2016年10月 
 豊後高田市(まちづくり・教育)現地視察

『豊後高田市視察レポート』

春名充明 (岡山政経塾 15期生)

1.はじめに
 「教育のまちづくり」の取り組みから、これからの学校教育において必要なことを学ぶため、豊後高田市視察に参加した。
参加日程:平成28年10月8日(土)
視察内容:河野 潔氏(豊後高田市教育委員会教育長)の講演

2.学びの姿
 豊後高田市と美作市の学校教育施策を比較した。
自治体名 豊後高田市 美作市
参考資料 平成28年度豊後高田市学力向上推進計画 第一次美作市総合振興計画 後期基本計画(平成24年度~平成28年度)
施策の方向性、考え方 ・「分かりたい」「知りたい」「伝えたい」と意欲を持てる子。
・感性が高まり、成果や課題を明確にできる子。
・身につけた知識や技能を活用できる子。
・「できた」「分かった」という喜びをもとにさらに探求する子。
・学んだことを生かしながら目標を立て、自己の生き方につなげる子。 ・学校地域の特色を活かし、体験・交流学習を重視した教育を推進します。
・学校生活や学習上の困難を改善・克服するため、必要な支援を行います。
・生きる力を育む教育の推進。
・指導方法や体制の工夫による教育内容の充実。
スローガン 夢を描き、実現できる子どもの育成 豊かな人間性と生きる力を育む環境を創ります

(1)豊後高田市の方針は、子どもがどう成長して欲しいか、明記しており、目標とする子どもが想像できる。一方、美作市は、抽象的な目標となっており、「地域の特色」や「指導方法や体制の工夫」の詳細がないため、施策の方向性がわかりにくい。
(2)美作市の方向性をはっきりさせるためには、子ども目線の目標を立て、子どもの将来像を示すことが必要であると考えられる。

3.学力
の平成26年度全国学力・学習状況調査での正答率を、豊後高田市、美作市、岡山県、全国平均で比較した。
正答率[%]
小学校6年生 国語A 国語B 算数A 算数B
豊後高田市 71.7 56.4 80.4 56.9
美作市 70.1 52.9 75.4 52.5
岡山県 71.4 54.5 77.8 56.6
全国平均 72.9 55.5 78.1 58.2

正答率[%]
中学校3年生 国語A 国語B 算数A 算数B
豊後高田市 84.4 55.3 73.2 64.0
美作市 ? ? ? ?
岡山県 78.2 48.1 65.4 55.9
全国平均 79.4 51.0 67.4 59.8

(1)知識を身につけることは、学校教育の基礎であるが、この部分において各自治体で差が出ていることがわかった。特に、豊後高田市の中学校3年生は、全国平均と比較しても、高い数値を出しており、この傾向が継続すれば、数年後、10年後にはさらに差が広がり、地域にとって大きな強みになることが見込まれる。
(2)岡山県の学力においては、全ての科目が全国平均に及ばない状況である。根本的な教育方針を見直すことが望まれる。
(3)美作市においては、データが見当たらない状況である。比較以前の問題である。

3.視察で感じたこと
(1)学びの21世紀塾
「土曜日の朝は、勉強習慣!」
 私たちが学生の頃は、土曜日の授業はごく当たり前だったが、平成14年度より完全週休2日制が実施され、地域や家庭で過ごすこととなった。豊後高田市の取り組みは、これを契機として、公営の塾「学びの21世紀塾」を設立したことから始まった。
 経済格差をなくす手法が教育であることに重きを置いた、小さな市の大きな取り組みが、平成28年現在、全国の注目を集めている。この取り組みは、スポーツ活動や家庭事情等により、容易に実施できるものではない。他市の学校は土曜日が休日であるため、様々なイベントを行うが、その中で豊後高田市は、信念を貫いてきたことが想像できる。
 貫いた信念は、結果として表れている。前項の学力調査がその一つである。教育の基礎である学力向上は、地域を豊かにするきっかけである。この取り組みの強みは、市民講師が途絶えることなく、成長した子どもが次の世代を指導する仕組みになっていることである。この仕組みだと、国や県の教育方針の転換に影響されず、指導され身についたことを地域内で還元することが可能になってくる。これは、今後10年、20年経ったとき、大きな差として地域に表れることが想定される。
 「いなか暮らしの本」2013年2月号にて、豊後高田市が「住みたい田舎」ベストランキングで全国第1位となっている要因に、教育の充実があることは間違いないと感じた。

(2)小中一貫校
「このアイデアは、真似したい!」
 小中一貫校は、全国の211市町村、1130校で取り組みがあり(平成26年文部科学省調査)、成果として、子どもが中学校へ進学する際の不安解消や、上級生が下級生の指導や手本となる意識が高まることが挙げられている。また、教育委員会の目的として、9年間にわたって子どもの指導をするという意識を持つことが大きい。取り組む市町村は、20万人以下の中規模から小規模の地域が多く、人口減少によって学校統合が進む中、横(小学校+小学校)に統合するのではなく、縦(小学校+中学校)に統合することも必要ではないかと感じた。

