岡山政経塾 チーム21

 

◆岡山市中心市街地の現状と未来への取り組み◆
〜市民の声から〜


第二章  取り組むべき現状と課題、そして未来のための対策
 第4項

                   7期生 富田 泰成


 (1)観光客や訪問客が求めている岡山市の現状と課題

1 岡山市のこれからに向けた観光戦略案
 
 岡山県の調査では、07年の県内観光客は2502万人と前年よりわずかに増えたものの、ピーク時の1997年の2700万人以上と比較し、低い水準にとどまっている。岡山市が09年4月より政令市に指定され、県都としての魅力を向上させることで、必然的に県全体の観光活性化にも貢献できるものであろう。また、その魅力の向上のさせ方にこそ、岡山市が、県の玄関口であり、政令市としての役割を果たせるかどうかの真価が問われてくることになる。そこで、現在、岡山市が来訪者をどのように呼び込み、それを観光にどのようにつなげるかというビジョンと戦略について、ここで考察しておきたい。

(1)岡山市の観光戦略の前提とするもの 
 岡山市ホームページから経済局観光課による岡山市中心部の観光マップを閲覧することができる。そこでは、岡山市中心部の観光名所が配置され、そのひとつひとつの詳細を確認することができるため、特定の名所に関心のある旅行者には興味深い内容となっている。
 
 しかし、ここで1点注目されることは、こうした市の名所を紹介する場に「表町商店街」など、メイン通りや、商業施設の紹介が一切触れられていない点である。それどころか、岡山の街の風景の紹介が為されていない。とても、岡山市が正式に公表している旅行案内とは思えない内容である。
 一方、金沢市、松江市などの市の旅情報を提供したホームページを確認すると、旅ルートの検索が魅力的に紹介されていたり、体験型の街中散策の案内が、観光名所と並んで、詳細に示されている。
 
 そもそも、観光の目玉の一つとして、京都の錦通り、佐世保商店街や、大阪天神橋筋、福岡市の中洲川端、などの例にあるように、その地のメイン商店街を観光のルートに想定しておくことは、実際に旅行を楽しんだ経験があれば、当然考えられていてしかるべきである。ここで考えておかなくてはならないテーマがある。「今の旅行者は何を求めて旅行に出るのだろうか。」
 旅行は、目的地の名所を楽しむのと同時に、その旅路(プロセス)の散策や、そこで起こる予想外のエピソードや、地元の人との対話などと、多面的な触れ合いの体験の中にこそ思い出が込められると私は考える。
 しかし、市の観光施策を見る限り、ツアーガイドに旗をふられて名所目的で観光に来る、旧来の旅行の感覚を、そのまま今の時代に持ちこんでいるように思えてならない。役所内では観光と商店街はテーマを扱う課が分かれているのであろうが、観光者にとっては、一本の「旅路」なのである。
 この前提部分に狂いがある限り、岡山市がどのように街をPRしても外部から来る顧客のニーズとの目線は合わないのではないだろうか。
 例えば、ヨーロッパからの観光客を呼び込むのに、和風の旅館を改造し、ソファーとベッドとシャワーと洋食をPRする旅館が決してはやらないのと同じように、顧客の気持ちになってニーズを捕らえる感覚を持たなければ、観光客は、一度は来ても二度は来てくれないだろう。
 
 この岡山市における観光施策に目線のズレを感じる背景を考察した結果、岡山市を取り巻くある特徴的な傾向に注目することになったのである。

(2) 岡山市が観光で軽視される必然性
 県の公式ホームページにある岡山県産業労働部観光物産課による「観光客・その流れと傾向 平成19年」によると、岡山県への観光客のうち、自家用車利用・観光バス利用による近隣県からの訪問が圧倒的多数を占めている。
 統計では、平成19年には92.8%が県内・近畿・中国・四国などの近隣県からの観光者であり、全観光者2502万人のうち、89.9%が自家用車・観光バス利用者で占められている。
 更に、近隣県から自家用車、観光バスを利用して観光することを前提としていることから、日帰りが可能となり、経済効果の一番高い宿泊客を逃している現状もある。同調査によると、宿泊は観光者全体の3分の1。旅行者に対しての宿泊者数の割合では全国で27位、しかも、毎年その人数が減少している傾向にある。
 
 このことから、岡山県の場合、日帰りを前提に、目的を絞り直接車で観光地を巡り、見終わるとまた車に乗り込み、別の観光地へ移動する。そして、観光が終わると家路に着く、といった飛び石状に、街の風景を素通りしていく観光スタイルが、定着している傾向が強いことが見えてくる。
 その結果、県外からの旅行者が利用するJRの玄関口としての岡山市の役割は、軽視されることになり、岡山県の旅行の拠点には必然的に成り得ない状態になっているのである。
 従って、岡山市中心部の週末の風景は、相対的に地元の若者の占有率が圧倒的に高くなり、外部からの来訪者を受け入れることを想定する必要性もなくなってしまうことになる。
 その結果、「内輪」で満足できれば事足りるだけの街が出来上がってしまうと考えられるのである。(他県、地方都市においても同じような現象は多少なりとも見られているはずであるが。)

