岡山政経塾 チーム21
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◆岡山市中心市街地の現状と未来への取り組み◆
〜市民の声から〜
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第二章 取り組むべき現状と課題、そして未来のための対策
第6項
6期生 大原 正
(1)岡山駅西口方面の現状と課題
1. はじめに
1972年3月15日、新幹線は新大阪駅から岡山駅まで延伸開業した。新幹線の計画段階で、既存する在来線の駅に新幹線の駅を付設する場合は、原則、いわゆる表口側ではなく裏口側に新幹線の駅を付設するように申し合わされたという経緯があったと聞く。東京・名古屋・京都・広島・博多など、思い浮かべてみればこれにならっている。この申し合わせは、いわゆる裏口方面の活性化のため、きっかけを新幹線駅付設に託したものであったと想像できる。
ところが、岡山駅はその原則から外れ、表口側(現在の東口)に新幹線の駅は付設された。立地上やむ を得なかったのである。そもそも明治24年にできた在来線の岡山駅でさえも、当時からするとずいぶんと北西の町外れに設置されたようである。従来の街中に鉄道の駅が設置できなかったなんらかの理由があったため北西の町外れに設置され、その結果、新幹線の駅は岡山駅表口側(現在の東口)に付設された。
必然的に岡山駅の東口と西口の格差は開いた。しかし、2007年11月17日、従来からの岡山駅西口は閉鎖され、東西分断といわれ続けた岡山駅も2010年3月に新しい姿を見せようと工事が始まった。
我々は岡山市中心市街地を内環状線内と定義している。岡山駅西口も中心市街地の重要なスポットある。本章では岡山駅西口方面の現状と課題についてについて、アンケートにおける具体的な内容を紹介し、さらに活性策を述べてみたい。
2. 岡山駅西口近辺でのアンケートから
アンケートにおいては、多くの生きた声を収集した。数件の具体例を取り上げ、問題点を探してみた。
@ 60歳代・女性・夫婦のみの所帯
庄パークヒルズよりバスにのって買い物にこられた。庄パークヒルズは倉敷市である。バスは途中JRの駅に立ち寄ることはせず、岡山駅西口へと向かうルートで運行されている。仮に途中JRの駅に立ち寄ることがあったとしても、そのままバスに乗り続けるという。時間よりも乗り換えのない利便性を選んでいる。岡山駅西口には11時すぎに着いたと話していただいた。
「満足いくお買い物ができましたか?」の問いかけに対し、「次のバス(14時ごろ)を乗り過ごしたら18時ころまでないのでいつも急いで用事を済ませなければならない」という。「食材の買い物は全て東口方面まで歩いていって、済ませる」という。東口⇔西口を往復する移動時間に約30以上かかってしまう。現状では、なかなか満足いく買い物はできないそうだ。もし西口付近が目的地となれば、貴重な時間を有効に遣うことができるのに。
> 高齢者に喜んでもらえる対策を講じる
(1). バスダイヤの見直し
(2). 西口付近での中食(持ち帰り惣菜食品)の販売店の充実
A 20歳代・男性・衣料品店経営
経営するお店は奉還町商店街内にあるが、具体的な場所は奉還町東の商店街入り口から西へ400m以上先にある。「なぜ、このような奥まったところで出店なさったのですか?」の問いかけに、「出店コストが安い」ことを一番に回答いただいた。しかし、「商いの成立は、お店が人々の目に留まり、商品を手に取っていただいかないと始まらないのではないですか?」「人通りの少ない奥地では不利ではないですか?」と疑問を投げかけてみる。「商店街は人通りがどんどん減っていく現状では、ただなんとなく商品を買ってもらうということは確かに不可能です。しかし、私の店を目的にして来ていただくことは不可能ではない。インターネットを活用してメッセージを発信し、情報を共有し、パーソナリティを高めた商品提案とお客様とのコミュニケーションを大事にしていきたい。」と答えていただいた。
> 歩いて来てもらう商店街にする