4.おわりに
 視察を終えて、思うことを列挙する。
(1)教育方針を明確にすることが、学校教育にとって最も重要だと感じた。
(2)教育を通じ、地域で人材を育成することは、地域の豊かさにつながる。
(3)教育方針の差は、10年後、20年後に大きな差となって表れる。


『湯布院視察レポート』

1.はじめに
 魅力あるまちの代表格である湯布院には、何があるのか、湯郷温泉と何が違うのか、目で見て、感じるため、湯布院を訪れた。
参加日程:平成28年10月8日(土)~9日(日)
視察内容:湯布院のまち、由布岳

2.偉大なる由布岳
 標高1,583m、別名豊後富士とも呼ばれる。湯布院のまちに着くと、まず目に止まる。見た瞬間、このまちに引き込まれる感じがした。まさに、湯布院のシンボルである。万葉集にも「未通女(おとめ)らが 放りの髪を 木綿(ゆふ)の山 雲なたなびき 家のあたり見む」と詠まれているように、遙か昔から親しまれた山であったことが想像される。
 由布岳は、草原に覆われており、中国山地などで見られる森林が無い状態である。これは、森林限界という境界であり、通常2500mより高い山ではこの状態になるが、火山による特殊な地質や、単独峰で周囲に風を遮る山がないことなどから、1200mで森林限界となり、大きな木が生えないのだそうだ。そのことが、より一層、この山を特別なものにしている。

3.立ち上がったリーダーたち
 湯布院町役場が観光動向調査を始めた昭和37年当時,年間の観光客数は38万人と現在の約10分の1に過ぎなかった。
昭和46年、湯布院の若手旅館経営者であった中谷健太郎、溝口薫平、志手康二の3氏はヨーロッパ視察から湯布院のまちづくりを構想し、当時主流であった「大きなホテルを建て、団体客を受け入れる」発想とは逆の「地域の中に旅館がある」という方針を目指した。彼らは、ダム建設計画、ゴルフ場建設計画、サファリパーク建設計画が打ち出される中で、地域主体のまちづくりを貫き、現在の湯布院の基礎を創った1)。歓楽的な他の観光地とは性格を異にした独自の発展を目指してきたことが、現在の人気を生み出す源となっている。
1)参考文献 池内秀樹・朽木弘三:「観光まちづくり」の成果と課題-由布院温泉・黒川温泉を実例として-,地域創成研究年報第2号,2007

4.魅力あるまち
 魅力あるまちとは、多くの人が訪れるまち、何度でも訪れたいと思うまちではないかと思う。湯布院の湯の坪街道を歩いていると、休日ということもあり、避けきれないほどの多くの人たちがいる。通りは1キロ以上あるが、誰も歩くのが苦ではなく、楽しそうに歩いている。人々の目的はそれぞれ異なる。プリンを買いに行く人もいれば、ガラス工芸を見る人、木工細工のお店に行く人、湖を目指す人。欲しいもの、興味があるもの、行きたい場所があるから、皆、ここに来ているのだと感じた。とにかく、お店の種類と数が多く、店主が積極的に観光客に声をかけている。途中で、いきなり焼きイカを渡してきた店員もいた。驚きだった。
 他の温泉地と異なる特徴として、美術館の多さがある。湯布院には、10以上の美術館があり、まちを歩きながら、お気に入りの美術館に足を運ぶことができる。美術館とお店をすべて巡るには、とても1日では足らず、湯布院を何度も訪れたくなる要因ではないかと思う。

自治体名 由布市 豊後高田市 美作市
人口 H17 35,386人
H28 35,149人 H17 26,101人
H28 23,205人 H17 32,479人
H28 28,816人
面積 319.32km2 206.24km2 429.29km2
観光客数 H17 442万人
H27 411万人 H17 26万人
H27 36万人 H17 194万人?
H27 156万人?
観光客
目標値 H31 400万人
(H26策定) 40万人 (H28)
(H22策定) なし
温泉地
宿泊者数 H17 90万人
H27 78万人 H17 26万人
H27 21万人
宿泊者
目標値 H31 77万人v (H26策定) なし
観光の
将来像 懐かしき未来の創造 「いとおしく懐かしいおまち-飛躍-」
「高齢者が楽しいおまち-進化-」
「市民がうれしいおまち-創造-」 新たな魅力を創造し、個性のあふれるまちを創ります

 由布市、豊後高田市、美作市の3市において、観光に関する数値を比較した。その結果、読み取れることを以下に列挙する。
(1)3市の人口に差はないが、観光客数には大きな差がある。
(2)観光客数の数え方は、3市とも異なり、同じ指標で比較することが難しいことがわかった。
(3)人口3万人に対し、80万人が宿泊する由布市の取り組みは、昭和30年代から続くものであり、学ぶべきものは多いと感じた。
(4)以下に由布院温泉と湯郷温泉の観光サイトの表紙を貼る。「どちらのまちに行ってみたいですか?」

由布院温泉観光協会ホームページ


湯郷温泉旅館協同組合公式ホームページ