(3)岡山市が目指す観光の前提部分を見直す
 (2)項で考えてきた仮説のような「内輪」偏重にならざるを得ない回路を断ち切るには、これまでの岡山市がとってきた戦略の、前提部分を疑っていかなければなるまい。
 つまり、「旅行=名所の見物」といった、今日の一般市民のニーズから程遠い固定概念から、早く抜け出すと同時に、街を素通りする観光スタイルの見直しを重点的に行っていく。もっと言及すれば、点在する名所間の移動のプロセスの中にこそ旅行者が求めるものがある、と仮定することに、戦略の前提そのものを転換していく必要があるのではないだろうか。
 
 では、その仮定による施策が現実に進行していった場合、結果としてどんな利益が岡山市にもたらされるのかを想定してみたい。
 
 まず、プロセス重視型の観光の形を重視することで、観光拠点間における街全体の人の流れが活発化し、商店街やその他の商業施設への人の呼び込みにつながる可能性が高くなる。
 また、歩行による散策を推進することで、JR利用客が増加し、これまで車や観光バスでは、遠すぎて敬遠されていた県からの来訪者に対しても岡山市観光をPRする前提ができることになる。
 同時に、遠方からの旅行者が増えることで、県内観光の移動拠点としての岡山市内に1泊し、経済面での波及効果をもたらす可能性が高まっていく。
 
 こうした、将来に向けた岡山市の観光活性化に向け、岡山市の年間観光客数を2008年現在の430万人の現状から5年で100万人増やし530万人にするための施策を、ここで「岡山市観光戦略案―岡山市観光客5年530万人計画―」(以下、「戦略案」と称す)として考察し、本論文の全過程を貫く骨格に据えていきたい。この戦略については、詳しく第4項で説明することにする。
 
 さて、(4)項に移る前に、観光客の統計データについて触れておきたい。
 現在、岡山市が発表している観光人数調査では、岡山市の年間観光客数は07年度430万人としている。しかし、これには実数としての統計が正しく為されていない。つまり、特定の観光地の入場者数を足し合わせた数字でしかないのである。例えば、一人の観光客が後楽園、岡山城、オリエント博物館の3ヶ所を訪問した場合、それは3名の観客数とカウントされているのが実態である。よって、実数は多く見積もっても3分の1(150〜200万人)程度と考えた方がよさそうである。(表A参照)  

(表A) 岡山市観光客数

 
 しかし、実際に岡山市企画局総合政策課が平成18年に発表している「岡山都市ビジョン」(表B)にも、この数値を使った目標設定がなされており、現在2008年(平成20年)から見れば2年後に465万人。7年後に515万人。17年後に570万人と数字が設定されている。数値目標を設定し、それを目指したプランを立てようとしていることは、評価に値することであろう。
 
(表B) 岡山観光目標 
          2007年  2010  2015   2025 

 

現状値

平成22年度

平成27年度

平成37年度

岡山の魅力
発信度

年間
観光客数

425万人

465万人

515万人

570万人

年間観光
消費額

20,039
百万円

21,925
百万円

25,750
百万円

28,250
百万円

観光ボランティア数

201

240

290

500

              岡山市企画局総合政策課「岡山都市ビジョン」より


 ただ、その目標数字の元になる統計に関しては、常に総数でしかないことを意識しておきたい。
 ここで言う「総数」は人数ではない。1人ひとりを呼び込み、もてなす気構えを重視した戦略を構築していきたい。
 現在は、実人数による統計データは残念ながら存在せず、やむなく市で公表されている数値で本論文の戦略構築の目標とする。しかし、一人が市内のどの場所を何回巡っても、あくまでも一人の観光客が楽しんだ一回の訪問であり、そのような人が一人でも増え、また何回でも訪問してもらえるようにする方向性を見失うことなく、この戦略に込めていくものとする。

(4)「岡山市観光戦略案」の方向性
 岡山市の観光客総数を5年で100万人増やして530万人にすることを目指したプランを実現することを考えた「戦略案―岡山市観光客5年530万人計画―」を、ここで詳しく紹介したい。当戦略案では、より具体的に、対策と、効果を見えやすくするために、「招聘(招き入れ)」と「街づくり」の2つに分類し、考察を深めることにする。(表C「岡山市観光客5年530万人計画案」参照)
 
(表C) 岡山市観光客5年530万人計画案


@「招聘(招きいれ)」とは、岡山県外から岡山市来訪者を増やすための計画である。そのための施策としては、「やり方」・「対象」・「想定交通機関」の3つの観点で、PRする方向を見直していく。(PR想定700万人中10%の70万人を新たに呼び込むための計画。

