岡山政経塾 チーム21
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◆◆医療・福祉分科会◆◆
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3.多様性と先進性に富む岡山県の医療・福祉の現状(現在)
E) 岡山は育児がしやすい環境か?父親の育児参加を考える
父親の育児参加を考える
8期生 渡辺 健太
【0】はじめに
「岡山は子育てがしやすいでしょう?」「岡山は子育てをするにはいい環境だよ」と、岡山出身の方から声をかけていただいたことが何度かある。確かに、そんな気がしなくもないが、具体的になぜ子育てがしやすいのかが直感的には理解できなかった。私自身、昨年の夏に長男が誕生し、二児の父となった。二人の子どもの出産、育児に関わる中で、産院や小児科医、幼稚園など今まであまり接することがなかった機関の存在や、子ども手当をはじめとする出産、育児に関する国や地方自治体からの補助制度などの存在を初めて知ったものも多い。本章では、その中でも岡山ならではの出産、育児に関する特長を考察し、岡山は子育てがしやすい環境かどうかについて、父親の育児参加という観点に絞って客観的に考察するとともに、岡山で子育てをする父親代表として、岡山の父親が他の都道府県のモデルとなるようなイクメンに溢れるまちにしたいという、主観的な思いをまとめたい。
【1】父親の育児参加の現状と課題(先進諸国に見る日本、岡山)
資料1より、日本は他の先進諸国の中でも際立って男性の家事・育児時間が短いことがわかる。一方、日本人女性の家事・育児時間は家事、育児時間ともに他国と比べても長いことがわかる。
一方、岡山市における子育て環境の現状を見てみよう。平成18年度岡山市保健所の調査(昭和63年、平成19年 岡山市おやこクラブネットワーク/岡山市保健所・保健センター「岡山市における子育て環境の現状」調査)によると、「父親の育児家事参加あり…59.4%」「父親の育児家事参加時々あり…34%」と9割以上の父親が家事・育児に参加している結果となっているが、父親の家事・育児参加の基準は、他国に比べて極めて低い水準であることからも、十分な状況にあるというには十分な根拠とはなり得ない。
資料2では、女性の社会進出女性有業率が高いと、合計特殊出生率が高いという正の相関関係にあることがわかる。これは、日本における女性の社会進出支援、就労支援が進んできたことを示すデータの一つとなっている。しかし、岡山県では、合計特殊出生率は国全体の平均以上であるのに対し、女性有業率は平均に満たない結果(資料3)となっている。岡山県においては女性の社会進出支援、就労支援においても課題が残っている。職場内での産休・育休の扱いや、男性の育児休暇取得支援も重要な案件ではあるが、ここでは、育児における父親の役割について整理し、男性の育児参加に関する考察を深めていきたい。
▽資料1

▽資料2 都道府県における女性有業率と合計特殊出生率

▽資料3

【2】父親の育児における役割とは?
そもそも、父親の育児における役割とはいったいどのようなものがあるだろうか。育児における父親の役割に関する多くの研究・調査結果に共通する項目として一番多く目にしたのは、「妻のよき理解者となる」「職業を通じて収入を得る」「子どものしつけをする」という3つであった。この3項目を改めて確認すると、現状の育児支援制度の在り方、考え方について一つ疑問が沸いてきた。現状の子育て支援制度の多くは、母親の育児を軽減することや、産休・育休後の復職支援など、男女共同参画の観点からくるものである。これからの日本の育児支援制度を考えるうえで重要なのは、父親主体の育児支援制度、すなわち女性の社会進出と同様、男性の育児進出という視点である。
また、妊娠・育児中、母親が精神的苦痛を訴える原因に最も多いのが、「相談できる相手がいない」ということである。妊娠中から母親は心身ともに不安定であり、とりわけ初産の場合出産に対する不安はとても大きい。女性はそうした不安と向き合っているのである。以前と比べ核家族が増えており、母親の両親(特に母親)に気軽に頼れる環境にない家庭も多く、益々、夫の理解は必要不可欠となっている。また一方で、父親にとっても妻の育児不安が、仕事に与える影響も大きく(資料4)、妻の育児不安解消は、育児支援を考える際には重要な観点といえる。つまり、父親の育児参加は、単に母親の家事・育児の代わりをすることではなく、まずは父親としての役割、そもそも夫として、妻のパートナーとしての役割を果たすことも重要であるということだ。
▽資料4

