人と生活を彩る商店街へ―歴史が作った商店街の未来―
西井 隆之 (岡山政経塾 17期生)
1.はじめに
岡山の中心部には商店街が3つある。
「岡山駅前商店街」「表町商店街」「奉還町商店街」である。それぞれの商店街に共通して言えることは、活気がないということだ。人口減少の時代で地方の商店街は疲弊している。そんななか、再開発によって活気を取り戻し、全国から視察が相次ぐ商店街がある。中小企業庁が選んだ「頑張る商店街77選」に選ばれた高松丸亀町商店街だ。ほかにも様々な賞を受賞している。今回は活気あふれる商店街への再開発に取り組まれた高松丸亀商店街振興組合理事長の古川康造氏にお話しを伺った。
2. 時代の流れによる商店街の衰退
丸亀町商店街の歴史は古く、約420年前にもさかのぼる。高松市は当時本州と四国を結ぶ交通の要所であった。また、江戸時代のお殿様が丸亀にいた商人を現在の高松市の場所に移したことで、高松丸亀町商店街と呼ばれるようになった。場所もJR高松駅から車で約10分の距離にあり、全長470mの、高松市を代表する商店街である。
日本全国がバブル経済の頃、高松丸亀商店街も例外ではなく多くの訪問客で賑わいピーク時には年間20万人に迫る勢いだった。しかし、バブルによる地価の高騰で空洞化が発生し、通行量も2006年には半数にまで落ち込んだ。瀬戸大橋の開通をきっかけに交通インフラの整備で大型量販店が次々と高松市内に進出したため、多くの客を奪われる結果になった。無論、商店街の方たちも好景気の先行きを懸念していた。屋台骨が軋み始めたころ危機感を覚え、高松丸亀町商店街の再開発が始まった。
3. 再開発へのプロセス
【発想の転換】
再開発を進めるうえで再生がなかなか進まない大きな要因が土地問題である。土地はそれぞれ個人の既得権で守られる。例えシャッター商店街になろうとも、所有者が空き家で放置しようが、空き地にしようが、何をするにも個人所有の判断に任される。行政の都市計画であっても既得権に守られた土地に言及はできず、財産権の侵害になる。しかし、すでにインフラの整っている土地があるのに利用できないのはもったいない。
そこで考えられたのが、日本で初めて「土地の所有と利用を切り離す」計画だった。
私個人が感心したのは「定期借地権契約」すなわち、地権者が所有権はそのまま手放さずに利用権だけ限定で60年一斉に放棄することに合意を得たことだった。

●地権者は土地の所有権はあるが、60年間土地の利用権を放棄し、「まちづくり会社」に土地を貸す。
●「まちづくり会社」は建物の運営・管理を行う
●「まちづくり会社」は家賃収入から銀行への返済、管理費を除いたものを地代として支払う
これにより、地権者はテナントの売り上げに関心を持ち、街の興隆に関与する仕組みも出来上がった。
テナントミックスに関しても、個々であれば隣近所の店舗に関心などなく、区画自体に統一性や関連性がなくなる。同社が一括して業種の再編成を行うことにより、顧客のニーズに合ったバランスのとれた商店街が出来上がっていることが、賑わいを取り戻している理由のひとつである。
【人が来る街から人が住む街へ】
高松丸亀商店街の着目したすばらしい点は、「衣食住」から「医食住」への発想である。歳をとって郊外に住むのは何かと不便なことも多い。買い物や病院に行くにしても自動車に頼らざるを得ない。私たちが老後で一番不安なのは病気である。そこで、商店街の中に入院施設のない往診回診の診療所がある居住マンションを作った。400戸の入居者のほぼ100%が高齢者で、違った視点で見れば、みんなクリニックのお客様である。しかも24時間対応でリハビリセンターもある。誰しも長期入院するくらいなら自宅に帰りたいと思うが、ここでは自宅=病室である。しかし、病室≠(ではなく)自宅なのだ。また、車を使うことなく徒歩圏内で買い物ができる。私がこの先のことを考えるならこういう所に住みたいと思う。
安心して住める場所が、必要なものがすべてそろった街ならこの上なく良いと思う。
街なか居住促進に避けて通れない「医療」
●都市のスプロール化で居住者が居なくなった。(バブル 地価高騰)
●業種の偏りがおこり、町医者も無くなってしまった。
●でも役所的に見ると、一見、医療は充実している(大病院が集積)
●大病院に行くと2時間待ち。
●実は、街なかこそ医療過疎である。
⇒だから、町医者(かかりつけ医)が必要であった。
4. 終わりに
今回の視察で感じたことは、商店街のコミュニティーがしっかりしているということだ。どんなチームも動きがバラバラでは機能しない。目標と意識がしっかりと統一されていればこそ連携し、切磋琢磨しながら成長できる。残念ながら、自分の地元である商店街と比べると、温度差を感じて仕方がない。努力している事は理解できるが、商店街の人々とお客様の間にまだまだ距離がある。
古川氏のお話を通して、高松丸亀商店街の方々の街に対する意識はとても素晴らしく、見習うべき点が多い。どの地域でも共通しているが、街は生活する場であることが前提で、人との繋がりを広めていかなければならない。改めて、人が直に交流し、信頼を重ねて問題を解決していく姿勢は、ただ現状を悲観して衰退していく地域が見習うべき場所であった。