A「街づくり」とは、呼び込むことができた来訪者を、満足させ、再度訪問し
てみたいと思わせる魅力と求心力を街に持たせる計画である。そのための施策としては、「人の流れ」・「拠点」・「ルート」の3つの方向で充実させていくことで、街の変革を推進していく。
 (@で新たにPRに応じて訪問した岡山観光客70万人のうち、80%・56万人が満足し、そのうち60%・33万人をリピーターに変えるための魅力溢れる街づくりの計画。すると、満足したリピーターが岡山市に2回訪問した場合、70万人の新たな観光客に加え、33万人の再訪問が加算されることで、年間新規顧客が100万人を越えることになる。)

 この戦略の最終的な到達点は、岡山市に立ち寄る人が観光客に変わり、観光客がリピーターとして再び岡山市に戻ってくる。更にリピーターは、口コミで観光客を呼び、またリピーターが増えてゆく、という好循環を生み出すことにある。
 また、表C「戦略案」の通り、それぞれの活動に目標数値を持たせ、結果が出なかった場合に、どの局面に原因と改善点があるのかが見えるようにしている。
 これにより、観光に対する方針が毎年変わり、またゼロから検討されるような、努力と結果が積みあがらない状態を回避できることを想定した。
 結果は、2009年〜2013年までの5年間で出すことを想定し、そのために今からできる施策を考えていくことにする。
 


2 人が立ち寄り、人が戻る地方都市を目指して

(1) 来訪して欲しい想定対象(職種、性別、年齢層など)の見直し
 Aでは、「街づくり」による観光客の受け皿に、どのように、また、どのような人を「招き入れる」のかを重点的に検討していきたい。
「戦略案」の2本柱のひとつである「招聘」(「招きいれ」)計画の方向性について、第1章では次のように説明した。
「岡山県外から岡山市来訪者を増やすための計画。そのための施策としては、「やり方」・「対象」・「想定交通機関」の3つの観点で、PRする方向を見直していく。」
 
 この「招聘(招き入れ)」の3つの観点を更に詳しく整理したい。
・「やり方を変える」・・・一律同じことを投げかけるだけでなく、口コミやNETを含めた施策を行なう(時代と地域と年齢層に即したPR)

・「対象を変える」・・・従来の観光希望者だけでなく、観光目的以外の来訪者に対して、岡山の魅力を訴えること(岡山市非観光者に対するPR)

・「想定交通機関を変える」・・・JR利用による岡山駅利用者を増やす(遠方来訪者へのPR)
 この中でも、「対象」を変える」について、ここでは重点的に取り扱って考えていきたい。なぜなら、PRしたい対象を定めることで、やり方と想定する移動機関についても戦術の方向が見えてくると考えたからである。

 では、岡山市の観光者の内訳についての現実を捉えた上で、今後想定しなくてはならない「対象」について考察を深めてみたい。

 岡山県による観光調査の結果を見ると、岡山中心部の年間の観光客数は、平成19年では倉敷美観地区には遠く及ばぬものの、104万人と、平成16年に比べて約20万人ほど増加している(表B)。 

            (表B)

 観光客数平成19年 (単位:千人)

 

平成13

14

15

16

17

18

19

後楽園

694

670

672

651

657

664

782

岡山市中心部

809

978

1,038

1,046

吉備路

1,708

1,728

1,722

1,760

岡山市郊外

257

600

802

803

倉敷美観地区

2916

3039

3070

3071

3073

3209

3206

(岡山県産業労働部観光物産課 「観光客・その流れと傾向」岡山県観光客動態調査報告書平成19年

 しかし、同調査書によると、平成19年の調査では池田動物園、岡山城、岡山市の一部の地区での調査を元に割り出した数値を「岡山市中心部」とまとめて表しているため、岡山市に対する魅力の向上と安易に受け取ることはできない。
 
 私が疑問に感じたことは、岡山市を訪れる人のうち、街の中心部を素通りする人がどれだけいるのであろうか、という点である。
 現在、H18年からの岡山市の旅行者人数の伸びは、「微増」とは言え、頭打ちの様相が見られる中、これから観光者になってくれる人をどのように発見し、発掘していくのかを、戦略のビジョンとして持たなくてはならいと考える。
 そのためには、これまで観光招致の対象になっていなかった人を、岡山市の観光につなげていくことが重要なポイントとなる。
 
 例えば、ビジネス目的の来訪者の存在は、県や市の調査でも一切注目されていない(この数字的な調査は一切存在していない)。
 毎日、新幹線の待合室やプラットフォームには、遠方からのビジネス目的の来訪者で溢れている。私は、特に、ここに焦点を絞って、「招聘(招き入れ)」計画の柱にすることにした。
 つまり、平日に、県の玄関口である岡山市を訪問する非観光目的の来訪者を、いかに休日も含めた「お客様」にし、満足度を向上させることでリピートさせるかが、岡山市にとって、有効な観光戦略になり得ると考えたのである。
 
 そこで、岡山市に訪問する平日の来訪者(主に仕事目的で訪問する人たち)が、岡山市をどのようにとらえているのかを自分の可能な範疇で実際に調査し、現状を確認してみることにした。
 そして、調査に先立ち、岡山に住む以前から、外より仕事を通じてこの街を訪問する機会の多かった私なりの仮説を立ててみた。
 
