『自衛隊生活体験入隊レポート』
滝澤孝一 (岡山政経塾 15期生)
去る9月24日・9月25日に岡山県勝田郡奈義町にある自衛隊日本原駐屯地で生活体験入隊を行ってきました。日本原駐屯地には第13特科隊が駐屯しています。今回の生活体験入隊では、その中の第3中隊にお世話になりました。
1 1日目
岡山から約2時間掛けて、駐屯地に到着するとまずは自分たちが宿泊するテントを設営します。記憶を辿ってみるとテント設営を行ったのは中学校以来の私にとって、実に四半世紀ぶりのテント設営です。自衛隊の方が示してくれるお手本に従い、ひとつずつテントを設営します。ハンマーで杭を打つのが一苦労でしたが、何とか4つのテントを設営できました。1つのテントに2人ずつ宿泊するのですが、中に折りたたみ式のベッドを持ち込んで、その上で寝袋を利用して寝ます。寝心地が悪そうだなと思っていましたが、意外や意外、寝心地はそんなに悪くなかったのには驚きました。
テント設営の後は、昼食の時間です。今回は隊員食堂で、普段、駐屯地のみなさんが食べているのと同じ食事をいただきました。学校給食のような感じですが、美味しかったです。ところで、駐屯地の自衛官は駐屯地内で寝泊まりしている若手の自衛官と幹部や既婚者など、駐屯地の外にある家から通っている自衛官に分かれるそうですが、駐屯地内にいる自衛官は、食費も宿泊費もすべて無料なのだそうです。もちろん給与は出ますが、基本的に遊び以外にお金を使う必要がないので、貯まる一方だとのこと。少し羨ましいと思いました。
昼食を終えると、基本教練が待っています。自衛隊における気をつけ、休めや敬礼の仕方、また行進の仕方などを教わります。敬礼は「け」と言った瞬間に動作を開始しなければならないとか、とにかく素早さが求められます。きびきびと行動していると、普段のんびりとした生活を送っている私もピリッとしてくるから不思議です。
基本教練で一通りの動作を学んだ後は、お世話になる第三中隊の益田一宇中隊長に着任の申告を行います。私が岡山政経塾から参加した6名を代表して、「岡山政経塾滝澤孝一外5名の者は、平成28年9月24日から同年9月25日までの間、生活体験入隊のため着任いたします」と申告を行いました。
申告を行った後は、中隊長から精神教育(防衛講話)を受けます。日本原駐屯地や隊員たちの生活を紹介いただいた後に、自衛隊員としての心構え等を教えていただきました。
その後、グランドに移動して、再度基本教練を受けます。この基本教練では、行進の仕方を中心に、回れ右、右向け右、左向け左などの動作を学びます。高校時代までは体育で行っていた動作ですが、そこは自衛隊の動作であり、素早さと正確さを求められますので、緊張感みなぎる中での教練となり、良い経験になりました。
次に戦車の見学・試乗を行いました。乗ったのは74式戦車です。調達には1台4億円ほどかかるそうです。戦車隊の方の説明によると主砲の射程は1,500mとのことでした。実際に乗ってみた感想ですが、乗り心地は最悪。まっすぐ走っているときはまだ良いのですが、曲がるときの揺り戻しがものすごく、振り落とされそうになるくらい揺れます。乗用車ではないので、乗り心地が悪いのは仕方ありませんが、これに乗って戦う人は大変だなあと思いました。
戦車試乗の後は、応急訓練です。戦場で負傷した際、応急手当に失敗すれば失血のため死に至るという生々しい話とともに、CATという止血用の器具を如何に早く装着するかの訓練を行いました。自衛隊員という職業は、有事となれば死と隣り合わせの厳しい仕事であることは頭では分かっていましたが、こうやって手や足を吹っ飛ばされた際に、どうやって止血するのかという訓練を行っていると、それが実感としても伝わってきて、正に命がけの仕事なんだなと、彼らの大変さが身にしみて分かりました。
1日目最後の訓練は、日本原駐屯地のトップである米良憲一郎第13特科隊長から講話をいただきました。米良隊長は前職が西部方面総監部人事部厚生課長であり、熊本にいらっしゃった関係で、特に中国の動きに気を配らなければならないポジションであったことから、現在、問題になっている南沙諸島の埋め立ての話や、中国が今後、太平洋進出戦略と我が国の安全保障がどう関わるのかなど、地図等を用いて大変分かりやすく講義いただきました。最近、個人的に地政学に興味を持っている私としてはとても興味深く聞くことができ、大変勉強になりました。