(1). 商店街の空き店舗の活用
(2). 商店街を経由する周遊マップの作成
B 20代&40代の女性・親子で姫路より岡山へ
お気に入りのSHOPが姫路になく神戸まで洋服の買い物に出かけることが多いが、岡山駅に出店していることを知り、母を連れて岡山へ来た。これから西口にあるホテルで食事をするとのこと。「岡山に何があればいいですか?」の問いかけに、「岡山の白桃をつかったスイーツ」と回答をいただく。岡山の白桃をそのまま食することも好きであるが、その先の変化に期待したいそうだ。「大阪・神戸も良いが、気持ちの落ち着く岡山も好きである」とのこと。
> 一度きりではなく何度も足を運んでもらえる『目的地』にする
(1). 名産品から特選メニューを作り提供する
(2). 心の落ち着く雰囲気を醸し出す空間を提供する
(現代の人々は知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでしまっている)
C 40代・男性・出張で岡山へ
以前は東口周辺のホテルで宿泊していたが、最近は西口が多い。駅から近いのが利点であるとのこと。しかし、「夜に飲食をする場所が西口近辺には少なく、活気を感じない。面倒であるが東口まで出て、さらにそこから先の店に向かうことになる。」まだまだ西口方面は、訪れた人々を満足させるエリアになっていない。もしくは情報を発信できていない。
> 時間のない忙しい人に、無条件で選択してもらう場所とする
(1). 安価で気の休まる飲食店の提供
(出張の楽しみの一つは食である)
(2). 個性的なコンセプトをもった店舗の開設
(スポーツバー、昭和を思い起こせる店)
3. 岡山駅西口方面の活性化への手がかり
前段で4例を紹介したが、共通するテーマは『他人に伝えたくなる、思い出づくりのお手伝いをすること』ではないか。具体的な方策は次項で述べる事とする。
(2)岡山駅西口方面の活性化について
1. 岡山駅西口を『目的地』にしよう
日本の各都市の中心市街地の現状を見るとき、交通分担率における車の利用率が高ければ高い都市ほど衰退している。近年では岡山においても郊外型大型商業施設が開業し、人々はそこに価値を見出している。中心市街地もいったん衰退が始まると、急速に負のスパイラルに陥ることになり、空き店舗の増加・荒廃が人々を寄せ付けなくなってしまう。
しかし唯一といってよいほど駅周辺には呼び戻しの効果を期待できる。そもそも人々が集まる場所であるからだ。今まで公共交通機関の乗降が目的であった駅を目的地化にすることにより、活性化を見出すことができるからである。
岡山駅西口広場は再整備され、東西分断が解消される。人々の利便性が向上し、人の流れは今まで以上に増加するものと期待できる。ただし、西口方面が目的地となるべく努力していかなければならないことを忘れてはならない。
2. JR岡山駅西口広場の再整備計画
2009年2月18日の山陽新聞によりますと、岡山市は17日に発表した2009年度一般会計当初予算案にJR岡山駅西口広場(同市駅元町)の再整備費約8億1000万円を盛り込んだ。2階にタクシー乗降場、1階にバスターミナルと一般車乗降場を設ける二層化事業の総仕上げで、来年3月の完成を目指す。
西口広場はJR吉備、津山両線の移設により従来の約3倍、延べ1万3500平方メートルに拡張。タクシー乗り場は駅舎2階の東西連絡通路に接する形で乗降場(3台)と待機場(15台)を設ける。
1階部分はタクシー乗り場の真下に一般車乗降場(9台)と駐車場(14台)を整備。その北隣にはバスターミナルを配置し、バス乗降場を2カ所から9カ所に増設する。
広場内の移動については、タクシー乗り場とバスターミナルを階段とエスカレーターで直結。既存の東西地下通路は西側へ約130メートル延ばし、駅舎西口前、バスターミナル、一般車乗降場に移動しやすくする。
3. 岡山駅西口方面の活性化へむけて
@ 本題に入る前に
岡山駅西口方面の活性化へむけた具体的な方策を論ずる前に、少しばかり見過ごせないデータを紹介したい。それは国内の自殺者数である。