(2)調査の仮説
仮説は、次の通りである。
「岡山駅を利用する多くの岡山市の来訪者は、仕事で訪問することはあれ、街の魅力に気付くことなく、何となく素通りして帰る場合が少なくないはずだ。」
 
 もし、観光目的以外の来訪者の多くが、街を見ずに「素通り」している状況であれば、観光資源や、街の魅力を伝えるチャンスも逃していることから、観光客として再び街に人を呼び込むことも期待できない。従って、現在の旅行者を維持しつつ、素通りする人を観光者に変え、そして一度訪問した人を、つかまえて離さない施策が戦略として重要になると考えられる。
 その意味から、非観光目的の来訪者の意識に関する実態を調査するために、特に岡山駅を利用する来訪者に重点的にアンケート調査を行なった。
 
(3) 実地調査
 (2)項の仮説を、実際に検証してみた結果が、以下の内容である。
 岡山市に出張に来たであろうスーツ姿の会社員計36名に、岡山駅新幹線待合スペース、岡山駅前広場にて、3回に渡りアンケート調査を行った(現在正式調査以外のヒアリングを継続中)。
※ヒアリングをした年齢層は、30代〜40代の中堅会社員が多数を占めており、20代の若年層は4名、50代以上は2名。男性と女性の比率はおおよそ4対1とやや偏りはある。

駅構内アンケートの質問項目は下の5項目である。
@ どこから来たか(北海道・東北・関東・首都圏・関西・北陸・山陰・中四国内・九州)
A 岡山市に来たのは何回目か (はじめて・2〜3回・4〜5回・6回以上)
B 岡山市の街の魅力は何か /フリーアンサー
C 仕事が終わった後泊まってでも飲みに(食べに)行きたいところがあるか /フリーアンサー
D 休日に私服でも来ようと思うか(思う・思わない)/その理由はフリーアンサー

(4) アンケート分析結果
 以下、アンケートの結果から、外から見た岡山市の姿を浮かび上がらせてみたい。
 
◆今回、アンケートに答えてもらうことができた36名は、下「グラフ@」のアンケートより、北海道、東北、北陸以外からの訪問者であり、新幹線利用者ということもあり、特に、首都圏、関西圏、次いで九州の順番で全国に分散していた。
 ここで、注目したいことは、下「グラフA」の回答にも見られるように、3回〜5回以上の多数に渡り岡山市を訪問している人が約6割を占めており、少なくとも、平日スーツを着て岡山市を訪問する人の多くは、本人の訪問の意志にこだわらなければ、多数が実質上リピーターであることが判明した。
 このことから考慮すると、岡山市のビジネス目的においての訪問者の確保は比較的地方都市としての体面を保っているようにも観察できる。
 
「グラフ@」どこから来たか(北海道・東北・関東・首都圏・関西・北陸・山陰・中四国内・九州)


「グラフA」岡山に来たのは何回目か(はじめて・2〜3回・4〜5回・6回以上)


◆では、多数訪問回数を重ねた人たちは、岡山市のどこに魅力を感じているのだろうか。
 なるべくリアリティーのある生の言葉による表現を重視し、下の「表@」のようにフリーアンサーで答えを聞くことにした。しかし、ヒアリングをした訪問者の赤裸々な反応は、想像以上に、岡山市にとっては厳しい内容であった。
 
 岡山市の外部から見た街の魅力のイメージをアンケート「表@」で分類すると、傾向は3つの視点にまとめられる。
【T】環境のよさ (主に「晴れの国」などの天候のイメージが強い)2件/36
【U】暮らしやすさ (田舎であることや、のどかであること) 2件/36
【V】知らない 32件/36
 
 36人のアンケートのうち、フリーで答えてもらえたのは10件。それ以外の人に答えはなく、【V】の「知らない」「わからない」の分類に含まれる。
 下の「表@」の通り、【T】「環境のよさ」と【U】「暮らしやすさ」を合わせてもプラスイメージの回答は4件であり、それ以外の回答は、「知らない」、「コメントできない」、「わからない」といったマイナスイメージ(無関心)の内容が圧倒的多数を占めていることがわかる。
 
 つまり、外部から立ち寄る人にとって、岡山市の魅力は十分に伝わっていない傾向が強いということであり、街の魅力を感じずに訪問を繰り返していることが顕著であることを表している。まず、この現実は、私の実感とも一致しており、岡山市の魅力に関する外部へのPR活動が、いかに観光目的以外の訪問者に浸透していないかがわかるのではないだろうか。

「表@」 岡山の街の魅力は何か /フリーアンサー

B 岡山の街の魅力は何か/フリーアンサー

回答

子育てに良さそう、緑が多い、田舎

わからない。それと言って知らない

晴れているくらい?

知らない

なんでしょうか。街に魅力は特に感じない

目玉がわからない

どこに行けばいいのかわからない

静かなところかな

暮らすにはいいのかな

倉敷?


