丸亀町商店街に学ぶ中心地の在り方について
植田 祐介 (岡山政経塾 17期生)
1.序論
①商店街訪問以前の思い
丸亀町商店街を視察するにあたって疑問に思ったのは、「何のために商店街を活性化させるのか?」であった。表町商店街を例にとって、私は1年の内に商店街でどれだけ買い物をしているか振り返ってみた。正直なところ飲食店を数回と映画館を1回利用する程度で、生活必需品の購入等はすべて最寄りのスーパーなどで行っている。とりあえず、私個人にとって表町商店街は、生きていくのに欠くべからざる場所というわけではなさそうだ。もちろん商店街で店舗を経営している方々からすれば、商店街の活性化は喫緊の課題であろうが、上記の理由から、一消費者に過ぎぬ私からすると、商店街を活性化させる必要はあまり感じられなかった。
②商店街見学
古川先生のご講演に先立って、私たちは商店街を散策することにした。その際、特に印象的だったのは以下の5点であった。
イ:町営駐車場がいくつも見られた。
ロ:道幅が広く、ところどころに待ち合わせ場所に使えそうな場所がある。
ハ:作りが立体的。
ニ:人通りが多い。特に、若者が多い。
ホ:自転車禁止なのに自転車に乗っている人が多い
最後のホは置いておいて、イ~ニは見習うべきところであろう。この中でも、特にロとハが印象的であった。しかしながら、上記の点以外には表町商店街との確たる違いといえるものは見られなかった。イ、ロ、ハの要素が二に挙げた人通りを生み出しているのだろうか。

③古川先生のお話を伺って
古川先生のお話は、序盤から私の疑問を吹き飛ばしてくれた。
「商店街の再生計画ではなく、少子高齢化の中での街づくり」
丸亀町商店街の方々は、「商店街にお客さんがたくさん来れば良いな」という程度の浅い考えではなかったのだ。来るべき少子高齢化社会の中で、地方が自らの手で生き残り、街を未来へとつないでいく。そのような街づくりを、丸亀町商店街を核として行ってきた結果として今日の賑わいがあるのだろう。丸亀町商店街が行ってきた街づくりについて、特に私が感銘を受けたものを中心に本論にて説明していくこととする。
2.本論
①これからの地方都市のあるべき姿とは
これから先、多くの地方自治体に於いて少子高齢化が起こることは、もはや逃れようのないことである。以下は、平成30年3月に国立社会保障・人口問題研究所より発表された資料より作成した表である。
都道府県 2015年 2020年 2025年 2030年 2035年 2040年 2045年
東京都 22.7% 23.4% 23.6% 24.7% 26.5% 29.0% 30.7%
岡山県 28.7% 30.5% 31.3% 31.9% 32.7% 34.9% 36.0%
香川県 29.9% 32.1% 33.2% 33.8% 34.7% 37.0% 38.3%
表1「65歳以上人口の割合」
同じ資料に、平成27年の人口を100とした場合の2045年の人口予想も記されており、それによれば東京は100.7で微増、岡山は84.3、香川は79.5で双方減少とのことであった。ちなみに、平成27年時点でのそれぞれの都県の人口は、東京都が約1300万人、岡山県が約192万人、香川県が約97万人である。
以上より、少子高齢化、人口減少への対策は、東京のような大都会よりも、岡山や香川のような地方こそ率先して行うべきであることが分かった。このような状況の中で、高松市の丸亀町商店街が掲げた街のあり方が「コンパクトシティ」である。
②コンパクトシティ
コンパクトシティとは、都市機能がごく狭い範囲に集中している街のことである。かつての高松市中心部は、面積比率5パーセント程度の範囲内に、港、駅、多数の商店街、県庁、市役所、病院が揃っており、かつてはここだけで市の収入の75パーセントを稼いでいたらしい。

