岡山政経塾 チーム21

 

◆◆医療・福祉分科会◆◆


3.多様性と先進性に富む岡山県の医療・福祉の現状(現在)
 B) 全国から注目される岡山の地域医療


       8期生 吉田 龍一     

 本章では地域の特性の中で独特の発展をしてきた全国からも注目される岡山の地域医療について紹介します。はじめに県北医療圏の川上町を中心に発達してきた医療・福祉の「まちづくり」を紹介し、次に岡山市中心部で行われている全国的にも珍しい「診々連携」の取り組みについて紹介します。

 川上方式
 2004年に旧高梁市、有漢町と川上郡の成羽町、川上町、備中町の1市四町が合併し、新高梁市が誕生しました。高梁市の西部地域を占める川上町では約30年前から「福祉のまちづくり」に取り組んでこられました。この川上町で行われてきた「川上方式」と呼ばれる保健・医療・介護のネットワークの構築と包括的なケアシステムの構築について紹介します。高梁市の川上医療センターを拠点とする川上方式は、既存の小規模な医療・介護施設のネットワークと包括的なケアシステムを構築することにより、過疎化の進んだ広域の山間地をすみずみまでカバーし、地域住民にきめ細やかな医療・介護サービスを提供しようとするしくみです。図10に示す如く、旧川上町においては、1980年代から、医療・福祉の「まちづくり」が町長のリーダーシップのもとに戦略的に、しかも長期的に行われ着実な成果をあげてきた。このような「まちづくり」を通して川上地区の住民には福祉や医療に対する深い理解が生まれており、町民の満足度も非常に高いレベルに達しています。


 清輝橋グループの診診連携
 岡山市清輝橋近辺の佐藤医院佐藤涼介先生・片岡内科医院片岡廉先生・安田内科安田英己先生を中心とした診診連携を実現している。3院はいずれも内科の無床診療所で、家庭医機能をもち、在宅医療に積極的に関わっている。全国的にもめずらしい内科医同士の診診連携を3院で行いつつ、在宅医療やデイケアに力を入れるなど、家庭医としての機能の強化を図ってこられた。“グループ診療”のメリットは特に在宅医療において発揮される。その最大の理由は、「患者さんの急変時や緊急時などの対応が可能になる」(佐藤先生)からである。具体的には、主治医のほかに副主治医をつくり、普段は情報の共有化を図り、いざというときに備えておられます。

 成功事例の共通点
 チーム21医療・福祉分科会活動の中で、特別講師として事務局で御講演いただいた岡山大学大学院医療政策講座浜田淳先生によると、川上方式のような住民の満足度の高い地域医療の共通点として以下の5項目を挙げておられ、地域包括ケアの理念について以下のように述べられています。

A) 施設間あるいは多職種間または患者・家族とケアの提供者間において「顔のみえる」ネットワークの構築が重視されている。
B) 明確なビジョンを持ちリーダーシップを発揮する人が、ケアの提供者側にも行政側にも存在することが多い。
C) 行政と医療従事者との良好な協働の関係。
D) ケアの提供者と患者、家族とのコミュニケーションが重視されており、その積み重ねが住民のサービス提供者に対する大きな信頼の根拠となっている。
E) いずれの地域でも、医療従事者は「まちづくりの視点」を重視している。

 医療や介護ケアの仕組みは一朝一夕には機能しない以上、長期的なビジョンを持ったリーダーの存在は不可欠であり、その志が世代を超えて引き継がれていくことが重要となります。

 地域包括ケアや在宅ケアの理念とは「その人らしく生きてもらうために、住みなれた地域において包括的なケアを提供する」という点で一致しており、患者・家族の側からいえば、「高齢になり病気や障害を抱えていても住みなれた地域で自分らしく生活したい」というのは、中山間地や都市地域を問わない、患者、家族の普遍的な、かつ切実なニーズであります。地域連携、地域包括ケアを東京23区や岡山県南部の都市部を含めていかに実現していくかが今後の社会保障の最重要課題のひとつといえます。


■参考資料
・第6次岡山県保健医療計画 平成22年12月 岡山県
・平成21年度事業報告書中山間・過疎地域における地域包括ケア
                特定非営利活動法人岡山健康医学研究会