『高松丸亀町商店街現地視察レポート』
春名充明 (岡山政経塾 15期生)
近年、地方都市では中心商店街の衰退が際立っている。戦後、地域コミュニティの中心として発達していった商店街は、1980年代半ばから1990年代にかけて衰退傾向が明確になり、「繁栄している」という自己評価を持つ割合は、2010年代にはわずか1.0%に落ち込んだ。商店街に関する意識調査では、「なくならないほうがよいが、スーパーがあるので、困らない」と答える商店街利用者の実態も明らかになっている1)。
このような現状の中、地域と消費を支えてきた商店街の再開発に関する取り組みが全国で発生している。もともとは、町内会などの集団単位で自然発生的に商業集積を行ってきた商店街であるが、人口減少が最大の課題である現在の地方都市において、商店街を活用した観光、集客、経済の活性化が必要要素として見直されている。
2.視察目的
商店街再開発の先駆者である、香川県の高松丸亀町商店街を視察することで、再開発までの経緯、現在の利用状況、今後の展望を把握する。その内容をもとに、岡山をはじめ、全国の地方都市が抱える観光、経済、人口減少などの諸問題への適用性を考察する。
3.視察概要
(1)視察日程
日 程 :平成28年5月28日(土)13時~15時30分
場 所 :高松丸亀町商店街振興組合(高松市丸亀町13番地2)
視察対応者:高松丸亀町商店街振興組合 理事長 古川 康造氏
(2)視察内容
・商店街再開発に関する取り組み内容の説明
・ドーム広場等現場視察
4.高松丸亀町商店街の再開発概要
(1)高松丸亀町商店街の歴史
商業が基幹産業である高松では、約400年前に現在の商店街の基礎ができた。古くから住民の交流の場であったが、瀬戸大橋の開通やバブル崩壊を機に、商店街からの流出が加速した。しかし、そのころ、同時に再開発の計画が持ち上がっており、次に来る時代の対策を練っていた。
再開発計画は、平成18年のA区画より段階的に実現し、現在では、年間売上約3倍、1日約1.8万人が通行するまで回復をしている(再開発前の約1.5倍)。
(2)高松丸亀町商店街振興組合の取り組み
高松丸亀町商店街振興組合では、以下の3点を重視し、再開発を行った。
(a) 失敗例に学ぶ
(b) 居住者を取り戻す
(c) 民主導の再開発
5.視察の整理
(1)農地転用の推進について
丸亀町商店街の再開発で最も特徴的な事業として、農地転用が挙げられる。商店街形成以後、長期間にわたり土地を所有してきた地権者の合意のもと、まちづくり会社が土地を一括管理し、土地の所有権と利用権を分離することで、業種の偏りを防ぎ、区域ごとにコンセプトを持った店舗配置に転換した。その結果、消費者が利用しやすい理想的なものとなった。地権者との会合は、約1,000回に及んだと推測される2)。
土地の利用権については、定期借地権を活用し、60年間の期限付きで行っている。利用権の推進によって、再開発事業費を大幅に削減することに成功した。また、利用権の合意形成に関して、行政が介入することなく、民間主導で実施した。今までの行政主導の再開発の一般的な手法では、デベロッパーなどに計画を委託し、キーテナントを手厚く優遇し、誘致するケースが見られるが、デベロッパーやキーテナントは利益を得ると、早々に撤退し、大きな箱物だけが取り残される失敗例もある。
(2)居住者の確保について
次に特徴的な事業として、商店街上部へのマンションの建設である。これは、車などの交通機関に依存しない生活を理想として、「街なか居住」を進めるものである。以前商店街に住んでいた人たちを取り戻すために、「都心回帰」としてはじまった事業であるが、公共性の高いコミュニティの実現を図っている。現在は、病院を開設し、今後は、福祉施設、保育園などの施設を計画している。
(3)民間主導の再開発
丸亀町商店街の再開発では、第3セクターの出資5%以外はほとんど行政の参画を得ることなく事業を行った。その結果、広場にクリスタルドームを配置し、売上につながるイベントを開催している。また、民地を利用して通行道路を拡幅し、規制の少ない道路を実現した。これにより、他の商店街にはない、開放感と明るさを手に入れた。
6.考察
(1)全国に例を見ない土地管理手法にて、テナントの再配置を実現した丸亀商店街であるが、その成功要因としては、次の要素が挙げられる。
(a) 1990年代より次の時代を見据えた計画を立てていたこと
(b) 地権者が儲かる仕組みを作ったこと
(c) 行政に依存しない、民間主導の自立した事業にしたこと
(d) リーダーに熱意と危機感があったこと
(2)丸亀商店街の周辺には他に7つの商店街が隣接しており、総称として、高松中央商店街と呼ばれている。丸亀町商店街の再開発後、高松中央商店街全体では、空き店舗率の改善は未だ見られておらず(平成18年度18.1%、平成23年度17.9%)3)、年間売上額も下降傾向にあるため、今後、一点集中型再開発の効果がどの程度の範囲まで影響するのか、注視したい。
(3)丸亀商店街の再開発手法を他の商店街に適用する場合、中心部にどのぐらいの人口を集約できるかが要となってくる。人口40万人の高松市において、約2万人が中心部に集約されているため、このようなコンパクトシティが成り立つのではないかと考える。例えば、人口3万人の小規模なまちを想定すると、1500人を集約しても、丸亀町商店街のような賑わいは発生しない。2万人を集約すると、似たような賑わいは発生するが、残された1万人の生活は、集落維持活動(営農、草刈りなど)を少ない人数で行う必要があり、一層苦しいものになることが想定される。
しかし、現在の人口減少社会では、コンパクトシティによって行政コストを削減し、効率的な生活を送ることが地域の生き残りの一案であるとも言える。ただし、その場合、集約した地域以外は、自然に還すなど、腹をくくった決断が必要である。
参考文献
1) 満薗 勇:商店街の歴史にみる「消費」と「地域」-「商店街はいま必要なのか」を問う-, 地域経済経営ネットワーク研究センター年報,pp96-98,2016.
2) 総務省ホームページ:高齢化社会に対応した持続可能な新しいスタイルの都市形成をめざして,地域力創造優良事例集,2008.
3) 高松市:認定中心市街地活性化基本計画のフォローアップに関する報告,2012.