警視庁の資料によると、国内の自殺者数は1900年代後半まで年間2万数千人前後で推移してきたが、1998(平成10)年度で急増し、3万人を超えました。以後毎年3万人を超える状態で推移し、2007(平成19)年に33093人となっています。
2007年にWHOが発表した自殺率の国際比較(2004)では、わが国日本は人口10万人あたり24人で、第9位である。ちなみに1位はリトアニアで40.2人。2位はベラルーシで35.1人。3位はロシアで34.3人である。先進国で日本に続くのはフランスが18.0人で19位、ドイツ13.0人で34位、アメリカは11.0人で43位である。年間3万人を超える自殺者を数える現在の日本社会は閉塞感に満ちた異常な状態といえるでしょう。
厚生労働省は、自殺者のうち7割以上は何らかの精神疾患を抱えており、その大半はうつ病であるという見解を示している。うつ病の発症は、個人の資質にも関連するといわれているが、何らかのストレスが引き金になって発症することが多いそうです。現代の人々は知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでしまっている。
A アンケートから見えてきたもの
単に質問に答えていただいただけでなく、具体的なお話をしていただいた方々の意見を整理してみる。
> 高齢者に対して
(1). 西口付近での中食(持ち帰り惣菜食品)の販売店の充実
> 商店街の若者経営者とその店に集まる若者に対して
(1). 商店街の空き店舗の活用
(2). 商店街を経由する周遊マップの作成
> 女性同士で訪れた人々に対して
(1). 名産品から特選メニューを作り提供する
(2). 心の落ち着く雰囲気を醸し出す空間を提供する
> 働き盛りの男性に対して
(1). 安価で気の休まる飲食店の提供
(出張の楽しみの一つは食である)
(2). 個性的なコンセプトをもった店舗の開設
(スポーツバー、昭和を思い起こせる店)
以上である。これら全ては不満の裏返しです。不満が長期間蓄積されるとストレスがたまります。ここに訪れる人はいなくなり、ここに住む人は離れてゆき、町は荒廃という負のスパイラルに陥ります。
その一方で、利用したお店から小さな感動でも受けると、人は誰かに伝えたくなります。以前は顔と顔を合わせた会話の中での伝達が大部分を占めていたが、最近ではインターネットの会員制サイトやブログで伝達されることが多くなっている。お互い顔を合わせたことのないもの同士が、共通の話題で情報交換をしているのです。小さな感動の伝達はやがて人を集めることになり、『顔の見える街作り』のきっかけになります。
B 『顔の見える街作り』の成功事例
* 昭和の町 大分県豊後高田市
大分県豊後高田市は江戸時代から海上交通の要衝で、商業の町として昭和30年代までは栄えていたそうです。しかし1965(昭和40)年に鉄道が廃止され開発から取り残され、市が発足した1954(昭和29)年に31000人いた人口が2004(平成16)年には18000人にまで減少しました。平成21年1月末現在、人口は周辺2町を合併し25012人である。
1992(平成4)年頃、観光資源に乏しい廃れゆく田舎町を変えるため、どうやって生き残りを図るかと模索していた。なかなか街の個性を見出せずあきらめかけていた頃、若い人にとっては歴史の1コマとなっている『昭和』というキーワードにたどり着いたそうです。
昭和の町のコンセプトを固め、改めて汚くて不便な商店街を見てみると、それは宝の山に見えたといいます。昭和の町は豊後高田市が最も活気に満ちていた昭和30年代の商店街を再現し、昭和の商店として認定された店は昭和の建築で再現しているだけでなく、「1店1宝」としてその店に伝わるお宝を店内に展示し、「1店1品」として特徴ある商品を販売しています。
昭和の町は単なる観光地を目指すのではなく、地域住民のための街作り、店作りを行い、ハード面の整備はあくまでも各商店の判断にゆだねられ、永続的な息の長い小さな繁栄を目指している。町並みの整備にはまだまだ時間がかかる様子であるが、これを補うソフト面の対応が好評価を得ている。地元のガイドは自前のもんぺ姿で建物や店の歴史を解説するだけでなく、軽妙な語り口で団体客の人気を集め、ガイド目当てのリピーターが来るようにもなっている。
