにあるものだとしたら、これから豊島がどのように変貌していくのか、また活性していくのかにも石井氏のようなパワー溢れる方達の英知が求められているのだと思います。重く、そして深く考えさせられる産廃の現状ではありましたが、豊島の来年完成される予定の貝殻シェル型ミュージアムや家プロジェクト、そして棚田クラブなど、ますます文化軸へシフトし、発展・進化していくであろう豊島に心底エールを贈りたいと思います。
この特別合宿のまとめとして。
この特別合宿を通じて、私なりに学ぶべき分科会のテーマがおぼろげながら見えてきました。文化という視点で街づくり・地域活性を考えてみたいと今は思っています。理屈抜きでアートは人に感動を与えます。しかも空間創造しながら五感に働き掛けをしてくれます。私たち人間は、この感受性をもっと豊かにしていかなければならないと思います。直島マリーナでの福武幹事のご講演と手料理でのおもてなしは本当にココロに活力をいただいた最高の空間創造であったと思います。この場を借りまして心から謝辞を申し上げます。ありがとうございました。また、小山事務局長始め、6期の西美さん、7期の藤井さんにはいろいろとお心配りをいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。豊島では地元有志の方々のお世話にもなりました。大変助かりました。ありがとうございました。また、是非訪れますので、その時も宜しくお願いいたします。アートと産廃という対極にあるモノを一度に見せていただける、この政経塾ってつくづく凄いなあって正直思います。当然見た時点では気持ちも対極の気持ちになりました。
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