岡山政経塾 チーム21

 

◆◆医療・福祉分科会◆◆


3.多様性と先進性に富む岡山県の医療・福祉の現状(現在)
 C) 岡山県における先進医療


       9期生 楳田 祐三     


 医療先進県とうたわれる岡山県であるが、先進性について明確に定義づけしたものはなく、細かな医療内容については枚挙に暇がない。本稿では、岡山の医療先進性について、客観的指標となり得る定義付けされた”高度先進医療“と”特定機能病院“について岡山県データを他都道府県と比較検討し示すとともに、岡山を代表する最先端医療と新たな医療産業の創出を目指す産・学・官の連携組織について紹介する。


高度先進医療、先進医療

 医学の進歩は日進月歩であり、かつては不治や難治とされたさまざまな疾病も、現在では治癒に至る例が少なくない。種々の疾病を克服する治療精度の向上には、様々な先端医療技術の開発や高度な診療内容の普及が大きく貢献している。「先進医療」は、種々の疾患治療において国民の選択肢を拡げ、国民の安全性を確保しつつ患者負担の増大を防止するという観点から、厚生労働省が先進的な医療技術・高度な診療と定義した。医療費については、先端的な医療すべてを、現在の保険医療制度でカバーすることは膨大な医療費の増大を伴うことから事実上不可能と考えられ、一般の保険診療との調整を図り、保険医療との併用を認めている。
高度先進医療は、平成18年9月まで存在した医療制度、10月1日以降健康保険法の改正に伴い、制度改変され、先進医療と称する新制度が開始された。主に厚生労働大臣の承認を受けた大学病院などで実施され、その種別ごとに実施可能な病院を特定承認保険医療機関という。
 先進医療技術は、従来の先進医療で薬事法の承認・認証・適応のある第2項先進医療技術と、薬事法の承認・認証・適応のない第3項先進医療技術に分けられる。平成23年1月1日現在、第2項先進医療技術は88種類906件(医療機関)に及び、第3項先進医療技術は31種類、196件(医療機関)に及ぶ。岡山県においては、第2項16種類25件、第3項5種類5件に及び、その内訳は下記の如くである。

【第2項先進医療技術】
〜岡山大学病院〜
インプラント義歯
光学印象採得による陶材歯冠修復法
骨髄細胞移植による血管新生療法
鏡視下肩峰下腔除圧術
腹腔鏡下直腸固定術
先天性難聴の遺伝子診断
内視鏡的大腸粘膜下層剥離術
IL28Bの遺伝子診断によるインターフェロン治療効果の予測評価
超音波骨折治療法

〜川崎医科大学附属病院〜
抗悪性腫瘍剤感受性検査(HDRA法又はCD−DST法)
泌尿生殖器腫瘍後腹膜リンパ節転移に対する腹腔鏡下リンパ節郭清術
自己腫瘍・組織及び樹状細胞を用いた活性化自己リンパ球移入療法
内視鏡下筋膜下不全穿通枝切離術
超音波骨折治療法

〜津山中央病院〜
内視鏡的大腸粘膜下層剥離術
超音波骨折治療法

〜岡山旭東病院〜
経皮的レーザー椎間板減圧術
超音波骨折治療法

〜倉敷中央病院〜
エキシマレーザー冠動脈形成術

〜吉備高原医療リハビリテーションセンター、長谷川紀念病院〜
超音波骨折治療法

〜中平眼科クリニック、岡山南眼科、高須眼科、高畠眼科医院〜
多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術

【第3項先進医療技術】
岡山大学病院
頸部内視鏡手術:甲状腺濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫、バセドウ病又は原発性上皮小体機能亢進症
経皮的骨形成術:有痛性悪性骨腫瘍
経皮的肺がんラジオ波焼灼療法:原発性又は転移性肺がん
経皮的腎がんラジオ波焼灼療法:原発性又は転移性腎がん
CT透視ガイド下経皮的骨腫瘍ラジオ波焼灼療法:転移性骨腫瘍、又は類骨腫

 近隣の医療先進県と比較した場合、広島県では第2項先進医療技術11種類18件、第3項先進医療技術2種類3件、兵庫県では第2項先進医療技術19種類35件、第3項先進医療技術2種類2件と岡山県において多くの厚労省承認を認める結果であった。背景には、後述する特定機能病院として岡山大学病院と川崎医科大学附属病院の2大学病院を要する他、市中病院・個人医療法人においても先進的積極的な医療への取り組みが結果に影響していた。




特定機能病院
 
 特定機能病院は、一般の病院などから紹介された高度先端医療行為を必要とする患者に対応する病院として厚生労働大臣の承認を受ける。“高度な医療を提供する”、“高度な医療技術を開発する”、“医療研修を行う”ことが基本理念と掲げられており、一般の病院としての設備に加えて集中治療室、無菌病室、医薬品情報管理室を備え、病床数400以上、10以上の診療科、来院患者の紹介率が30%以上であることを条件としている。

 岡山県においては、特定機能病院として、川崎医科大学附属病院と岡山大学病院の2医療機関を要する。因みに2施設以上の特定機能病院を有する都道府県は、下記に示すとおりであり、人口100-200万人規模で特定機能病院を複数擁するのは、栃木県・石川県・岡山県の3県のみである。
 
