2017年12月 
 伊勢神宮・おかげ横丁 視察

伊勢神宮・おかげ横丁視察レポート

山本正日 (岡山政経塾 16期生)

1.はじめに
三重県の「伊勢神宮」と「おかげ横丁」を平成29年12月16日の土曜日に訪問・視察した。まず、『伊勢神宮の外宮』を参拝し、その後に『おかげ横丁』を訪れ、有限会社伊勢福橋川史宏社長に講演していただいた。その後『伊勢神宮内宮』を参拝し、最後に松坂市の焼肉屋で松坂牛を堪能して帰岡した。車による日帰りの強行日程だったので体力的に少し厳しく感じたが、意義深い視察となった。今回の視察内容をレポートにしたい。

2.おかげ横丁の歴史と概要
 おかげ横丁は伊勢神宮内宮に隣接する、伊勢神宮内宮門前町「おはらい町」の中ほどにある。お伊勢さんの「おかげ」という感謝の気持ちから開業されている町である。
敷地面積:約4,000坪
運営管理:株式会社 伊勢福(平成4年9月28日設立)
代表者:横川史宏
総事業費:140億円
店舗数:58店舗
来場者数500~600万人(主に平成24年~26年の平均値)

江戸時代から「一生に一度でも良いからお伊勢さんに参りたい。」と多くの人々が「伊勢神宮」に参拝してきた。当時、満足な宿泊施設のない参宮は、まさに命がけの旅であったが、伊勢の人々は「おかげの心」で振る舞い、物・心の両面から旅人を支え温かく迎えた。そして時代は変われど伊勢の人々には、日々命あることを神に感謝する「神恩感謝」の精神が受け継がれている。神々や自然の恵みに感謝し、日々おかげさまの心で働く、伊勢人たちの息づく町として「おはらい町」は長い年月を経て形成された。

 伊勢神宮では20年に一度、御社殿を建て替える最も大きなお祭りである『式年遷宮祭』が行われる。20年という期間の理由にはいくつかの諸説があるが、神様に関しては古代のことであるのでわからないことが多い。しかし、人間に関しては、師匠である職人がその弟子に技術の継承を行うのに良い期間と言われている。
その年は、おはらい町を中心に観光客数が例年に比べ増加し、最盛期には年間に数百万人訪れていたと記録されている。しかし、戦後交通の発達やレジャーの多様化により、おはらい町への立ち寄りが年々減少の一途をたどっており、昭和の終りにかけて観光客数は20万人程に衰退していた。
この状況を憂いて、赤福の当時の社長である浜田益嗣氏が、「伊勢神宮の参拝客をもてなすための場所を作り、町を復興させたい」と昭和60年に立ち上がった。そして、おはらい町の中心部に400m四方の新しい街を、平成に入って総工費140億円をかけ創設した。それが「おかげ横丁」である。平成5年7月には完成・創業され、現在は約4,000坪四方の面積に58店舗が立ち並び、事業の運営については赤福の関連会社である有限会社伊勢福が行っている。『おかげ横丁』の完成により、減少していた観光客数が、年々回復・増加し続け、平成25年には650万人を超えた。おかげ横丁は成功したのである。

3 おかげ横丁の魅力について
 おかげ横丁へ訪れる観光客はリピート率が高い。また、訪れる年齢層を見ると10代~30代が約50%、つまり半数を占める。これは温泉地などで60代や70代の高齢者が半数以上占める割合と比較しても真逆である。「何がそうさせているんだ?!」と私は思ったが、まずは美味しい食べ物や、お土産ものがいっぱいあるからだと思った。岡山には無い、初めての『伊勢うどん』を食べてみた感想は「あっさりとしたタレで、極太麺で柔らかく、食べやすい。」だった。これは岡山でも人気がでると感じた。

写真1 シンプルであっさりとした味の『伊勢うどん』
その他にも、松坂牛を使ったお土産や、肉ミソ、お漬物、海の幸と様々な魅力ある土産物や食べ物が売られている。町全体に活気があり、種類が多いので全ては食べられない。お土産も全部買えないからまた次も来たいと単純に思ってしまった。また、食べ物以外にも木綿やキャンドル、革製品、銀製品、宝石小物など三重県や伊勢の名産品はもちろん、全国から集められた品々はこだわりの逸品や遊び心に溢れている。私は個人的に革製品の店が気に入った。センスがあり職人の本物のこだわりが感じられる店であった。
 58店舗の異なる様々な店が並ぶおかげ横丁は、訪れる観光客から見ると多くの会社が集まり成り立っていると思うが、実は1つの会社が各店を運営している。なので、「この店だけが売り上げを上げれば良い。」という考えではなく、全ての店でお客様を「オモテナシ」、満足させようとする心によって町づくりがなされている。それはおかげ横丁の役割や基本理念として表されている。
 
