高松丸亀町商店街視察レポート
春名 充明 (岡山政経塾 16期生)
1.はじめに
「民間主導の再開発」の取り組みから、地域への集客力向上や、住みたい街へと転換するために必要なことを学ぶため、高松丸亀町商店街視察に参加した。
参加日程:平成29年6月24日(土)
視察内容:高松丸亀町商店街振興組合 理事長 古川 康造氏
2.「光り輝く商店街」
遠くから見ると、そこが商店街だとは思わないほど、開放的で明るい。商店街特有のアーケードが私の知っているものより遙かに高い位置にあり、光が四方から差し込んでいる。
そこを歩く人々は、光に包まれ、笑顔で歩いている。これが高松丸亀町商店街だ。
商店街には、有名ブランド、銀行、コンビニ、飲食店などが戦略的に配置されていて、歩く人を飽きさせない。さらに、宮脇書店、岩佐佛喜堂、つねやなど、本店が多いのも特徴である。新しいものだけを取り入れているわけではないのである。この商店街の道幅は広く、多くの人々が行き交っても歩きやすい。道や店舗はきれいで、店員も快く声をかけてくれる。歩く人が休憩するためにベンチやテーブルが所々に置いてある。とにかく、快適であり、この地域を愛する人がこの商店街を創り出したことが伺える。
なぜ?誰が?この商店街を創ったのか、どのように取り組んだら私の住む地域にもこの商店街を創ることができるのか、そんなことを思いながら、人波の中、光り輝く商店街を歩いた。
3.衰退からの転換
商業が基幹産業である高松市では、約400年前に現在の商店街の基礎ができた。丸亀町商店街の由来は、高松城築城の際に、丸亀城から商人を移住させてきたことと言われている。古くから住民の交流の場であり、多くの人で賑わう商店街であった。
しかし、賑わいの最中の昭和57年、丸亀町商店街振興組合の当時の理事長、鹿庭幸男(かにわよしお)氏は、「益々早くなる社会の変化に対応するには、先々を読んで先手を打っていかないと商店街は衰退して100年後にはないかもしれない。」と、次の時代を見据えていた。さらに、昭和63年、瀬戸大橋開通で大手資本の参入や人口流出に危機感を持った鹿庭氏は、丸亀町商店街振興組合の青年会とともに、平成2年より再開発事業に着手し、平成11年にまちづくり会社を設立し、事業を実施する体制を整えた。そして、平成18年に再開発事業の第一歩であるA街区(470mの商店街を7区画に分けた際の分類)をオープンさせた。
その結果、中央商店街通行量調査(15地点・休日)において、A街区(丸亀町北)は、平成18年10月の1万3千人から平成27年10月に2万1千人まで増加した。
4.新たな発想
丸亀町商店街が再開発に成功した要因として、次の事項が挙げられる。
(a) 賑わっていた平成2年から次の時代を見据えた計画を立てていたこと
(b) 地権者が儲かる仕組みを作ったこと
(c) 行政に依存しない、民間主導の自立した事業にしたこと
(d) リーダーに熱意と危機感があったこと
丸亀町商店街の再開発で最も特徴的な事業として、定期借地契約が挙げられる。商店街形成以後、長期間にわたり土地を所有してきた地権者の合意のもと、まちづくり会社が土地を一括管理し、土地の所有権と利用権を分離することで、業種の偏りを防ぎ、区域ごとにコンセプトを持った店舗配置に転換した。その結果、消費者が利用しやすい理想的なものとなった。
土地の利用権については、60年間の期限付きで行っている。利用権の推進によって、再開発事業費を大幅に削減することに成功した。また、利用権の合意形成に関して、行政が介入することなく、民間会社が責任を持って実施した。A街区の地権者は借家権者、借地権者を含め総勢67 名であったが、わずか4年程度で合意形成に至った。
つまり、「目的と目標と期限と責任」が明確になっているため、地権者が安心して事業に協力したといえる。
次に特徴的な事業として、商店街上部へのマンションの建設である。これは、車などの交通機関に依存しない生活を理想として、「街なか居住」を進めるものである。以前商店街に住んでいた人たちを取り戻すために、「都心回帰」としてはじまった事業で、かつて、75名しか住んでいなかった地域に、1500名を呼び込む計画である。計画には病院や保育園などの設置も含まれており、社会的弱者と共存する公共性の高いコミュニティの実現を図っている。
まさに、次の時代の暮らしが、ここにある。
再開発の事業費は、約69億円であるが、このうち自己資金はわずか2億円程度であった。これは、民間主導であるため、様々な補助金を組み合わせて事業を行うことができたためである。通常、行政が事業を行うと、1種類の補助金を活用し、それに独自で上乗せするのが精一杯だろう。割合の高い補助金を使用しても、50%程度の負担は必要である。縦割り行政の宿命である。
開発の効果についても、行政にはない発想である。開発前の税収は、A街区の建物固定資産税で400万円であったのが、開発後には3600万円に増加している。補助金に対する利回りは約6%であり、補助金を投資と考える発想が、これからの行政には必要不可欠ではないかと考える。
5.おわりに
視察を終えて、思うことを列挙する。
(1)リーダーの信念と、周りを巻き込む影響力が、衰退からの転換には必要である。
(2)責任を持つ組織やリーダーが事業を行わなければ、誰も付いてこない。
(3)新しい発想で未来を創造しなければ、時代に取り残される。

参考文献
1) 総務省ホームページ:高齢化社会に対応した持続可能な新しいスタイルの都市形成をめざして,地域力創造優良事例集,2008.