北海道3施設(554万3,961人):北海道大学、旭川医科大学、札幌医科大学
栃木県2施設(201万0,732人):自治医科大学、獨協医科大学
埼玉県2施設(717万0,362人):埼玉医科大学、防衛医科大学
東京都14施設(1298万8,797人):東京大学、慶應義塾大学、国立がん研究センター中央病院、順天堂大学、帝京大学、昭和大学、東京医科歯科大学、東京医科大学、日本大学、東京女子医科大学、慈恵会医科大学、東邦大学、昭和大学、杏林大学
神奈川県3施設(900万5,176人):横浜市立大学、東海大学、聖マリアンナ医科大学、北里大学
石川県2施設(116万6,656人):金沢大学、金沢医科大学
愛知県4施設(741万4,098人):名古屋大学、名古屋市立大学、藤田保健衛生大学、愛知医科大学
京都府2施設(263万1,441人):京都大学、京都府立医科大学
大阪府7施設(884万0,372人):大阪大学、大阪府立大学、関西医科大学、国立循環器病センター、大阪府立成人病センター、大阪医科大学、近畿大学
兵庫県2施設(559万9,359人):神戸大学、兵庫医科大学
岡山県2施設(194万3,655人):岡山大学、川崎医科大学
福岡県2施設(506万5,856人):九州大学、久留米大学
 *厚生労働省報告、人口統計は2009年都道府県発表推計人口
 
 岡山における岡山大学病院、川崎医科大学附属病院は、何れも大学医学部附属病院であり、高度医療機能、研究機能、研修・教育機能を併せ持つ高次医療機関である。
 
 【川崎医科大学附属病院】
 昭和34年に社会福祉法人旭川荘を設立した川崎祐宣が、昭和45年の学校法人川崎学園設立、川崎医科大学開学に続いて、現理事長でもある川崎?明徳とともに昭和48年倉敷市に開設・開院した。病床数は1,182床、医療職員数433名、看護職847名、他職種1,737名を要する。開院当初より救急医療に力を入れており、1999年10月より厚生省の試行的事業として行われた“ドクターヘリ”事業を日本で初めて行い、今日の救急医療の発展の試金石となった。地域周産期母子医療センター、高次脳機能障害支援モデル事業岡山県拠点病院、地域リハビリテーション推進事業岡山県支援センターなど多くの指定を受け、地域基幹病院として地域住民からの厚い信頼とともに更なる発展が期待されている。          
 (川崎医科大学附属病院Home page ’09-‘10組織図案内抜粋)




岡山大学病院
 
 国立大学法人岡山大学の附属大学病院であり、明治3年岡山藩医学館大病院として開設され、以来140年の歴史を持つ。平成19年1月以降、医療法上の名称として、岡山大学医学部・歯学部附属病院より岡山大学病院へと改名された。
 岡山市の中心部にあり、大学附属の総合病院として、倉敷市の川崎医科大学附属病院とともに岡山県の地域医療の中心的役割を果たしている。「高度な医療をやさしく提供し,優れた医療人を育てる。」ことを基本理念として掲げており、高度先進医療の研究・開発とともに、最先端医療の実践で中四国地方において比類なき診療成果を上げている。
 病院規模としては、病床数865床、医療職員数519名、看護職893名、他職種2,094名を擁し、診療実績は、手術件数9,947件、緊急時間外手術件数580件、3次救急患者数502人、実質臓器移植件数35件、骨髄移植件数55件、外来化学療法患者数4,639人で中四国地方最大規模をほこる(岡山大学病院’08-‘09診療報告書抜粋)。
 先端医療として、臓器移植、小児心臓外科、血液内科における幹細胞移植の他,遺伝子細胞治療などの先端的治療の開発で全国レベルでの業績をあげている。特に臓器移植においては、脳死肺移植・肝移植・心移植・小腸移植の認定を受けており、近隣県はもとより関西圏・四国地方の中核的移植センターの役割を担っている。今日までに**例の生体肺移植と22例の脳死肺移植、そして263例の生体肝移植と3例の脳死肝移植を行い、全国指折りの移植施設として良好な成績を上げている。今後は’09年の臓器移植法改正に伴い脳死移植の更なる増加が見込まれ、新規施設承認を受けた心臓移植に関しても展開が期待されている。




メディカルテクノ岡山〜新たな医療産業の創出を目指す産・学・官の連携組織〜
 
 メディカルテクノバレー構想の推進を施策として、岡山県経済団体連絡協議会座長 中島博氏(産)、岡山大学長 千葉喬三氏(学)、川崎医科大学長 福永仁夫氏(学)、岡山県知事?石井正弘氏(官)を顧問、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科公文裕巳氏(学)を会長として発足した。
 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科や川崎医科大学等の医療系大学の優れたシーズと工学系大学、企業の有する技術との融合による新製品の開発等を支援するとともに、岡山大学のナノバイオ標的医療イノベーションセンターにおける研究開発活動との連携等により、医療先進県にふさわしい医療産業クラスターの形成を促進し、医療関連産業が集積するメディカルテクノバレーの形成を目指している。
参考HP:http://www.optic.or.jp/medical/



大学発ベンチャー

 国や自治体の施策により、産学官連携による新産業創出が始まってから10年以上が経過した。研究レベルでは多くの成果が出たが、実際の産業振興や地域活性化に結びついた例は少ない。また、国内のどの地域でも同様の計画を行ってきており、補助金・助成金頼みの組織が乱立するという問題がある。実際のビジネスとして立ち上げるためには、地域の特性を生かした新しい(他の地域とは異なる)アイデアが求められている。

 岡山大学においては、医学・農学分野を中心に大学発ベンチャーが設立されている。なかでも医学領域において、遺伝子治療を中心とした新規治療法・薬剤開発などバイオベンチャーの今後の展開が期待されている。

【遺伝子治療に関する大学発ベンチャー】
1) Oncolys BioPharma Inc. ’04.3月設立、資本金2,244,580,00

2) Momotaro-Gene Inc. (株式会社桃太郎源)  
 ‘07.8月設立、資本金196,000,000円
3) Beacle Inc.
 ’02.8月設立、資本金50,000,000円
(平成20年度経済産業省委託調査より)