日本人の心の故郷「お伊勢さん」
西井隆之 (岡山政経塾 17期生)
秋晴れの空の下、赤や黄色に染まった「お伊勢さん」は多くの観光客で賑わっていた。前日に寒いと聞かされ防寒対策も見事に空振りで、コートを脱いで歩けるくらい温かく、これもお伊勢さんの粋なおもてなしだったのかもしれない。
伊勢の視察は昨年も参加したが、今年は秋の連休の重なり凄い人の数だった。駅からのバスを待つのも、ディズニーランドのアトラクション街の行列ですか?!と思うくらいの列で、おかげ横丁の参道もすれ違うたび肩がぶつかっていた。およその数でいうと2万5千人だったらしく、正月が3万人というのだから相当の人出だったのは数字を聞けばうかがい知ることができた。
これだけの観光客が押し寄せる『お伊勢さん』の魅力とは何か?リピート率も高く、平均年齢も子供や10代の若者を除けば、割と幅広いように思う。伊勢神宮だけのブランド力では式年遷宮のようなプレミアオプションでもない限り人は殺到しない。少なくとも自分はそれでも参拝、観光しようとは思わない。「お伊勢さんに行こう」と思う理由は何なのか…?
「おかげさま」おかげ横丁のおもてなし
おかげ横丁を運営している株式会社伊勢福の橋川社長曰く、おかげ横丁のコンセプトは「伊勢らしい町」。神宮参拝で人をもてなすのに「おかげ横丁らしさ」をアピールしたという。伝統的な伊勢の町並みを再現することで、伝統的で心地良い空間を作り出した。
パワースポットでもある伊勢神宮は外宮・内宮共に一歩足を踏み入れると凛とした空気に変わる神聖な場所である。昔から人々は八百万の神に願い感謝してきた。そんな神聖な場所から、参宮客をもてなしたのがお払い町であった。時代が近代化するにつれ、道路や車の利用でおはらい町は素通りされる町になった。そんな現状を打破しようと立ち上がったのが老舗和菓子店の赤福だった。
晴れやかで庶民的な空間を創造することにより、日本人の心の故郷として伊勢を位置づけるという考えは、見事に観光客の心をつかみ年間550万人が訪れる観光地となったのである。
観光客の観光目的の一つにグルメがある。どんなに良い景勝地に行っても食べ物がおいしくなければ良い印象も激減する。おかげ横丁には誰もが知る「赤福」と「伊勢うどん」がある。赤福はお土産のマストアイテムで売り場は人でごった返している。伊勢うどんも常に満席で立っているのか座っているのか分からない恰好で食べている人がいるくらいだ。他にもスウィーツや伝統的な和菓子、日本らしいお食事処など、飲食業をしている自分には感心する町並みだった。もちろん、食べ物だけでなく、お土産や体験できる施設などもあり、参拝者をおもてなしする意気込みが随所に見受けられた。単に数字だけを見るのではない、顧客満足度が毎年の数字に表れているのだと思った。
「変わること」と「変わらないこと」
もうすぐ平成という時代が終わる。伊勢神宮ができたころからいえば色々なことが変わってきた。風景も生活スタイルも便利さも不便さも様々な形で変化している。橋川社長は、今年は例年よりおかげ横丁の観光客数が減っているという。単純に式年遷宮の年が特別多かったし、伊勢神宮の参拝客が少なくなっているのであれば仕方がないと思うのがふつうであるが、橋川社長が理由の見直しをしているという。「おもてなし」の見直しなのだと思った。日本人の心の根底は変わらない。だが、環境が変わると押し付けだったり独りよがりだったりする。「おもてなしの心」が取り残されないように常に「来る人」の気持ちに寄り添って進化しているのだと思った。
自分の仕事にも通ずるものがあった今回の視察は大変勉強になった。あとは、我が家の天照大神が天岩戸に閉じこもらないように、おもてなししよう。