しかし、父親が、ここで述べたような父親の育児における役割が確認できる機会はなかなかないのも現状である。こうした機会を創るだけでも、父親の育児の在り方を考えるきっかけとなりそうだ。
実際、岡山市では「心豊かな岡山っ子育成プラン」のなかで、企業や学校と協力をしながら、父親や家庭のあり方を学ぶ「パパ・ママにっこりプロジェクト」を実施している。「親・家庭」「地域」「事業者」の3者それぞれの役割を確認し、得意領域を活かしながら地域の子育て支援を行っている。参加者の声の中であげられていた「子育てを通して大人が成長できることを知った」という言葉に象徴されるように、大人も成長することが育児においての醍醐味であり、最大のポイントではないかと考える。
【3】岡山はイクメンに溢れるまちになりうるか?
岡山ならではの育児支援を進めていくとするとなると、どのような施策が考えられるだろうか。まずは、先進事例として埼玉県新座市の取り組みに注目したい。NPO法人新座(にいざ)子育てネットワークと新座市が一体となって取り組んでいる「地域における父親支援ネットワーク構築事業」である。埼玉県新座市で子育てをする父親たちの活動グループ「お父さん盛り上げ隊」では、「お父さん応援プログラム」を受講し、子育てについてともに学ぶ仲間として地域の父親を巻き込みながら活動している。この取り組みはSNS(ソーシャルネットワーキングシステム)等を通じ、ますます広がりを見せている。
この論文を書き進めるにあたって、SNSの利用を試みた。Twitterで「岡山パパの会」というユーザー名で、アカウントを作成し、フォロワーに向けて「産院を選んだ理由は?」「育児におけるパパの出番は?」など投げかけてみた。予想以上に多くのリプライ(返信)があり、コミュニティを作るうえで、有効な手段の一つであると思われる。
今年度のチーム21の論文では、岡山の個性と魅力を各方面で調査・考察を行った。各テーマと連動し、岡山ならではのコンテンツで父親の出番を作るようなイベントや企画につなげていきたい。とりわけ岡山の伝統工芸・産業(備前焼、ジーンズ)とは親和性が高いだろう。
【4】終わりに
そもそも育児「参加」という表現そのものが、母親主導の育児が前提となっている気がしてならない。父親の育児における役割は大きい。母親の負担を軽減すると同時に、父親本来の役割を果たすべきである。引き続き、ここ岡山の地でできることを考えていきたい。まずは、SNSを通じて、身近な人たち・岡山のパパが気軽に相談できるような仕組み、ネットワークを作っていきたい。新座のような具体的な場でのイベントや働きかけができることを目指し、実践に移していきたい。最後に、2002年から2005年にかけてカナダで実施された父親の育児参加推進キャンペーン「My Daddy Matters Because...」で掲げられたキャッチフレーズを最後に紹介して、本論文のくくりとしたい。
「Fatherhood: it’s the best job on the planet.」
〜父親、それは地球上で最高の仕事〜
岡山の父親の皆さん。一緒に最高の仕事を。

↑NPO法人新座(にいざ)子育てネットワーク ポスター
■参考文献・WEBサイト
・校正労働省・男性が育児参加できるワーク・ライフ・バランス推進協議会 報告書
・少子化と男女共同参画に関する社会環境の国内分析 報告書
・岡山市おやこクラブネットワーク/岡山市保健所・保健センター リーフレット
・心豊かな岡山っ子育成プラン(平成22年度〜平成26年度)概要版 リーフレット
・心豊かな岡山っ子応援団 リーフレット
・カナダオンタリオ州父親支援プロジェクト
・岡山市ホームページ
・Benesse教育研究開発センターホームページ
(2008年度研究報告16号:カナダにおける父親の育児参加推進事業)
NPO法人新座(にいざ)子育てネットワーク(埼玉県新座市)
岡山愛育クリニック(岡山市中区) ホームページ
医療法人サン・クリニック(岡山市中区) ホームページ
Twitterアカウント @okayamapapa(岡山パパの会)
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