2013年 直島特別例会
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◆井ノ本 瑞恵(岡山政経塾 十二期生)
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岡山政経塾 直島特別例会レポート
『アート』とは、「『思考する』という行為を具現化するための訓練ツール」。
1.直島特別例会に参加するにあたって
直島に上陸するのは、今回が初めてではない。ANDO MUSEUMは初めてだったが、それ以外は以前にも通ったルート。以前訪れた時もほぼ同じ季節であった。
今回の合宿以前の直島の印象は、「直島=芸術の島」であり、自然が多く残る瀬戸内らしい島というものだった。しかし、今回の合宿で、その印象は大きく変わった。
観察し、推察し、少々おこがましいが美的思考力を働かせることにより、以前訪れた時と同じ景色や同じ作品等が、まるで写真に写し撮ったかのように鮮明に記憶に残った。受け止める側の心の持ち方ひとつで、同じ島や作品の印象がここまで違うのかと驚いた。
2日目以降の行程においても、与えられた情報をインプットするだけでなく、目や耳などの五感から得る情報をもとに自ら思考し、その思いや考えを自らの言葉にすることで、それぞれの訪問箇所を自分なりに意味づけし、大変意味のある合宿になった。
2.対話による美術鑑賞=VTS(Visual Thinking Strategies)を通して得たもの
これまで、数多くの美術館を巡り歩いた。どの美術館のどの作品にも、作品名、作者、年代は必ず記載されている。時代背景、作品の制作経緯に言及されているものも多く、時には、作品の見方(楽しみ方)まで指南してくれる。
私が作品を見るときには、まずはその説明書きを読む。次に作品。そして、その作品を理解した気になって美術館をあとにするが、せいぜい記憶に残る作品は数点。時には作品名や時代は思い出せるのに肝心の作品のイメージはうっすらと霞がかかったようではっきり思い出せないものも多い。
ところが、今回のVTSの手法を用いて観察した作品は、ひとつひとつの作品が鮮明に記憶に残っている。なぜなら、自分自身が作品を見て思考するからである。その作品に込められた作者の思いや描かれた時代、作者の境遇、作品のモデルの人間像などを、目を皿のようにして作品の隅々までさまざまなことを観察し、推察する。その過程の中で、さまざまな思いをめぐらせる。そして、他の人の話を聴きながら、更に自分のイメージが膨らんでいく。
VTSには、「正解」はない。「思考する過程」を重視する。
しかし、「正解」はなくとも、自分が観察した結果や推察したことをより正確に他者に伝えるためには、語彙が豊富であることが重要であると感じた。そして、推察するにも観察するにも、自分の様々な経験の中からでなければ、推察することも、表現することもできない。一人ひとりの成長してきた過程が異なるように、同じひとつの作品を見ても、感じ方は100人100通りである。乾いた雑巾をどんなに一生懸命絞っても水が出ないように、経験や感じたことを説明する語彙が少なければ、他者と共有できる情報にも限りがあると実感した。
企業では、「お客さまの立場に立って」という言葉をよく耳にする。
しかし、本当にお客さまの立場に立とうと思えば、推察する力が必要になる。お客さまからのご要望に加え、お客さますら気づいておられない要望を感じ取る力である。この力を発揮するためには、自分の足で現場に出向き、観察、推察し,鋭い感性をもって感じたことを表現する。この経験を積み重ねることが大切だと感じた。
3.「アート」とは何か
この2日間は、これまでとはまったく異なった方法で作品を鑑賞した。その中で感じたことは、これまでのアートの鑑賞は、アートの背景を学ぶ行為にすぎなかったということである。
本来、美術鑑賞というのは、そこにあるすべてのものからさまざまなことを推察し、思考し、その作品を理解しようとする行為であると感じた。
「アート」を自分なりに定義するとすれば、「『思考する』という行為を具現化するための訓練ツール」。さまざまなツール(アート)を活用し訓練を積み重ねることにより、感性が豊かになり、推察力や観察力が向上すると感じた。
4.今回の経験を今後の活動に活かす
五感は鍛えることにより鋭くなる。そして、五感を通して感じたことや考えたこと、推察したことなど自分の考えを周囲に伝えることで、その集団は、より幅広い見方ができる集団になる。
つまり、今後の岡山政経塾での取組み姿勢にも影響するのだが、参加するというのは、その場に居るだけでは、集団の一員としての十分な役割を果たしておらず、自分の意見を述べることにより、集団のレベルの向上に寄与することができると考える。
「正解」を押し付けるのではなく、「思考する過程」を重視するVTSに出会えたことは、これからの自分の人生をも豊かにしてくれるような気がする。思考するときには、固定観念という呪縛から心を解き放ち、まずは目の前にあるものをフィルター(様々な情報等)を取り除いて見て、聴いて、触れて、五感をフルに活用して観察する。そこから推察し、考える。そして、そこに情報を加味することで、より実現性のある思考につながるのだと考える。
今回の合宿は、今後の取組み姿勢を考えさせられるものであった。
今回、VTSの研修を終えた後で、豊島の産業廃棄物不法投棄の現場を視察し、島を蘇らせるために活動をされている安岐さんの話を聞かせていただいた。そして、豊島美術館を訪れた。
もしかすると、VTSを経験していなければ、安岐さんの活動内容を伺っても、涙が止まらないほど心を揺さぶられることはなかったかもしれない。豊島美術館を訪れても、単なる大きなコンクリートの構造物にしか見えなかったかもしれない。
しかし、ただひとついえることは、VTSを経験した後で鑑賞したベネッセ美術館の作品は、明らかに前回見た印象と異なるものだった。
5.最後に
今回の合宿の開催にあたり、計画から実施まで多くの皆さまのお力添えをいただきました。関係者のみなさまに御礼申しあげます。
そして、すばらしい気付きをたくさん聴かせてくれた12期生の仲間に、感謝申しあげます。
以上
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