◆ところで、私は、仕事柄、出張が非常に多い。都市部、地方部関わらず、日本全国の街を仕事で訪問し、それを肌身で感じてきた。
 街にも様々な特色があり、そこに1晩泊まって夜の街を歩くと、街の別の一面が見え、より一層魅力が引き立つことが多い。その意味でも、ツアーガイドブックが、夜の飲食や、散策などを、街の魅力をPRするためのテーマとして扱っているケースが多いのにも合点がいく。
 そこで、「表A」のようなアンケート項目を加えてみた。 
 「アンケートC 仕事が終わった後に泊まってでも飲みに(食べに)行きたいところがあるか」
この質問で、「行きたい」と答えた人は、「(岡山の)会社の同僚となら」という条件付であり、2件。それ以外の34件は、「行きたくない」か「別にわからない」か「行っても仕方ない」という、かなりマイナスのイメージの回答であった。特に印象的な回答は下の通りである。
 「美味しくない。」「岡山のご飯ならここだ!というのがない。」「名物がない。」    「娯楽はない。」「夜が寂しいイメージ。」「どこに行って良いかわからない。」
 
 まず、岡山は瀬戸内海にも隣接しており、山も、肥えた土地もあり、魚介類、農作物も豊富で、美味しい食べものがたくさんある。また、隠れた名店も数え切れない程あることは、岡山市の市民であれば誰もが知るところである。
 しかし、「どこに行って良いかわからない」という回答に象徴されるように、いかに岡山市が、岡山市民の目線だけを意識した都市計画に偏り、いかに外からの訪問者が、その街の魅力について認知していないかを伺い知ることができる。また、「夜が寂しいイメージ」という言葉の背景には、出張の多い会社員の、他の街と比較した相対的な厳しい視点とマイナスの評価が感じられる。
 
「表A」仕事が終わった後に泊まってでも飲みに(食べに)行きたいところがあるか /フリーアンサー

C 仕事が終わった後に泊まってでも行きたいところがあるか(飲み屋とか・ご飯食べたり) 

/フリーアンサー

回答

行きたくない

美味しくない。岡山のご飯ならここだ!というのがない

いかない

会社の人がいなければ行かない

行かない

名物がない・食べ物まずい・娯楽はない

いかない

夜が寂しいイメージ

行かない

泊まってでも飲みに行きたくはない

いかない

帰って飲んだほうがいいに決まっている

行かない

どこ行っていいかわからない

行かない

わざわざそこまではしない

行かない

さびれている

行かない

良いとこあるのかもしれないが知らないよね

行かない

ママカリしかないイメージだから


◆最後に、「休日に私服でも来ようと思うか(思う・思わない)」という質問をした。つまり、出張で岡山市を訪問する人が、休日に観光目的で再訪問しようと思うかどうかを聞いてみた。これは、岡山市の魅力が、平日の訪問者の気持ちを捉え、休日のリピーターに変えているのかどうかの現状を知るために行った調査である。
 36人のうち、この質問にフリーアンサーとして回答した人数は11人であった。「思う」と回答した人は、「倉敷なら」と答えた2人。それ以外の34人は、「思わない」という回答であった。
 
 内容について検証すると、休日に私服で岡山市に来てみようという意志があるかどうか、という回答の中で、2名が「絶対に思わない」と強く否定する回答者がいたことが象徴的であった。
 また、「思わない」と答えた中でも、最も致命的だと感じられたことは、「倉敷」のことしか知らない回答者が目立った点であった。しかも、倉敷を訪問すれば、もう岡山県自体にも来る必要を感じていないと言い切っている人がいる現実をもっと真剣に考える必要があるのではないだろうか。
 
 「表B」休日に私服でも来ようと思うか (思う・思わない)/その理由はフリーアンサー

D 休日に私服でも来ようと思うか (思う・思わない)/その理由はフリーアンサー

回答

思わない

買い物なら神戸行けば良い

思わない/思う

倉敷くらい

思わない

温泉に一度行ったけど大阪から近くでホテルが安かったから

思わない

名所はありますか?

思わない

倉敷行ったからとりあえず岡山は制覇した

思わない

絶対に来ないね

思わない

後楽園は行ったけどそれ以外行くとこない

思わない/思う

倉敷かな?でも来ないだろうな

思わない

わかりません

思わない

仕事で来てすぐに帰ります

思わない

住んでいたけど私服では来ないと思う



(4) アンケート検証 まとめ
 以上の結果より、岡山市は、リピーターになる可能性のある多くの来訪者を素通りさせ、「内輪」の市民のみに認知されるだけの観光資源の安売りを繰り返しているのではないかと疑われる。もう一度強調しておきたいことは、岡山市に訪問する人は多い。しかも、ビジネス目的で訪問する来訪者の人数は、けして全国の地方都市に引けをとらないはずである。
 しかし、何度も足を運ぶ来訪者に対して、魅力を感じさせるための求心力と、通りがかりの人でも、外からの来訪者をもてなし、次回も必ず来てもらおうとする戦略的なビジョンが欠落していることに大きな原因があると考えられる。
 
