2012年 直島特別例会
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◆白土 陽子(岡山政経塾 十一期生)
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岡山政経塾 直島特別例会レポート
『アートと産廃と笑顔』
●はじめに
瀬戸内海に浮かぶ島に突然現れた赤いかぼちゃ。地中に埋められた美術館や、大きな煙突を持つ建物。その一見ミスマッチな光景が妙にマッチしていて、一瞬で心を奪われた。それは、島々の産廃と過疎という影にあてられた、アートという光。この島で出会ったのは、想像以上の感動と課題だった。
今回の合宿に関わってくださった全ての皆様、訪れた全ての場所で大変多くの気付きと学びがありました。本当にありがとうございました。
1、アート
正直、現代アートは理解しがたく苦手だったのだが、島々のアートは理解するものではなく、観て聞いて匂って感じて楽しむものだった。魅力溢れる作品の数々。その魅力がいったい何なのかを考えた。
まず、島々のアートには枠を感じない。作者が思う存分表現し、その手法が自由だ。空間が光で満たされたジェームス・タレルの作品は、思わずため息が出るほどに自分の中の感覚を呼び覚ます。ウォルター・デ・マリアの作品は、これはいったい何?と自由に考えさせてくれる。モネの睡蓮は、絵だけでなく部屋そのものが一つの作品としてとらえられる。さらに、時間により刻々と表情を変えるので、その一瞬一瞬がその時の完成品となる。
また、島々のアートには一体感を感じる。芸術作品というと、美術館に重厚に収められていて「作品」と「観る人」に明確な境があると思っていたが、ここでは自分も作品の一部になっているという感覚があった。しかも、作品を目の前にした時だけではなく、島に足を踏み入れた瞬間から島との一体感、瀬戸内地域との一体感を感じるほど強力なものだった。ゴミさえも作品にしてしまうこの島には、何か作品と島と人と自然をつなげる力が働いているようだった。
2、講演
お二人からは共通して強い信念を感じた。誰に何を言われても貫き続ける強い意志が、最高で最大の結果を作る。
橋川さんは、おかげ横丁のコンセプトにあった商品をおかげ横丁の基準で採用するという姿勢や建物を木造にすることで魅力的な商品のある街並みを創りだされている。40分観光の町を年間424万人もの人が訪れる町にするために、特別な趣向をこらしたのではなく、一見当たり前の「参拝客を喜ばせたい」という思いから、若い人もお年寄りも楽しめるような取り組みをされている。講演の後、「まだまだやりたいことの100%ではない」とおっしゃっていた。成功を収めてもなお挑戦し続ける姿勢に感銘を受けた。
福武会長の講演を初めて聞かせていただいた時は、ただただ感動して終わってしまったのだが、今回は一つ一つの言葉がとても胸に響いた。福武会長の持つ強さと同時に、ベネッセという会社を通しての社会への思い、岡山への思い、岡山政経塾への思いを感じた。
今回、福武会長に初めて教育への思いを質問させていただき、「子どもに夢を持たせること」という答えをいただいた。学校では「学力向上」が合言葉になっているが、「何のために=目的」が抜けていることが多い。教師として大人として、目的を持って生きることが、目的を持った子どもを育て、よりよい社会を創ることに結び付く。子どもがやがて大人になり年をとった時に、「今が一番幸せだ」と言える世の中を、私たち“今の”大人が創っていかなければならない。そのことを実行し続けている福武会長の創ってきた成果が、ベネッセや直島などを通して生まれた、人々の笑顔なのだと思う。
3、豊島の産廃問題
この問題について自分が知らなかったこと、そして、「知らない」で済ましてしまっていたことに恥ずかしさを感じた。
産廃の山は、1キロで大人が1人死ぬ量のダイオキシンを含んでいるのだという。それが何十メートルも積み重なっている死の山と向き合わなければならなかった豊島の人々が強いられてきた苦悩ははかりしれない。産廃が土を殺し、水を殺し、生き物を殺してきた事実。それが公になった時、さらに風評被害を生んで島の人を傷つけた。捨てた人間は少々のお金を払っただけで責任をとっていないのに、島の人々が後始末をしなければならない現実。
この現実をどう考えるのか、5年生のクラス児童に話をしてみると「捨てる側が無責任」「お金は国がださなあかんやろ」と口ぐちに答えた。そう答える子ども達も給食は平気で残そうとするし、落ちているゴミに見向きもしない現実。同じ日本、同じ地球に住む者として、知らないでは済まされない現実を自分も学び、子どもに伝え、自分の身になって考えさせ学ばせていくことが教師としての自分の役目だと強く感じた。
●終わりに
直島は、多くのモノをつなげる場所だった。アートと産廃という光と影をつなぎ、島の人同士、島の人と島外の人、県外の人や国外の人をつないだ。また、芸術と人、自然と人、芸術と自然、自然と自然、芸術と芸術、古いものと新しいもの、様々なものをつなげる場所となっている。そして、ここで出会った人々はピュアで笑顔だった。
それらを創った福武会長が、実は一番のアーティストではないかと私は思っている。
芸術は心を豊かにするエネルギー。これからも訪れて、また新たな直島や自分を発見したい。
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