昭和の町の影響で、豊後高田市は活気を取り戻した。
なお余談であるが、厚生労働省の人口動態死亡統計によると、2001年において最も自殺率の低い自治体は豊後高田市である。自殺者は1名のみ。人口10万人あたりの自殺率は5.38人であった。
住民の方が生きがいを感じているという証ではなかろうか。
とてもすばらしいことである。
C 岡山駅西口方面の活性化へむけて
“在るものを生かし、無いものをつくる”
以下にアンケートのうち、前項で紹介した方々の不満への解消策の一例を提案する。
> 高齢者の買い物客に対して、中食(持ち帰り惣菜食品)の販売店の充実を上げた。アンケートの紹介に登場した60歳代・女性は昔ながらの家庭料理の範疇に入る惣菜は、自分たちの手で作り上げる。しかし、揚げ物のように必要量が少量でよく、後始末に手間がかかる調理は、出来上がりの惣菜を買い求めるといいます。冷めてもおいしく、持ち帰って手軽に温めてもおいしく、飽きのきにくい惣菜を、お店の人と会話を交えながら買い求めることが出来るお店があったら、この世代の人々にお役に立てる。
> 商店街の若者経営者とその店に集まる若者に対して、商店街の空き店舗の活用と商店街を経由する周遊マップの作成をあげた。できるだけ空き店舗をなくすために、テナント料の引き下げを行い、期間限定でも開店させるようにする。借り手も無理な改築をせず、在るものを生かす工夫をして、貸し手にも安心してもらうようにする。その結果、空き店舗がなくなり店同士は競争するのではなく共創して人々にアピールしていけば、人が集まる。
> 女性同士で訪れた人々に対して、名産品から特選メニューを作り心の落ち着く雰囲気を醸し出す空間を提供することをあげた。岡山特産の桃やマスカットをつかったスイーツを、畳(イグサは岡山産)の上で提供するというミスマッチな組み合わせがあってもいいのではないか。なんでも高級感を出すために店をモダンなつくりにする必要はないと考える。レシピを明かし、訪れた人々との会話を充実させることに重点を置くことは言うまでもない。
> 働き盛りの男性に対して、安価で気の休まる飲食店や、スポーツバー、昭和を思い起こせる店など個性的なコンセプトをもった店舗の開設を上げた。地産地消にこだわった郷土料理を提供し、その価格が安価と感じていただけるなら、定期的な出張先が岡山であるという人は、確実にリピーターになりえる。もちろん地元の人も同様である。郷愁消費の拡大に期待したい。
岡山駅西口は、新幹線の駅が表口側(現在の東口)に付設された影響で開発が遅れてしまった。しかし当時に開発されなかったことが幸運といえるかもしれない。時代背景は37年前の新幹線延伸開業当時とは大きく変わり、人口減少社会に入っているからである。来年新しい姿を見せる岡山駅西口を中心に、この地区では安易にハコモノを作ってはいけないと考える。住民の方が生きがいを感じ、訪れた人々にとっては心を癒すことのできる環境を整えていくべきではなでしょうか。知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでしまっている現代の多くの人々のためにも。
4. むすび
岡山駅西口方面の活性化を実現するための目標は『他人に伝えたくなる、思い出づくりのお手伝いをすること』でありそのために『顔の見える街作り』重要であると考えます。たとえ、最初はインターネットで知り合い、顔も合わせたことのないもの同士が、ここで顔を合わせ触れ合うことが出来ればここは目的地となりえます。なにしろここ岡山駅西口は交通の要衝で、鉄道の駅は目の前、新幹線は全て停車、高速道路のインターチェンジも近く、さらに空港もさほど遠くない。人が訪れるためのインフラは整っているからである。
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