2014年 直島特別例会レポート(直島・豊島)

『見る、聞く、体感する・考える力を身につける。発想の転換をする』

元岡 正憲 (岡山政経塾 13期生)

1、スケジュール・内容

1)直島アート視察(地中美術館・家プロジェクト・ベネッセミュージアム他)
2)松下政経塾OBのお話(佐藤広典氏・桂川孝子氏・福原慎太郎氏)
3)講義(北川フラム氏/アートディレクター)
4)豊島産廃現場視察(砂川三男氏)
5)豊島アート視察(豊島美術館・海のレストラン・横尾美術館他)

2、合宿参加にあたり

 私はこれまでに直島・豊島をプライベートで複数回訪問している。普通なら合宿先が何度も来ている場所であれば、多少がっかりもするであろうが、この直島・豊島に関してはそんなことはない。むしろ異なるメンバー、異なる目的で、何度でも訪れたくなる、そんな魅力的な島々だ。これまでは単なる観光目的であったものが、今回岡山政経塾の研修として訪問することでどんな発見や気づきを持つことができるだろうか?この貴重な機会を無駄にせず、目的意識・問題意識を持って、様々なことを学ぶという思いで臨んだ。

3、直島・豊島の歴史と概要

 私は岡山出身であるが、東京・大阪での暮らしが長かったため、直島・豊島をはじめとする瀬戸内の島々をあまり知らなかった。興味を持って訪れたのは、2010年に開催された「瀬戸内国際芸術祭」がきっかけである。では、この数十年の歴史の中で、直島・豊島に何が起こったのか?概要は下記の通りである。

「直島」

面積:14.23k㎡ 人口:3200人(1970年6000人から減少の一途)
歴史:1916年より三菱銅製錬所の企業城下町として発展も、1969年以降は事業高度化や国際競争による低迷、高齢化、人口減少が進む。1990年の豊島問題以降、産廃受入にともなう観光・漁業等の風評被害に苦しむ中、エコタウン事業構想による環境への取組み、同時期より福武氏が始めた文化村構想事業の取組みなどにより、現在の直島がある。瀬戸内国際芸術祭の玄関口的な存在でもある。

「豊島」

面積:14.4k㎡ 人口:1000人(1960年3200人から減少の一途)
歴史:農業・漁業・採石など一次産業で発展。豊島開発が1978年から1991年まで約56万トンの産廃物を違法投棄しており、環境は勿論、住民の健康・生活・未来をも破壊する大問題であることが発覚。香川県が住民へ謝罪、廃棄物の撤去処理作業は未だ続いている。一方で、その綺麗な景観や2010年豊島美術館の建設など、瀬戸内国際芸術祭の要所となっている。

 瀬戸内海に浮かぶ自然豊かな島の住民達を苦しめてきた産廃問題。その処理解決の為に500億円以上の血税を投入せざるを得ない状況をもたらした行政の責任はあまりにも重すぎる。しかし、その後の環境事業・文化事業への取組みのおかげで、そのイメージは徐々に払拭され、今や海外からも多く人を呼ぶ「魅力あるアートな島々」と変貌をとげつつある。瀬戸内国際芸術祭の影響が大きいが、なによりもその基礎となる文化村構想事業を実現してきた福武氏の功績は計り知れない。