『おかげ横丁の役割・ミッション』は、☆伊勢神宮参拝のお客をもてなす。
もう一つは☆伊勢の町を日本人の心の故郷として未来に残すということだ。
有限会社伊勢福橋川史宏社長が講演の中で語っていた。「テーマパークではストーリーなどの仕掛けづくりが大切だが、ここ伊勢では歴史的な時間の中にイベントを重ねている。やるべきことが既に多くあり、新しくつくる必要はない。お祭りや行事を自然のままに感謝の心で迎え入れ、もてなす。過剰に演出する必要はない。むしろ過剰に演出すると続かない。」

 『おかげ横丁の基本理念』は
1:感謝の心(神恩感謝)と2:伝統文化と3:伊勢商人らしさの3つである。
これを縦軸にして、横軸に(A):建物、(B):商品、(C):催し、(D):接客の4つを具体的な方法として実行する。
感謝の心でのおもてなしを基盤に、(A):古き、懐かしい木造の建物で、雰囲気を出す。伊勢商人としてのこだわりで、特に高級なトガ(栂)材を使用するので、魅力的な外観である。しかし、木造は非常にメンテナンスコストがかかり、維持費用は非常に高くなっている。(B):商品はおかげ横丁の店先に並べて合うのか合わないのかを検討し、(C):季節の行事、お祭りを大切にする。行事の例としては、神宮奉納太鼓(神恩太鼓)などがあり、毎年11月に全国の太鼓打ち衆14団体が集い、演奏を奉納することによって賑わう。その為におかげ横丁の中心地には太鼓櫓が建築されており、訪れる観光客を楽しませている。(D):接客については私自身が行った時に実際に体験した。「この店に行きたい、この商品が置いている店はありますか?」などの質問を店員にした時の対応は、非常に感じが良く、親切な対応であった。

 写真2 情緒あふれる看板と建物


4 終わりに
橋川史宏社長の話の中で、「伊勢神宮は神々をお祭りしている尊い地なんです。既にあるのです。この地を参拝する方々をもてなしましょう。私たちは観光地として新たにイベントを作る。特産物を開発する。観光客を増やす。このような考えではないんです。基本的に伊勢神宮があっての『おはらい町』であり、その中の『おかげ横丁』なんです。お伊勢さんに感謝して、貢献する。それが結果的に伊勢の町や、三重県の貢献にもつながる。さらに結果として私たちも伊勢の商人として活躍、表現することができるということなんです。」という言葉に私は心を打たれた。
「多くの観光地があるが、他の観光地とは根本的な概念が違う。」と私は感じた。成功している観光地・商店街は500m四方であると教えていただいたことがある。そして魅力的な食べ物があり、お祭りなどの行事・イベントそして、心打つ景色や建物とおもてなしの心・・・・。さらに神様への感謝の心が根づいているこの地においては、発展する要素がすべて揃っているのではないか。

では、岡山には無いものばかりか?そう考えると岡山には吉備津神社がある、桃太郎伝説がある、備中国分寺五重塔や後楽園や吉備の歴史がある、食べ物もおいしい・・・・・・。私は岡山に無いもの、足りないものは無いと思った。
特に吉備津神社の周辺は駅も近く、まだまだアイデアによっては開発の余地はあると思う。私はおかげ横丁や由布院の駅周辺の賑わいが岡山県でもできるのではないかと考える。ただ、それらをつなぐべく、イノベーションやマネジメントなどの面でユニークなアイデアを出し、先頭に立ち旗を振り、多くの人々を巻き込み、調整する人材がこれから必要となるのではないか。これらは、経済的な問題でもあるが、地域の発展は政治の責任でもあると言える。
おかげ横丁は約20年で30倍の観光客増加に貢献している。私は後20年で65歳である。20年後、岡山県は変わるのか。もし変わるなら、その時私も発展・変化に貢献できるような人材でありたい。