 この章のまとめとして、戦略遂行の方向を明記したい。
「主に観光目的ではない(主にビジネス目的で出張してくる)来訪者を対象にした効果的な街のPR活動を行ない、休日の観光目的による岡山駅利用者を増やす」
 
 そして、上記の方針を遂行する上で、必要になるテーマとして、同時に考えておかなくてはならないことは、その受け皿としての「街づくり」に関わるテーマである。
つまり、「必ずしも観光目的ではない来訪者をいかにもてなし、次の観光に誘導できる魅力ある岡山市にいかにしていくのか」。
 このテーマを、次章で詳しく考察していきたい。



3 求心力を持つ地方都市のあり方を考える
  Aでは、「戦略案」の「招聘(招きいれ)」の重点項目として「PRする対象を変える」というテーマに関し、実際に出張で岡山を訪問する来訪者にその対象を絞り、生の声を元にひとつの結論を導き出してきた。

 この章では、前章の「戦略案(岡山市観光戦略案)」の中でも、県外からでも人のうわさに止まる様な街の求心力の向上と、来訪した旅行者を満足させ、リピーターを生み出す「街づくり」の方策にテーマを絞って考えてみたい。

(1)街づくり、街おこしの課題
 全国でも町おこし、村おこしの名目で、地域の独自色を重視した様々なイベントが催されている。しかし、その大半が、お祭りとしての一行事に過ぎず、1日過ぎれば、閑散とした空き地に戻るような断片的な取り組みが目立っている。主催者側は、これらの行事を継続的な効果を期待して立ち上げている場合が多い。
 
 例えば、きのこの名産地で、きのこの味噌汁を数千食振舞う秋の祭りなど、地方テレビでこの類の行事がよく放送される。主催者側は、この場合、きのこを生産する町としての認知を広げ、この町のきのこが多くの家庭の食卓に並ぶ事で、経済的な利益と生産者としての誇りを満足させ、村や町を活性化することを期待していると考えられる。
 これらの取り組み自体は、大いに奨励されるべきことであり、都市部のニーズを受けた下請け的な位置づけから、生産者自らニーズを喚起する働きとして、予想以上の効果を発揮することも少なくないであろう。
 しかし、一方で、これらの村おこし、町おこし行事の多くは、あくまでも「祭り」として演じられ、日常との連続性が乏しく、打ち上げ花火のような瞬間的なインパクトはあるが、気持ちに残り続けることが少ないように見受けられる。それは、地域の魅力ではなく、「祭り」の魅力に過ぎないのではないだろうか。
 
 本来「祭り」とは、その当地に深く根ざしたものであり、地域の連続的な暮らしの中で変わるはずもない重みを持つ存在であったはずである。しかし、ここで「祭り」と表現したのは、一時のイベント的な軽さと、容易に変わってしまう危うさをもったものとして表現している。このような瞬間的な集客を何度行ったとしても、その場限りの見物客の拍手しか聞こえてこない。よって当「戦略案」でのこだわるポイントとは言えない。
  
 地域(岡山市の場合、街)の魅力を語るとき、観光者の増加率が一つのバロメーターになる。観光者の増加率は、一つに単純に訪れる人の数が増加することで数えられるが、全国的にブームになるなどの特別な現象が起きない限り、特定の地域に訪問する人数の増加率にも限界がある。
 しかし、チボリ公園の例にもあるように、どんなに観光者が瞬間的に増加しても、何度も訪れる「馴染みの客」、(つまり、地域そのものに魅力を感じ、何度でも同じ場所に自ら足を運ぶ人たち)の基礎地盤がなければ、継続的に人数は積みあがってはいかない。
 従って、一度訪れた観光客が再び訪れ、固定客化していくことで積みあがる状態を重点的に意識した施策を想定する必要がある。つまり、(第1章で前述した「戦略案」にも強調したことではあるが)リピート率をいかに向上させるかが、観光者の増加率を決定付ける要になるはずである。
 そして、そのためには、人が集まり、そこにまた自発的に訪れたくなるという、地域(街)自体が持つ安定的な求心力の向上が重要な鍵になっている。
 その地域(街)の求心力を安定的に高めることがどうしたらできるのか。その具体策を、第(2)項以降で考察することにする。

(2)街の求心力を高めるための戦略の方向性
 ここで、もう一度、第1章の「観光戦略案」に立ち戻って考えたい。この章では、主に「街づくり」の観点での考えを深めているが、街に強い魅力と求心力を持たせ、外からの来訪者の満足度を高め、リピーターになる人を増やしていくことを想定した時に、「街づくり」のあり方として、3点の方法を掲げた。
@人の流れを作る・・・名所と名所の間のプロセスをつなぐ仕組みをつくる 
(拠点と拠点を橋渡しする「プラン」づくり)
A拠点を作る・・・岡山を身近に感じることができる一画づくり
(風情・人情・味を集積した「場」づくり)
B回遊ルートを作る・・・散策することに魅力を感じることができる街全体の
 風景づくり(街全体を俯瞰したハードとしての「風景」づくり)