1日目の訓練内容は以上のとおりでした。その後、入浴をして、第3中隊の方たちと懇親会がありました。駐屯地内にある隊員クラブという場所でお酒を飲みながら、硬軟織り交ぜていろんな意見を交換できて、とても有意義な時間を過ごせました。
2 2日目
前日に6時に起床ラッパの放送が鳴りますよと隊員の方から聞いていたので、前夜11時の消灯に合わせて寝袋で就寝し、完全に油断していたところを、朝5時に突如起こされ、何事かと思ってテントを出ると、自衛官の方は既に準備万端の様子で「はい!これから歩行訓練を行います。10キロの荷物を背負って、10キロ歩きます。」と有無を言わさず訓練が始まりました。背中に水2リットルのペットボトル5本が入ったリュック(背嚢と言います。)を背負わされて、駐屯地の中をひたすら黙って歩きます。日頃、10キロの荷物を持ったり、また時には10キロを歩いたりすることもありますが、10キロを背負って10キロ歩くということはなく、途中3.3キロ毎に15分の休憩を取りながらと言ってもやはり疲れました。岡山政経塾6名の参加者のうち、最後まで荷物を背負って歩き続けられたのは私を含めて3名のみでした。結構きつい訓練だなと思っていたら、我々の生活体験入隊のお世話をしてくれている三木三曹が「実際の訓練では40キロを背負って、40キロ以上歩きます」と事も無げに言ったのを耳にして、自衛隊、やはりハンパないなとビックリしてしまいました。しかも女性自衛官も同じ訓練をしているそうで、2度ビックリの歩行訓練でした。
歩行訓練でヘトヘトになった次は、防衛問題についての討議を行いました。討議では、日本、アメリカ及び中国の各国についての状況が四半世紀後どのように変化しているのかを考え、それに基づいて日本としてどのように安全保障を確保していくべきかということを考えました。日頃あまり考えたことのない内容であったので、良い頭の体操になったと思います。
その後、前日と同様に隊員食堂で昼食をとり、寝泊まりしたテントを解体して撤収作業を行った後、離隊のため「岡山政経塾滝澤孝一外5名の者は、平成28年9月24日から同年9月25日までの間、生活体験入隊中のところ、修了のため、離隊します」と中隊長に申告を行い、2日間の生活体験入隊の全ての訓練を終えました。
3 生活体験入隊を終えて
2日間の生活体験入隊を終えて感じたのは、私を含めてもっと国民は自衛隊を知らなければいけないし、自衛隊も国民に知ってもらう努力を行うべきだということでした。お隣の国韓国のように徴兵制がない我が国では、自衛隊員にならない限り、基本的には国防や軍事について、実際に経験する機会はなく、マスコミを通じて知る情報のみしか持ち得ない状況となります。そして、その情報も望まなければ、知らずに生活することも可能です。
しかし、我々国民が日常の中では安全保障を考えずに生活できていたとしても、中国や北朝鮮、またロシアなどは虎視眈々と我が国の安全を脅かす行動をとる機会を窺っているやもしれず、また頼みにしているアメリカも、例えば大統領がかわれば、今までとは全く違う態度をとる可能性だってあります。安全保障は国家が果たすべき役割の中で最も大切なものの一つですが、安全保障についての意思決定を行う国会議員を選ぶのは我々国民です。安全保障というものを全く知らずに、安全保障に通じた国家議員を選ぶということが不可能である以上、きちんと仕事をしてくれる代表者を選ぶには、国民一人ひとりが常に安全保障について一定の知識を身につけていなければなりません。「戦い好まば国亡び、戦い忘れなば国危うし」という言葉もあります。国家は決して好戦的になってはいけませんが、平和を願えばこそ、軍事や安全保障についていつも考えていなければならない。今回の生活体験入隊はそのことを認識するためにとても有意義な機会であったと感じました。