岡山政経塾 チーム21

 

◆◆観光・文化分科会◆◆

 ・ 備中聖人「山田方谷」の観光資源化について
 ・ 備前焼の現状と未来への提言
 ・ 岡山の特産物に触れて
 ・ スポーツツーリズムによる岡山の活性化

『備前焼の現状と未来への提言』

       8期生 波夛 悠也 
       8期生 津村 泰弘     

まえがき

「備前焼は、最低迷期である」と一部の作家の間で嘆かれています。1000年の時空を超えて受け継がれてきた、岡山の素晴らしい文化が、このような現状にあるという事を一愛好家としても残念に思います。何が原因で、このような現状になっているのか、各方面の方々から生の声を伺い、考察を深めていきました。
その結果
* 消費者が求めている作品と、作られている作品の間にずれが生じているという事。
* 作家でありながら営業販売も手掛けなければならないという事。
* 個性が失われているという事。
 景気の悪化、消費者の陶器離れという現実はあるにしても、需要と供給が成り立たない所に商いは成り立たちません。
 伝統があるがゆえに、難しい問題があるが、一つ一つ解決していかなければ解決の道はないと私は考えます。
 
 この論文が備前焼の復興に向けて何かのきっかけになれば幸いです。




1. 備前焼の歴史
 
 備前焼は、瀬戸、常滑(とこなめ)、丹波、信楽(しがらき)、越前とともに日本を代表する六古窯(ろっこよう)の一つに数えられており、中でも最も歴史が古いとされています。

 備前焼の歴史は、古墳時代より須恵器の生産を営んでいた陶工たちが、平安時代から鎌倉時代初期にかけて、より実用的で耐久性を持つ日用雑器の生産を始めたのが誕生の時代といわれています。

 備前焼の魅力は、飾り気のない素朴さです。釉薬を用いない渋い焼き上がりは、やがて堺、京都の茶人に認められるところとなり、桃山時代には、千利休、
古田織部(ふるたおりべ)、豊臣秀吉などの茶人や権力者の指導により盛んとなりました。この頃、備前焼の素朴さは、茶の湯の「侘び」と「寂び」に通じると
言われ、茶器の名品が数多く焼かれました。   
 金重陶陽に代表される、近代・現代の備前焼作家の多くが作陶の目標としたのは、この時代の作品です。

 そして現代に至るまで苦難の時代を幾度と乗り越えてきました。今日までの約一千年の歴史の中、備前の窯から煙がのぼらなかった日は一日たりとなく、金重陶陽、藤原啓、山本陶秀、藤原雄、伊勢崎淳の5人の人間国宝を生んでいます。

 現在、愛好家は広く海外にまで及んでいます。他に例を見ないこの長い歴史と伝統、そして無限とも言える魅力をしっかりと受け継ぐべく、500人余りの
作家・陶工たちが窯を構え、作品を世に送り出しています。




2. 備前焼の現状
 
2−1. 協同組合岡山県備前焼陶友会  宮本俊二 専務理事のお話

 協同組合岡山県備前焼陶友会(以後「陶友会」と表記)とは、昭和27年創設された協同組合で、目的は販路の開拓、共同販売です。
平成22年度現在、備前焼作家総数が約400名と言われている中、陶友会には210名の方が会員として活動されています。人間国宝である伊勢崎淳氏も同会員です。また、過去には人間国宝の金重陶陽、藤原啓、山本陶秀、藤原雄らを輩出しています。
 場所は、JR伊部駅の2階にあり、会員の作品が多く展示販売されています。
 近年、備前焼は年々売り上げを下げています。

伝統会館2階展示即売場の年度別売上指数

年度

前年対比

昭和62年度を100とした場合の割合

昭和61

0%

35%

62

288.00%

100%

63

91.20%

91%

平成元年

114.20%

104%

2

110.20%

115%

3

101.30%

116%

4

103.30%

120%

5

134.70%

162%

6

72.90%

120%

7

113.20%

135%

8

114.00%

154%

9

85.40%

132%

10

84.00%

111%

11

89.00%

98%

12

92.40%

90%

13

97.20%

88%

14

95.70%

85%

15

83.60%

71%

16

80.40%

57%

17

89.40%

51%

18

98.50%

50%

19

96.10%

48%

20

90.80%

44%

21

104.70%

46%

※伝統会館2階展示即売場とは、伊部駅の2階にある陶友会の展示即売会場


 平成5年をピークに平成21年まで売り上げが低下し続けています。このデータは、会員各自の売上推移にほぼ当てはまるそうです。備前焼だけの売り上げでは生活が成り立たず、作家自らが出稼ぎに出なければならない、という厳しい現状があります。

 年に一度、秋に行われる陶友会主催の備前焼祭りがあります。これは日ごろのお客様に謝恩を表した祭りで、陶友会会員の作品を2割引きで展示即売しています。

備前焼まつり来場者状況

年度

回数

来場者数

平成元年

第7回

?