 この3点は、別々のことでありながら、ひとつでも欠けたら、このプランは成り立たない。この中で、まず最初に行なわなければならないのは、Aの「拠点を作る」ことであると考える。
 つまり、岡山の魅力を集積した「場」(「拠点」)を作ることで、そこを足場に@「人の流れ」を作り出すことができる。そのポイントとポイントのつなぎの部分で、街全体に整合性を持たせたハードの整備が求められてくるが、これがB「回遊ルート」を作ることにあたる。従って、まず、来訪者が魅力を感じる「拠点」=「場」を作ることを重点的な実行項目とし、そこから生み出される人の流れを@とBで同時に受け止めるといった一連の流れが連動してできる形を想定しておきたい。
 
 さて、この戦略案で重点的に取り組もうとしている「拠点」の役割について、本項最後に定義したい。ここでは、「拠点」に2つの役割を想定している。
 
○岡山県の玄関口として、旅行以外で岡山を訪れる人の心を魅せ、旅行に来るきっかけになる「場」のこと
○岡山に旅行目的で訪れた人が、岡山の魅力を更に深めて、次回再び戻りたくなる気持ちにさせる「場」のこと  


(3)何度も訪れたくなる「場」(「拠点」」の魅力を考える
 この項では、戦略的に、しかし、企画者の意図を感じさせない魅力ある「場」を創造し、リピーターをふやし続けている事例を独自に分析し、岡山市の戦略に応用し、移管できる共通点をまとめてみたい。

 ●黒川温泉の事例から
 熊本県の黒川温泉は、全国に多数のリピーターを持つ山深い温泉地である。交通の便も悪く、この集落にたどり着くまでに、深い山をいくつも越えていかなくてはならない。それにも関わらず、繰り返し訪問する都会からの固定客が増え続け、今でも3ヶ月前の予約さえ困難な状態が続いている。
 
 黒川温泉街に足を踏み入れると、通りも、旅館も、民家も、案内所も、店も、バス停も、郵便ポストも、目に入る全てが古い山村の風景として、自然の風景と無理なく溶け合っている。その中を、老若男女が浴衣で下駄の姿で行き来する。音楽も、ネオンもなく、川のせせらぎと人々の控えめな話し声、黄色い電灯と月明かりが心地よい。
 私も、これまで黒川温泉には10数回訪れたが、その魅力を考え続けてきた結果、ひとつの結論に達した。
 それは、風景に見る「連続性」である。「連続性」には、2つの側面がある。風景の「連続性」と、時間の「連続性」である。
 風景の「連続性」は、一つ一つの風景に一貫したテーマが流れている状態である。時間の「連続性」は、現在を基点に、過去と未来が、変わらないことが想定される状態である。この風景と時間の「連続性」によって、黒川温泉街は、他では味わうことができない魅力と安心感が感じられるのである。この「連続性」が、観光客にもたらす魅力について、もう少し詳しく考えてみよう。
  
 そこには、アトラクションとしての一方的な露出感と一元的な危うさがなく、街の風景が毎日変わらずに連綿と継続し、またこれからも続いていく。
 つまり、いつでもそこにある風景の中に足を踏み入れている絶対的な安心感があるように思える。また、それは、地域がもつ懐の深さであり、それ故、外から来た人を迎える構えと余裕が自然に備わっているように感じさせ、同時に来訪者の「居心地のよさ」につながっている。
 しかし、このような興ざめをさせない仕組みを、意図的に作り続けてきた温泉街の人たちの弛まぬ努力が結実した形であることは言うまでもない。
  
 黒川の例からも考察できることとして、地域の魅力や、求心力をもたらすものは、そこに住む人にとっても不自然なほど大袈裟な造形物である必要はない。むしろ、はじめて訪れる人が、自然に足を止めたくなる程度の「普通の」風景(仰々しく飾られた創作物ではなく、無駄なものを削って最後に残るシンプルな風景のあり方)への細部のこだわりであり、またその風景は、毎日続く連続的な営みの中で自然に切り取られた一風景であるべきなのではないだろうか。
  
 生前の手塚治虫氏が著書「ガラスの地球を救え」の中で下のように語っている。
「都市計画として、切り取ってきたような観光地をつくっている場所は多くなったが、長屋のような日々の暮らしに深く溶け込んだようなものにこそ深い魅力があるものだ」。
 
 黒川の例と手塚氏の言葉の引用から、私が表現したかったことは、魅力ある「場」を創っていく際に、こだわる目線として、驚きを与えるような特別なものから、普通に歩く人が普通に心地よさを感じるものに変えていく必要があるということである。
 
