「発想の転換」「法律の柔軟な解釈」「循環」~丸亀町商店街再開発計画~
中山 真里 (岡山政経塾 16期生)
1、はじめに
私は、「表町商店街」「奉還町商店街」、玉野市の「玉商店街」「築港商店街」しか知らず、「商店街」のイメージは「古い・暗い・人がいない」私たちが欲しいもの、行きたいお店がない。魅力のないお店の集まり、交通手段のない近隣の高齢者が利用するもので、実際、イオンや天満屋などで買い物をしたり休日を家族と楽しんでいる。
数々の賞を受賞し、1日3万人が訪れるという商店街となった再開発計画について丸亀町商店街商店街振興組合理事長の古川康造氏よりお話を伺った。
2、商店街の衰退
高松丸亀町商店街は、高松市の中心部に位置する総延長2.7kmの商店街。店舗数は157、組合員数(出資者)は104人である。400年余りの歴史を誇る全国でも有数の商店街だ。しかし、バブルによる地価の高騰で空洞化が発生。ピーク時には年間20万人に迫る勢いのあった通行量も、2006年にはその半数にまで落ち込んだ。また、1988年の瀬戸大橋の開通により、大手資本(大型店)がなだれ込んできた。現在、人口100万人に満たない香川県には、10万㎡、20万㎡規模の大型店が5つある。対する丸亀町商店街は、約2.2万㎡である。
3、問題の明確化~土地問題の解決~
この問題を解決する最大のキーワードは「定期借地権」。
「何が問題なのか?」新しい未来ある商店街を作り直す為にシャッターのおりた店舗を貸す、古い店舗を新しく改修して貸す・・・。ではなく、0からの商店街立て直しを図るため、地権者からの土地の提供が必要でした。古くから商売をされている方、もう誰のものかわからなくなった土地まで、全ての土地を定期借地権法で借り上げ、新しい商店街を構築する為に4年間かかったといわれていました。一般借地権法ではなく、定期借地法を起用することで地権者の「権利」を守り、今回の計画がスムーズに進みました。
【定期借地権】
定期借地権とは 定期借地権は、平成4年8月に施行された「借地借家法」により誕生しました。 従来の借地権と異なり、当初定められた契約期間で借地関係が終了し、その後の更新はありません。 この制度により、土地の所有者は従来に比べ安心して土地を貸すことができ、借り主は、従来より少ない負担で利用ことができる。www.rrr.gr.jp/mansion2/inter_parks/teisyaku/

4、目的の変更
瀬戸大橋の影響で、大手企業が参入してくる中、寂れていく商店街に資金融資をしてくれるような金融機関はなかった中、大手企業と真っ向勝負は難しい。そこで、商店街を「消費の場」から「生活の場」に変えていく発想に変更。
商店街の高層部を高齢者向けのマンションを建築することで、わざわざ商店街に買い物に行くのではなく、生活の中に全てが揃う環境を整えたのも、再生計画の追い風となった。
5、費用への効果
◇不可能を可能に
土地を買うではなく、借りることで、事業費を約30%に削減。事業費面でも不可能を可能にした。

◇銀行融資はわずか
また、事業費に関しては、当初、金融機関からの融資はなく、補助金・助成金が主な事業費となった。正に、情報と知恵を最大限に利用した計画と言える。
6、商店街の構成
◇都会的な統一されたデザイン
商店街に一歩足を踏み入れると、駐車場から歩いてきた街並みとは一転した視界が広がる。都会的で統一されたデザインの建物が並び、道も広く色とりどりのタイルで覆われ、商店街中心にある「クリスタルドーム」(直径26m/高さ32.2)からは沢山の光が入りヨーロッパの教会の様な、神聖で快適な空間を作り出している。休日にはマルシェやコンサートが開催され、更に賑わいを見せている。

◇緑と木漏れ日が眩しい空間
商店街を歩いていると、道が広いこと、ベンチがあること、緑があることに気が付く。商店街は「長期滞在がしにくい」を180度変え、ゆっくり買い物ができる商店街を実現している。ベンチや木を公道に植えることは、法律では禁止されている。子ども連れの家族がゆっくり買い物ができないことも、商店街を嫌煙される原因となっている。この問題に対して、建物を後方に下げ(セットバック)ベンチや緑を設置し、解決することが出来た。


◇区画分けされたショッピングゾーン
目的により区画されたショッピングゾーンは、更に快適な買い物を実現している。(ファッション・ライフ・フード等)

5、循環の仕組み
この計画は、単なる商店街の再生ではなく、様々な「循環」が組み込まれていることが一番感動した。「今」だけを良くするのではなく「未来」に向けた取り組みがしっかり考えられている。
◇人の循環(テナントミックス)
商店街の上に高齢者用のマンションを建設。中階層には24時間対応の往診型クリニックや、リハビリ施設・最新検査機器などを揃え、高齢者が安心して暮らせる住居を提供。往診型の診療は医療点数も高く参入する医療機関にもメリットがあり、また、行政の手続きや支援対応も1か所に高齢者が集まることで効率化されている。
ニューファミリー(子育て中の若い夫婦)などは、中心部から少し離れたところに家をもち、車に乗り、週末は家族で買い物やレジャーを楽しむスタイルを維持し、また何十年後かに、高齢者になった時は中心部のマンションに入る。
ライフスタイルに合わせた、人の循環の仕組みが作られている。
・利益の循環
再生計画により、商店街に人が集まり、物が売れ、収益が上がることで納税額が増える。納税額が増えることで、丸亀町が活性する。
当初、補助金や助成金で国のお金を利用して行った再生計画が、国のお金を生み出した。利益の循環の仕組みが作られている。
6、民間の力
何よりも驚いたのは、丸亀商店街再生計画は「行政」ではなく、「民間」で完結させたことでした。
地権者を主体に「高松丸亀街づくり会社」を設立し、この計画は実現された。
「発想の転換」「法律の柔軟な解釈」「循環」などは、「民間」だからできたことである。「なんとなく」とか「あたりまえ」のことに深くメスを入れることは、変化を好まない行政では難しかったはずである。
7、最後に
今回の視察で、丸亀町商店街は「ショッピングモール」が商店街になった(外に出た)だけの印象から、「循環」の仕組みづくりや「発想の転換」など、大変刺激となった。
「なんとなく」「あたりまえ」がそうでないことに、大きなチャンスがあり、アイディア次第で解決できないことはないと確信した。
午後からの視察でしたが、もう一度また行ってみたいと思いました。
そして、岡山でもこれが実現できないのだろうか?何故誰も取り組まないのだろうか?そんな思いを胸に先ずは自分が出来ることから、故郷岡山がもっと元気になるよう活動していきます。