2年

第8回

11万人

3年

第9回

?

4年

第10回

15万人

5年

第11回

16万人

6年

第12回

17万人

7年

第13回

16万人

8年

第14回

16万人

9年

第15回

17万人

10年

第16回

12万人

11年

第17回

17万5千人

12年

第18回

15万人

13年

第19回

13万5千人

14年

第20回

12万人

15年

第21回

16万人

16年

第22回

16万人

17年

第23回

12万人

18年

第24回

15万人

19年

第25回

16万人

20年

第26回

16万人

21年

第27回

13万5千人

22年

第28回

14万人

 しかし昨今では、一部の作家、窯元が500円〜1000円均一等の安売り合戦に出ている店舗があります。主催者としては、この安売りに頭を困らせているという事ですが、注意するには至っていないのが現状です。
 幸いにも、備前焼まつり来場者状況は、伝統会館2階展示即売場の年度別売上指数と比較して、大幅な減少には至っていません。備前焼そのものに魅力を感じている消費者は減っていないという事が分かります。
 陶友会は、備前焼の良さを知って貰う為の試みとして、備前焼祭り以外でも展示即売会、個展の開催など、随時企画されています。
 しかし、これらの単発で企画するイベントは、売り上げが伸びず失敗することが多いのが現状です。
 平成5年のように売り上げがピークだった頃は、窯から焼きあがった途端に、作品が売れていき、窯から焼きあがった作品を丸ごと購入というお客様も居た程、とお聞きしました。将来、価値が上がるという希望を胸に抱き、100万円超の作品が売れる事も珍しくなかったようです。それが、現状では持っていても価値は上がらず、誰も引き取ってはくれない為、邪魔だからということで処分方法を尋ねられる事がある程です。


2−2.アートスペース油亀から見た備前焼の現状

 アートスペース油亀(以後「油亀」と表記)とは陶磁器、絵画を中心に企画販売しているギャラリーです。オーナー柏戸善貴氏(以後柏戸氏)はいくつかあるギャラリー形式の中から企画ギャラリーに特化することにこだわりを持っています。ギャラリーにはレンタルギャラリー、コマーシャルギャラリーそして企画ギャラリーと大きく3つの考え方があります。

レンタルギャラリー 作家もしくは売る側がお客様
コマーシャルギャラリー
企画ギャラリー 一般消費者がお客様

 柏戸氏は、備前焼には根本的に他の焼き物と違うところがあると言います。
それは、備前焼は作家が作品を作り、作家が営業販売を手掛けなければならないという事です。油亀は、この部分を解消するべく企画ギャラリーという形にこだわっています。仕組みは以下のようになっています。
 作家は、消費者の声を聞くことが少ない為、作家の代わりに油亀が【消費者の求めている物を感じ取り】、【企画を提案して】、【販売する】。その際、【作家の作品に対する思いを消費者に届ける】といった具合です。その結果、作家は作品づくりに専念できるという事です。
 過去の備前焼が売れていた時代は、有名作家の作品を現代の高級ブランド品の代名詞である、「ヴィトン」や「グッチ」と同じように買い求める人がいた。しかし、これは過去なのです。
 備前焼作家は備前焼の茶色という本質を見極め、均一でありふれた作風ではなく、個性ある作品づくりを追及しなければならないのです。
 漫画「モーニング」で連載されている【へうげもの】という漫画があります。
これは、織田信長から2代将軍徳川秀忠まで仕えた古田織部という茶人であり、茶器の収集家の話です。作家の間では評判の漫画です。これが、今年の4月よりNHKでアニメ化されることが決まっています。桃山古備前の風格と存在感を認識してもらうには、格好のチャンスであると考えています。


2−3.安倍安人氏のお話

安倍安人
 大阪府生まれ。1972年に作陶をはじめ、1986年に岡山県牛窓町(現・瀬戸内市)に窯を構える。美に関する該博な知識と自由自在な造形論を武器に精力的な活動をこなす陶芸(備前、伊部、緋襷など)、アート作品の紹介と造形論もこなす作家。その作風は大胆さと繊細さを兼ね備える。
 国際陶磁学会会員 IAC(International Academy of Ceramics) メトロポリタン美術館プラチナメンバー。 コレクションは、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)3点、
アリアナ美術館(スイス)2点、京都国立近代美術館2点他多数。

 安倍安人氏の考え方は、時代は変化していて、床の間がなければ、座敷もない。茶道、華道をする人口も減っている。伝統的な社会が失われている昨今では、伝統を守っている間は時代が止まっているのと同じである。伝統は守る為の物ではなく、壊すものであるということでした。
 
