2009年6月 岡山政経塾 体験入隊 特別例会

 
◆塩澤 勝利(岡山政経塾 八期生)

『自衛隊体験入隊レポート 〜やはり基礎/基本〜』



岡山政経塾は、未来を創造する人間になるために、知識、知見はもとより、その心的土台(勇気、精神力、協調性など)も構築する場と理解する。今回の2日間の自衛隊生活体験入隊で学んだことは、100Km歩行と同じく、それにあたっての基礎/基本ばかり、以下5つのことであった。その学びを文に落とすことで、今回のレポートとしたい。
 @有事への対応力は、自衛隊ばかりでなく、誰にでも必要なこと
 A基盤/土台はセーフティーネットである
 B縁の下の力持ちの必要性と大切さ(陽得と陰徳)
 C教育にも、組織行動にも大切な “For You(us)”、そして、協調性
 D目的、役割理解の大切さ(自分と同じくらい他人にも)


1.有事への対応力は、自衛隊ばかりでなく、誰にでも必要なこと
このことを学んだきっかけとなる出来事は以下2つのことである。
・私の体験当日は、実は、遅刻から始めてしまった。市内での集合/出発時刻=起床時間となってしまい、急いで自分の車で高速で追いかけることにし、皆さんの10分遅れで到着。予定外の車入庫のため、皆さんには多大な迷惑をかけてしまった。土地勘でリカバリーしたが、本当に何かあるときには対応できるのか?予定されていた事項にこの事態なら、予定外のことへの対応力があるとは言えない。
・もう一つが体力測定である。級外、つまり、スタートラインにもたっていないレベルである。特に3km走の時は、やはり自分への甘えからか、気合のない走り。講師の方も最後には体力不足の方が多いと言っていた。気持ち、力とも十分でないと認識した。本当に自分と大切な人を守れるのか?

有事とは何も大きなことばかりではなく、地震、病気、火災、喧嘩に巻き込まれる等の身近なリスクはいつ訪れても不思議ではない。リスク事項の洗い出しと対策、本気で考えたい。

2.基盤/土台はセーフティーネットである
1に重なる。心身含む体は普段から基盤/土台であるが、普段起きることに加え、リスクまで想定した準備があってこそ基盤/土台と胸を張って言えると思う。仕事でも基盤を扱うが、ここでも大切な考え方である。

3.縁の下の力持ちの必要性と大切さ(陽得と陰徳)
1日目の懇親会の時、講師の方は、自衛隊は縁の下の力持ちであると仰っていた。
大地震、大災害の救助の時、大きな物を避けるのは自衛隊の役割、救助に直接携わるのは救急、消防の方であり、報道場面では、自衛隊の作業場面を報道されることは少なく、救急、消防の場面ばかり報道されると教えて頂いた。
短絡的解釈かもしれぬが、この一事実から導き出されることは、目立つ/知られる部分は救急や消防、目立たぬ/知られない部分は自衛隊、となっていること。そして、そのような印象を見ている人々に植え付けていること。
しかし、果たして、自衛隊の動きなく救助はできただろうか?自衛隊への風当たりの強さは随所で耳にするが、それは、こうした役割や活動への理解不足も起因するのかもしれない。
仕事に置き換えてみても、販売や商品開発成功に直接携わった人は、たとえ裏には失敗があってもヒーロー化され、一方、間接部門の人は、血の滲む努力を重ねて出来るようにしたことも、出来て当たり前と思われ、出来ていない部分を攻められる事態がどうしても発生する。しかし、間接部門の動きなくして、販売や商品開発成功が出来ただろうか?こういう事態も、同じく、役割や活動への理解不足も起因するのかもしれない。

単純である。「なかったらどうなる?」強い風を向ける前にこう問えばいいのである。自ずと5に記す目的や役割理解に繋がる。逆に言うと、目的や役割理解があれば、安直な風当てには発展しない。
陰徳なくして陽徳なし。縁の下の力持ちは自ずと必要なこと。

4.教育にも、組織行動にも大切な “For You(us)”、そして、協調性
これを学んだ出来事は以下の通りである。
・緊張感足りない始まりだったためか、最初から喝を入れてくださった。我々の目的を考え、敢えて憎まれ役を買ってくれた。
・指導、行動の場面で、一言一句は覚えていないが、「これから●●を行います」「目的は●●です」と随所で確認が行われたこと。
・懇親会の場面での「有事場面で、もし水分がわずかなら、部下に水を遣り、自分はどうなってもいいとの覚悟は出来ている」との発言。文にすると、偽善的かもしれないが、表情は真剣で偽善、欺瞞は微塵も感じなかった。
・過酷で緊張感ある教練の中で、教習事項を余すことなく伝授する中でも、不慣れで体力不足の我々を気遣い、時には笑いや冗談を入れたり、汗拭き時間を与えたりしてくださった。
・集合時間の決まった集団入浴。しかし、集合に何人かが2分ほど遅れ、「数人の遅れが集団の遅れに通じる。集合時間は教えあうように。」との叱責。蛇足だが、自衛隊の時間への厳しさはここにある。
・何度も聞いた、みんなで協力し合うようにとの発言。

自衛隊の皆さんの行動、指示は、それぞれ個々が目的や役割を持ちながらも、他者の目的や役割と有機的に繋がっていた。当たり前すぎるが、“For You(us)”、そして、協調性、そして、5に記す目的、役割理解が当たり前になされている。これらの当たり前の基礎/基本が、有事への対応力の強さ、そして懇親会で聞いた諸外国から脅威視されている一要因かと考える。
人間は、自分のことは放っておいても考える。日常でも、個人主義の横行からか、自分だけよければ、の向きも随所に感じる。例えば、自分の欲や成功のために、他人を犠牲にしたり、迷惑をかけたり、貶めたり。個人は集団なくして生きられない。そのためには、自ずと、全体最適>個別最適。使い古された“For You(us)”、そして、協調性という言葉の意味、今一度考えた機会であった。エゴがでたら自分に黄色信号を示すようにしたい。

5.目的、役割理解の大切さ(自分と同じくらい他人にも)
これまで述べたことと多くがオーバーラップするが、学んだこととして一項目立てたい。自分と同じくらい他人の目的、役割が心底理解できれば、自分と同じくらい他人を思い遣れる。そうすれば無神経な他人批判も防げる。理想論であるが、このような精神を持ち、自衛隊を理解すれば、自ずと風当たりの強さは軽減できると考える。今すぐ多くの人に求めるのは無理であるが、少なくても自分は今後、このことを肝に銘じ、日々歩んで行きたい。