2010年 直島特別例会

 
◆松田 浩明(岡山政経塾 九期生)
松下政経塾・日本青年会議所・岡山政経塾  直島合同合宿レポート
  『よく生きるとは何か』


 「見る・聞く・体感する・考える力を身につける・発想の転換をする」ことが目的であった今回の直島特別例会で得られた経験から行き着いたのは「よく生きる(Benesse)」とは何かを考えることだった。

1.ある物を生かして新しいものを造る
 ベネッセアートサイト直島の現代アートのコンセプトはcommission work形式によるsite specific workであることを教わった。ベネッセハウスミュージアムの作品、地中美術館の作品、建物自体も直島固有の風土、風景、地形を活用して新たな作品を創造している。家プロジェクトは、地元の人々の暮らしや歴史が染み込んだ建物にアートを組み合わせて新たな命を吹き込んでいた。現在の日本、地域社会も限られた資源、人材、環境の中で今後どのように行く末を決定していくのか、また個人レベルでも個々の長所、才能をどのように社会、組織で生かしていくのか、あらゆるレベルの問題解決に通じるコンセプトであると感じた。

2.感覚のリセット・発想の転換
 今回の現代アート作品の中で特に印象深かった作品はジェームズ・タレルの光を題材にした作品であった。地中美術館の「オープン・フィールド」、家プロジェクトの「南寺、バックサイド オブ ザ ムーン」での「光をみる」体験。一見スクリーンだが、少しずつ近づくと光に満たされた無限の空間が眼前に展開するような体感を得られる。通常、光は我々の周りに溢れているが、光を利用してこのような空間を創造可能であることは私には想像もできなかった。多忙な日常生活の中で損得や効率を第一に考えていては、このような発想の転換は無理だろう。日常の中で、自分の目、耳、鼻、舌、皮膚で得られる感覚をその瞬間ごとに捕らえて常に頭の中を新鮮にしていることが、既存の価値観を超えた新たな発想につながるのだろう。現代アートは私に五感を先鋭化して発想を転換することの大切さを再認識させてくれた。

3.共生
 これからの世界では、生きてきた自然環境、培った歴史、文化の異なる人々が限られた地球という枠組みの中で暮らしていかなくてはならない。ベネッセアートサイト直島は、直島という瀬戸内の自然、そこに住む人々の歴史、文化に現代アートという新しい感覚を融合させることから、多様な人々がお互いを理解、尊重して共生していく心地よさを提供しているのではないだろうか。このプロジュクトは二十年以上も経過して試行錯誤しながら次第にすばらしい形となってみえてきたが、地中美術館が今後1000年後も存続することを念頭に建築されたように、共生とは長い時間をかけて完成に近づいていく忘れてはならないテーマだと思った。

 直島例会は、今までの例会と比べ一味違った新鮮な感覚を残した。それは結局、「よく生きる」とは何かについての解答だった。日常に忙殺されそうになった時、再度訪れてこの感覚へリセットしたい。