2010年 直島特別例会
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◆和田 治郎(岡山政経塾 九期生)
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松下政経塾・日本青年会議所・岡山政経塾 直島合同合宿レポート
『忍び寄る固定観念』
はじめに
岡山市内に住んでいながら、直島には行ったことがありませんでした。
現代アートの地として、直島は岡山よりも東京で、日本よりも海外で有名とのことで、実際に直島では外国人観光者を多く見かけました。講義の中でも複数の講師の方から「情報発信が日本は弱い」とのコメントがありましたが、直島の状況からユニークな存在というものはそれ自体にパワーがあり人を惹きつけるもので、現代アートと地域が結びついている直島に行って体感することは、説明はできないが何かしら自分にプラスになると期待しての参加でした。
講演
今回は4名の方の講演を頂きました。
直島プロジェクトについて〜直島文化村 副社長 笠原良二氏
直島のまちづくり基本構想は、直島を3エリアに区分し、北は産業エリア、中は生活、教育エリア、南は瀬戸内海国立公園を生かした文化・リゾートエリアするもので、長期にわたる町長であった三宅親連氏の想いが色濃く影響しているとのことでした。また、南エリアの開発に理想のパートナーが現れるまで10年待ったとのことで、地域創りは長期的な視野に基づくことも重要であると改めて感じました。
地域造りと現代アートについては、「水平化」と「深化」の両方向での展開が行われ、「水平化」としては地域住民と外部との繋がり、「深化」としては現代アートとしてのレベルを高める「地中美術館」の創設があったとのことで、長い時間の中でしっかりとした方向づけがなければ、これだけのユニークな地域にはならなかったのだと思いました。
21世紀社会と電気自動車〜慶応大学 清水浩教授
清水教授の講演から、自分の考えが変化に対応していない固定観念となっている危険を知ることができました。
「温暖化は人の贅沢、モラルハザードが原因か?」の問いに対して、私の中では「YES」、清水教授の答えは「NO 現在においても、前世紀の技術の使用が問題であり、新しい技術により、この問題は解決する」で、具体的には、陸地の1.5%に設備をおけば世界で必要となるエネルギーを太陽光から得ることができ、しかも95%のCO2の削減が可能になるだろうとのことでした。
「エネルギー資源は有限であり、今後はエネルギー資源の確保や温暖化対応コストで経済は大きな制約を受ける」これが私の中での当然のこととして頭の中にあり、その前提の元で多くの事象を考えていた−自分の中で何かヒヤリとするほどのショックを受けました。
清水教授は技術普及のスピードが最も重要であり、長年にわたり培われた技術情報をオープンにし仲間を増やしていくといった方法で、技術普及を図りマーケットを拡大する。
これが世界的な幸福につながるとの考えに基づき、事業展開をしていくとのことでした。講義中、「国益」の話もでましたので、この事業でのパートナーの選定で何からの線引きがあるのかもしれませんが、個人的には情報のオープン化は国益の観点からはそれがよい方法なのか、不安も感じました。技術情報についての考え方から、考える基軸が清水教授と私では違いがあり、私は日本が基軸ですが、清水教授は世界が基軸なのかもしれないと思いましたが、2日目の村田教授の講演の中で、経済力については世界の障壁がなくなり、「技術革新がどこで起こるかは国の運命を決定することにはならない」とのコメントを聞いた時、昨今よく言われている「技術情報が日本から外国に安価に提供されることにより国益が損なわれている」との意見も、今後は技術普及をコントロールすること自体が困難となり、技術情報のオープン化が今後は普通のことになるかもしれないと感じました。
益田市 福原慎太郎市長
「おそらく、自治体の首長の中でもユニークな存在」これが福原市長から受けた印象でした。なにかユニークか?それは自治体経営に「美的センス」を重視している点で、講義中に何度も「美的センス」という言葉を取り上げられ、「マネジメントには美的センスが必要」、「価値を決定するものは、内容とデザイン、デザインは美的センス」など、ここまで自治体経営に対して、「美的センス」を重視している首長は一握りであろうと思いました。
他の講演で「芸術に触れることによって、はじめて革新性のある技術も生まれ、芸術文化があるところが社会として生き続ける」との内容を聞いたことを思い出し、芸術と経済についての因果関係を証明することは無理ですが、歴史的事実として福原市長の考え方は正しいのだろうと思いました。
また、新しい自治体経営として、「職員半減、サービス倍増」を1つの目標として掲げられ、「これまでの発想では持たない」と言われていました。職員半減、サービス倍増のための具体的な方法についてのコメントはありませんでしたが、これは現在方法の模索中なのかもしれません。どこの自治体でも同じような目標を掲げていますが実現の進まないテーマであり、今後の益田市の動向について注視していきたいと思います。
同志社大学 村田晃嗣教授
多岐の内容を様々な視点から説明され、単純に「さすがにすごいな」と感心させられるばかりでしたが、自分の中で最も印象に残ったのは「世界を一律の考えることはできない、国単位が最大であることはおそらく50年は変わらない。国境という線引きは残る」とのコメントでした。この点は個人的にも全く同感ですが、全体の講演を聴き、これさえも固定概念になりかねないかもしれないとも思いました。
おわりに
自分の中で形成されている考え方が、実はその考え方の前提となっている状況が意識していない間に変化し、陳腐化している可能性がある−これが今回の直島例会で最も強く思い知らされたことで、ある程度は強制的にでも自分の仕事なり日常生活の領域とは異なる社会の変化について意識する必要があると感じました。
今回は2日目途中で帰らなければならず、現代アートは少ししか見ることができませんでした。また直島に来て、今度はゆっくりと現代アートを見たいと思います。
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