4、直島・豊島のアートについて

1)地中美術館

 安藤忠雄氏設計、地中に埋められ自然光を採り入れて作品を際立たせる建築空間。クロード・モネの睡蓮は圧巻。ジェームズ・タレルの幻想的な光の演出は感動。

2)家プロジェクト

 直島本村地区の古民家再利用による現代アート作品群。どれも奇抜な発想で面白く、あるモノを生かす素晴らしさを実感。角屋の住民参画は継続する上で大事。

3)ベネッセミュージアム

 安藤忠雄氏設計、美術館とホテルの複合施設で独創的な作品を数多く展示。蟻が砂を運ぶ世界国旗、人生の苦楽を表したネオンなどメッセージ性の強さを感じる。

4)豊島美術館

 西沢立衛氏設計、水滴をモチーフとした独創的な建物。絵画や像などの展示物は一切無く、自然を感じながら、まさに座禅を組むイメージが味わえる不思議な空間。

5)豊島横尾館

 横尾忠則設計、古民家を改修した美術館。母屋・倉・納屋から構成された1つの絵画作品で、生と死を考えさせられる。奇抜な色使いや斬新なトイレにも驚き。

 アート鑑賞に関しては、何の説明も無く素の状態で臨み、何を感じるかが大事という考えもある。前回訪問時は個人旅行かつ瀬戸内国際芸術祭の繁忙期であったので説明を受ける機会もなく、感じるがまま充分に楽しんだのだが、一方で理解の限界も感じた。そして今回は岡山政経塾グループとして訪れ、同行頂いた西美氏や各館担当者から背景・意味合い・メッセージ性などの説明を聞き、ナルホドと腑に落とせた部分が多く、有意義に鑑賞することができた。次回は再度無の状態で臨み、更に新たな気づきや感動が得られるかが楽しみである。

5、講義について

1)佐藤広典氏

 前東京都議会議員。地域は恵まれた環境面を生かし、知恵によって都市部に無い魅力を高めた海外との地域連携が大事。費用弁償の供託など、今自分ができることから実施し、財政の見直しに取組む。

2)桂川孝子氏

 群馬県議会議員。主に教育と財政に取組む。教育面では、公教育を高め自立できる子供を育てる。財政面では、公共施設の老朽化対策、公務員の働き方、公会計への複式簿記の導入などを検討する。

3)福原慎太郎氏

 元益田市長。世界で一番の「いいまち」をつくる。そのために里山資本主義と日本のよさを取入れる。自らが世界一の自治体経営者になり、世界一の市役所の実現に向けて取組む。

4)北川フラム氏

 日本の有名なアートディレクターであり、「瀬戸内国際芸術祭」総合ディレクターを務めた。「越後妻有大地芸術祭」を始めこれまで取組まれた数々のアート作品の紹介とともに、あるモノを生かし新たなモノを作る、地域・世代・ジャンルを超えた協同、公共事業のアート化などに積極的に取組む。

 松下政経塾で学び、首長・議員として政治活動に携わってこられた御三方。講義内容は三者三様で学ぶ点も多くあったが、国や地域を良くしたいという強い想いは共通するものである。また北川氏からは、政治経済活動では動かせずとも、アート活動が動かす場合もあるというアートの持つ無限の可能性を学んだ。

6、豊島産廃現場視察について

 豊島総合観光開発(豊島開発)が1978年から1991年まで約56万トンの産廃 物を違法投棄・野焼きをし、1990年に摘発。豊島開発が住民に解決金を支払い、 香川県が謝罪するとともに、廃棄物を撤去・処理することとなった。現在も尚 産廃物の掘り出しと直島への移送作業は続いている。 その産廃現場と資料館を視察した。未だ大量に山積み された現場を見て、信じられないの一言である。長年 この問題対策に取組まれてきた砂川氏の説明にも熱が こもる。豊かな自然、住民の生活と健康、未来までも 壊し、その撤去・処理費用に500億円以上もの血税が 投入される。行政の判断ミスとか、指導監修の怠りとか いう次元の問題ではない。行政責任が問われる一方、 その行政を任せてきた国民の責任でもある。二度と同じ 過ちを繰り返してはならない。

7、合宿を終えて

 今回の直島・豊島合宿では、塾メンバー・関係者の皆様とともに、とても充実したひと時を過ごすことができました。数々の素晴らしいアート作品を鑑賞しつつ、非日常の空間と時間を楽しむことができた一方で、同じ場所で起こってきた産廃処理問題に苦しむ住民の方々。考えさせられることが非常に多い。 行政に期待することは、一刻も早く産廃処理問題を解決し、住民の未来に向けた安心・安全を確保すること。そして負のイメージを払拭することである。 そのために我々が取組むべきことは、まず先人の方々が築き上げてきたこの 素晴らしいアートな流れを継続的に応援していくこと。そして、岡山・香川・瀬戸内の島々が連携し、更なる地域経済の発展・ブランドイメージの向上を 目指すことである。
最後に今回の合宿を企画・準備・運営して頂いた小山事務局長・西美氏・ その他関係者の方々には、「見る・聞く・体感する」貴重な機会を与えて頂いた ことに心から感謝申し上げます。