 そのように考えた時に、なぜ県や市を挙げて、人が感動し、驚くような行楽地(「場」)を巨額な資金を投入して造ったにも関わらず数年で人が来なくなってしまうのか、ということの理由が見えてくる。
 つまり、驚くだけ、或いは感動するだけであれば1回目、2回目と驚きや感動は薄れていき、リピートしなくなっていく。
 むしろ、観光客を繰り返し呼び込む場所は、毎日続く連続的な営み(時間の連続性)の中で切り取られた一貫した風景(風景の連続性)を目の前にして、全体像は大まかにイメージできるものの、その断片しか見ることができない。したがって、一度訪れても、その場がもつ底の深さを知るのみで、他に隠れている見えざる「奥」への期待を強く感じる。
 結果として、この「もっと奥が見たい」という欲求を含んだ感動と、驚きに魅せられて、何度でも訪問することになるのではないだろうか。
 黒川が、一貫した「連続性」による場の奥深さを重視している例として、最後にもうひとつ紹介したい。
 黒川温泉の旅館の多くは、駐車場から全体像が見えないようになっている。車が走る通りからは、雑木に覆われていて外観は隠されている場合が多い。ネオンで飾られ、カラオケの音が漏れる旅館など、ひとつとして存在しない。ある旅館は駐車場を降りると、とても狭い小道が雑木の中に続いている。旅館の姿を見せないのである。やがて雑木の陰から古い建物が少しづつ見えてきて、そこを抜けてはじめて旅館全体が姿を現して旅人を感動させる。
 「やっと見つけた」という気持ちを味わうことができる旅館が岡山にどれほどあるだろうか。この興ざめさせない徹底した黒川温泉街の「日本の原風景」への「一貫性」と「連続性」に対するこだわりは、あまりに自然で、疲れた現代人にとってあまりに優しい刺激であると言えよう。
 
 人が「場」に魅力を感じる構造を企画者が見極め、意図して、時間と風景の連続性が造られた場所が、他にも探せば多数存在している。
 中でも、リピーターの多さで知られる東京ディズニーランドに、その実例を探してみたい。
 
 ●東京ディズニーランドの事例から
 10年ほど前、私は、東京ディズニーランドを実地調査し、研究していた経験がある。
 未だに魅力を引き付けて止まない東京ディズニーランドであるが、驚きや感動と同時に、来場者からは見えない部分の、底の深さを重視しているという。いくつか例を挙げてみよう。
・従業員は、移動する時に、姿が来場者に見られないように地下の通路を移動する。
・ミッキーマウスは、世界で一人しかいないことになっているため、東京で姿を見せるときは、アメリカや香港のディズニーで同時にミッキーが登場することはない。
・全てのスタッフが、それぞれの風景に溶け込んだ格好をしてさりげなく客の往来を観察しており、ゴミを見つけたら、そこにいる誰もが、来場者に気付かれるよりも早くそれを拾う。
・建物を大きく見せることで、風景自体を自然に大きく見えるようにするために、建物の上になるほどレンガの大きさを小さくしている。
・場に、それぞれテーマが与えられており、そのテーマランドから別のテーマランドに移動する時に、気付かれない範囲で音楽がフェードアウトし、また別の音楽が次第に大きくなって聞こえてくる。
 
 これらの見えないところにある仕組みは、人から教えられればその場に行って気がつくことであるが、言われなければ誰もこの徹底したこだわりには気が付かないだろう。
 これらは、全て意図して作られたものではあるが、来場者が、理由もわからずに自然に心地よい刺激を感じ、新しい発見をして帰っていく大きな要因になっていることは言うまでもない。
 しかし、ここで最も重要なことは、こうしたこだわりの全てを束ねているものこそ、ディズニーの「全ての来場者に魔法にかける」という一貫性を徹底的に追及した方針であり、また、そこから来場者に発せられるメッセージ性にあるということである。つまり、ソフト面(メッセージ・方向性・イメージ)の一貫性にハード面(行楽施設・建物など)を追いつかせている姿が浮かび上がってくるのである。
 このあり方も、「場」の求心力を向上させる上で非常に重要な要素になりそうである。
 
(4)まとめ
 (3)では、地域(街)の中で「場」(「拠点」)に魅力や求心力を持たせ、来訪者をリピーターに変えることを目指し、地域(街)として人が集う流れを作るために、黒川温泉と東京ディズニーランドの事例を通じて策を考察してきたが、下の4つの条件が共通項として、重要な鍵になるのではないだろうか。
 
 −人を魅せる「拠点」づくりの4条件−
 @ 過去・現在・未来を貫く連続性が感じられること。(時間の連続性)
 A あらゆる仕組みが、あるメッセージで一貫してつながっていること。
  (風景の連続性)
 B 水面下の期待感を増幅させる、目に見えない部分へのこだわりを重視し
  ていること。(底の深さ)
 C その場所にこそ存在するものを感じることができること。(独自性)

 結果的に、それらのポイントが融合し、そこでしか味わえない「深み」のある(1回の訪問ではわからない)魅力を含んだ雰囲気を作り出していくことにつながるのではないだろうか。
 また、この形をとった場合、何回も訪れてこそ、はじめて来訪者の中で全体像がつながって見えてくる形を目指すことになる。従って、一回性の客寄せではなく、一度訪れた人を大切にすることを前提としていることから、受け入れる側の心地良いもてなしの気持ちが必然的に重視されなくてはならなくなると考えるのである。