図「丸亀町商店街周辺地図」
このコンパクトシティが、バブルをきっかけに徐々に崩れ始めた。中心部の地価が高騰した結果、人々はより安い地価を求めて郊外へと流出していった。
バブルがはじけると、地価は一気に下落した。すると、地価に依存する固定資産税による税収も減少してしまい、市の税収は一時7割近く減少してしまったらしい。この対応策として、高松市は全国でも類を見ぬ方法をとった。それが、都市の不用意な膨張を防ぐためにあった市街化調整区域の全廃である。これによって、郊外にあった農地は次々に居住地へと姿を変え、そこからあがる税金を充てることで減収分を補ったのである。結果、都市はさらに膨張してしまい、かつてのコンパクトシティとはかけ離れた姿になったのである。
街が大きくなることの何がいけないのか。好景気で人口も増えている間は良いかもしれないが、先に示した通りこれからの香川県は人口減少、少子高齢化が進むと予想されている。膨れ上がった街は、人口的にも財政的にも、いつか必ず支えきれなくなってしまうだろう。それに比べて、中心地は既にインフラ整備が終わった言わば宝の山である。丸亀町商店街再開発に於いて、「コンパクトシティへの回帰」は重要なキーワードであると感じた。
③コンパクトシティ実現への取り組み
郊外へ散らばってしまった人々を中心部に呼び戻すにはどうすれば良いのか。当然ながら、無理やり中心部に移住させるわけにはいかない。人々が住みたいと思う街を作らねばならない。そのための取り組みとして丸亀町商店街が行ったことには、主として以下のものがある。
ヘ:店舗の再配置
ト:マンションの建設
チ:診療所の導入
リ:広場やイベントホールの設置
では、ヘ~リについてそれぞれ説明していく。
・ヘについて
丸亀町商店街は、A~Gの7つの街区に分かれている。それぞれに、セレクトショップゾーン、美と健康といった風に強みを持たせつつ、商店街全体を1つのショッピングセンターに見立てて業種の偏りを解消し、顧客のニーズと合致した店舗が置かれている。居住区だけ作っても意味がない。生活に必要なものが近くで手に入らないのでは、住みたいという気持ちもわかないに違いない。
・トについて
丸亀町商店街では商店街上部にマンションが建設されている。商店街の再開発、と言われるとついつい「集客」のことばかり考えてしまうが、丸亀町商店街では、集「客」を超えて集「居住者」を行ったのである。もちろん、ただマンションを作ったからと言って居住者はやってこない。ヘ、チ、リの要素があるからこそ、人々はこのマンションに住みたいと思うのだろう。
商店街に住むということは、わざわざ車で来ずとも歩いて気軽に買い物を楽しむことができるということである。そしてそれは、運転免許を返納した高齢者による買い物難民の問題を解決する手段にもなりうる。商店街と居住者の間にウィン・ウィンの関係が出来上がるというわけだ。
・チについて
人間生きていれば病気やケガと無縁というわけにはいかない。居住地周辺に病院がないとなると、もしもの時や老後のことを考えると不安である。商店街自体を居住地とする上で、診療所の導入は必要不可欠であろう。
この診療所は大型病院と連携し、手術が必要となればすぐに大型病院へ送られるようになっている。さらに、診療所上部はマンションになっており、術後は自宅を病室代わりにして医師の診察を受けることができるのである。昨今医療難民という言葉を耳にするようになったが、これ以上の対策はそうないであろう。少子高齢化が進む中、この診療所の存在は大きいように思う。この診療所があるというだけでも、歳をとったらここに住みたいと思うに十分な要素である。
・リについて
ヨーロッパの古い町には、例外なく市の中心に広場があり、市民はそれを上手に活用しているそうだ。丸亀町商店街の広場も、市民の大切な場所として機能している。広場は公共スペースであるが、あくまで民間の土地である。それゆえ、市民は公的スペースのような制約に縛られることなく、自由にこの場所を活用することができる。また、この広場は商店街における憩いの場となってもいる。丸亀町商店街が過去に調査したところ、商店街に行きたくない理由の上位が「休憩する場所がないこと」「トイレがないこと」であった。そういった声に応えるべく、丸亀町商店街はこの広場のような公共スペースにも力をいれているのである。
④土地問題の解決
ヘ~リの再開発を行いたいと思っても、通常多くの商店街に於いては土地問題が邪魔をして、柔軟で効率的な土地の活用ができないでいる。各地の商店街にのしかかる土地問題とはどのようなものか、以下で説明する。
ある土地をどのように使うかは地権者の自由であり、これは商店街においても同じである。廃業後、シャッターが下りたままにするのも当然地権者の自由だ。しかし、そうやって閉店した店ばかりになっては、商店街を有効活用できない。ではそういった土地を借りれば良いのではないか、という意見が当然出てくると思う。しかし、土地というものは一度貸すと借り手に既得権がついて取り返せなくなるため、地権者は皆大切な資産を守ろうとして他人に土地を貸さなくなった。
この問題を解決したのが、定期借地権を利用した「土地の所有権」と「土地の利用権」の分離である。

資料「定期借地を利用した再開発の仕組み」(配布資料より)
これによって商店街の土地全体をまちづくり会社が借り、土地を効率的に利用することが可能となったのである。
3.結論
①丸亀町商店街成長の要因について
A街区開業からたったの1年で、
売上:10億→30億
通行量:12,000→18,000
となり、高松市の固定資産税は400万から3600万へと変化した。この変化を生んだのは何か。今回の視察を通して私は、商店街再開発を超えた「まちづくり」という大きな視点があってこそ、この成長を成し遂げたのだと感じた。単なる集客を狙った活動だけでは、今日の賑わいは成しえなかったであろう。
②今後の岡山市中心部について
翻って、我らが岡山市はどうであろうか。人口減少や少子高齢化は、先に挙げた通り岡山にも平等にやってくる。コンパクトシティへの回帰は、ここ岡山においても必要なはずだ。そう思って調べると、中心部再開発のニュースが見つかった。

資料2「岡山市中心部再開発計画」
この開発は、高松市丸亀町商店街のような効果を岡山市にもたらしてくれるだろうか。丸亀町商店街のように、1つにまとまった団体が行っているわけではなく、旧イトーヨーカドー跡地は両備グループ、東口は野村不動産など3社という具合にそれぞれが行うそうだ。一社がまとめてやった方が合理的な土地活用ができそうだと感じるが、丸亀町商店街に比べると各地点が離れているため、あまり関係ないようにも思う。岡山市中心部の再開発について、高松市丸亀町商店街と比較しつつ今後も注視していきたい。