「三方良しの施策で甦る街」
山瀬 正裕 (岡山政経塾 17期生)
・はじめに
丸亀町商店街は400年以上続く高松城の城下町として、また本州と四国の流通を支え、交通の要所として発展してきた高松市の中心地の経済活動の中で自然発生的にできた街です。
学生時代に丸亀町商店街を訪問し、その盛り上がりを目の前にして「高松は岡山より発展しているんだな。」と感心した思い出があります。
私は商店街が好きで、よく買い物や商店街振興を目的としたイベントを訪れていますが、単発的な取り組みだけではやはり、お客さんの定着が難しいという話をよく聞きます。かつて商店街と言えばそのままその町の中心を指すほどに経済の中心地という位置付けでしたが、郊外型の大型ショッピングモールやネット通販などの攻勢でシャッター街と化しているのが現状です。そんな中、今や多くの市町村から視察が訪れ、地域活性のお手本とまで言われるこの丸亀町商店街が潤うその仕組みを教えていただけるとのことで、今回の参加を心待ちにしておりました。
・視察を行って
古川理事長のお話を聞く前に、他の塾生と商店街の視察を行いました。
視察に訪れた日は土曜ということもあり、とても賑わいと活気に溢れていました。
岡山の商店街(特に表町)と比べて違いを感じたのは
1、飲食店が非常に多い
2、若い世代(10代から2、30代くらい)の人が多い
3、百貨店などでしかみかけないようなブランド衣料の店舗などが出店している
4、広い道幅、現代的で採光性の高いアーケード、ドーム広場などの環境整備に力を入れている。
といった点です。
多くの商店は目立って珍しいということもない店舗が多く、
まさにエリアが賑わいを生み出しているという印象を受けました。
飲食店や衣料品店が雑多に入り混じる様子を見て、店舗の借りやすさなどがテナントを呼んできているのではないか。商店を計画的に配置しているのではないかなどと商店街マネージメントの視点からの意見が多く出ました。
・商店街衰退の経緯
商店街衰退の内的な要因としては、
①中心地(丸亀町商店街周辺)の土地の価格が高騰するに従って、商店街の経済を回していた城下町以来の多くの居住人口が郊外に流出。
②商店主が、次の世代に土地を相続する段階で土地が細かく切り分けられた為、地権者の数や所有者が曖昧な土地が増え、土地利用が難しくなった。
③施工時から導線設計を計画的に行っているショッピングセンターと異なり、自然発生的に商店が集まって形成された商店街は不合理な商店配置となっていて導線が悪い。
④建物が老朽化し、また商店主も歳を取り、使われないまま放置されるテナントが増加、
しかし入居者に居住権を主張されるのを恐れるあまり、テナントを貸し渋り、結果新規出店も難しい状況に。
さらに、外的な要因として
瀬戸大橋の開通によって、本州から郊外型の大型のショッピングモールが続々と参入し、商業地の延べ床面積では全く比較にならないほど巨大な売り場が県内各地に生まれたことで、衰退は決定的となりました。
このような課題は我々の住む岡山でも、イオンモール岡山の登場で打撃を受けた表町商店街などをみても同様のことが言えます。
こうして要因をみてみると、実は商店街衰退の原因が、「商店街」だけではなくそのエリア周辺や外部環境にあることがわかります。
・ 土地問題解決の秘策
自由経済社会の中で大型ショッピングセンターに規制をかけることはできません。
衰退にいたった内的な要因を解決する為に丸亀町商店街では画期的な方法を導入しました。
それが、土地の所有権と利用権の分離です。
土地の所有者が土地や建物を貸し渋っていた大きな要因は、一度土地を貸してしまうと土地を借り手に居住権がつき、土地に対する権利が行使できなくなってしまう恐れがあるからでした。
そこで、土地の所有権は地権者にもたせたまま、土地の利用権を60年と期間を定め、中心市街地活性化法によって誕生した丸亀町商店街のまちづくり会社が利用権をまとめて管理するという方法をとったのです。
まとめて土地を管理することによって土地の自由な活用が促進され、また不合理だった商店の配置もまちづくり会社の専門的な導線設計で再配置されました。
また、利用権の対価として地権者に支払われる地代はテナントの売り上げによって変動するという仕組みをとりました。これによって、地権者もテナントの売り上げが下がれば地代は減り、上がれば地代も上がるというリスクを負うこととなり、地権者とまちづくり会社が積極的に協力し合い街を発展させる結果を生んだのです。
・ 「商店街」の復活物語ではない
丸亀町商店街は衰退から脱する為の一連の取り組みの主語を「商店街」ではなくその「土地」そのものとし、そこがどう発展していくかという視座を設定しました。
その結果、いかに商店街エリアに人を住まわせるかというところに町作りの目標を置くことにしました。そして人が住みたくなるような住みよい町作りが目標として掲げられ、実際に丸亀町商店街内でマンションや、マンションと医療施設、商業施設が一体化した複合施設などが生まれ、現在でもエリア内でマンションを販売すれば即完売という人気居住エリアとなったのです。
そのエリアに消費しにくる人口を呼ぶためにはつど力がいりますが、
そのエリアを生活の場とする人口が多く確保できれば、自然と経済活動は活性化し、発展が続いていくのかもしれません。
・ 三方良しの施策
香川県は日本一面積の小さい県として有名です、その日本一小さい県の税収のおよそ75%が現在、高松市内中心部から半径5kmの中心市街地周辺エリアで賄われています。
丸亀町商店街のある市内中心部に人が集まることで経済活動が促進され、税収が増え、また国や県や市からの公共的な投資も中心部に効率的に投下できます。
それによってますます中心部は住みやすく快適になり人が増えるという好循環が生まれます。丸亀町商店街の取り組みには行政からの様々な補助金や助成金も受けていますが、
市街地活性化の取り組みによって十分に協力以上の税収確保と節減につながったのです。
住む人にとっても住みやすく、行政にとってもコストパフォーマンスが高く、商店主や地権者にとっても商売がしやすい環境となったのです。
これこそが地域活性の理想と言えるのではないでしょうか。
・おわりに
一連の取り組みは、およそ30年前に当時の商店街理事長と、当時実家の電気店に戻ってきていた古川さん達など地域作りに関して専門外の若者達によって計画され実行されました。専門外の方がどうしてこのような成功を収めることができたのか、古川さんのお話を伺い、その理由は巻き込む力にあるのだとわかりました。
丸亀町商店街には各分野の専門家などで構成する東京委員会という有識者のサポーターを持っています。問題解決のために各分野の専門家やその権威を巻き込んで一緒に計画を立案していったことで、個人や1商店、1商店街では到底達成が難しい計画の達成につながったのです。今回の話を伺いとても勇気をいただきました。岡山の商店街の状況をもっと詳しく知り、1年後に課題解決に向けた提言が出せるように取り組んでいこうと思います。