  写真の作品を見て、どのように感じますでしょうか?
少なくとも私は、直に触れてみて今まで感じたことのない、作品からにじみ出る強烈な魅力を感じました。

彩色備前水指 (2007年)
20.0×18.0×20.0
彩色備前瓢徳利 (2010年)
9.5×8.0×15.5
備前水指 (2004年)
19.5×18.5×19.5
安倍安人氏と晩酌

2−4.瀬戸内国際芸術祭2010参加イベント「犬島 野焼き陶」

 瀬戸内国際芸術祭2010参加イベント「犬島 野焼き陶」が2010年9月25日(土)〜9月26日(日) に行われました。私は岡山政経塾OBとして参加させていただきました。とてもよい天気の中、野焼きイベントは行われました。

炎立ち上る野焼き 藤原和幹事の背中
9期生と夕暮れ

  夕刻になると雲が晴れ、澄んだ空と潮風が頬に心地よかったです。静かにゆっくりと非日常の時間が流れていました。家族3人で参加させていただきましたが、素晴らしい思い出となりました。福原慎太郎益田市長夫妻も来られていて貴重なお話が聞けた事も嬉しい誤算でした。ありがとうございました。




3.未来への提言
 
 私は、福原慎太郎益田市長の講義を思い出しました。「益田を一流の田舎町にする」これは私にとって、とても感銘を受けた講義でした。この内容が伊部のまち、備前焼の未来への提言に通じていると確信しています。まず、伊部のまちに活気がなければ備前焼の未来に活気はないと考え、提言として、この講義の内容を伊部のまちに落とし込んでいたいと思います。

提言:伊部を「一流の田舎町にする」

@ 人間 〜伊部の伝統・文化に誇りと自信を持つ〜
 ・挨拶日本一の町にする
 ・故郷に自信と誇りを持つ
 ・自分の故郷を自らの言葉で愛情を持って語れる
 ・自分で考え、表現し、行動する
 ・自ら課題を見つけ、解決方法を探る

A 経済 〜商品力と観光客の誘致〜
 ・商品力のある備前焼を観光客に購入して頂く
 ・ビールジョッキを備前焼にしてもらう活動
 ・地酒を備前焼の御猪口で乾杯
 ・物の時代から心の時代へ(感動できる物作りとサービスが大切)

B 視覚 〜デザイン〜
 ・デザイン
 商品の価値は内容・デザイン・パッケージによって決められる。

 
 観光地として賑わっている、倉敷・直島にあって伊部に無いものは何なのか。素直な心で現状を見極め、共感を得られる「理念」、「哲学」をもって動き出さなければなりません。
 福原市長は、『やって見せて・言って聞かせて・させてみて・褒めてやらねば・人は動かず』と言われました。幸い、伊部には歴史があり技術があり人がいます。これらの強みを活かして、覚悟を決めやり切ること。そうすれば、伊部のまちにまた備前焼に活気が戻ると私は信じております。




まとめ
 

 重要な事は、備前焼にかかわる全ての人が、現状を知り、現在地を知らなければならないという事です。備前焼の現状を深く理解し、自分自身に問い直す事。売り上げが落ちている要因を、外部環境の変化に求めていては、道は開けません。自分たち自身で市場を精査し、需要と供給が成り立ったものづくりをしていかなければならないのです。まずは、各々が個性を存分に発揮し、お客様に伝え、そして感じてもらうことです。
 様々な方面の方から直接お話を伺い、私が感じたことは、共通して「何とかしなければいけない」という思いを、それぞれが持っているという事です。しかし、その思いは個人、もしくは少人数での共有に留まっていて、単発の企画はあるが、それは表層的な企画に感じます。時間はかかっても、現場にしっかりと根を張るような仕組みでなければ意味がないと思います。
「変えるにはリスクが伴う。変えなければ未来により大きなリスクを伴う」という言葉を小山事務局長から伺った事があります。まさに今日の備前焼はこれが言えます。このままいけば、備前焼はもっと低迷するだろう。今必要なのは、一歩踏み出す勇気なのかもしれない。

 最後に、この論文作成の為にお時間を作って下さいました、安倍安人さま、柏戸善貴さま、藤田龍峰さま、藤田昌宏さま、宮本俊二さま、心より感謝申し上げます。ありがとうございました。





■取材
 ・安倍安人氏(作家)
 ・アートスペース油亀 柏戸善貴氏(オーナー)
 ・藤田龍峰氏(作家)
 ・藤田昌宏氏
 ・協同組合岡山県備前焼陶友会 宮本俊二氏 専務理事

■参考文献
 ・福原慎太郎 益田市長 講義資料
 ・「NIKKEI DESIGN」  日経BP社  2011/1
 ・「備前All of BIZEN」  阿部出版株式会社 2008/8