本気でやれば再生する!~丸亀町商店街の再開発~
紺谷百世 (岡山政経塾 14期生)
1.はじめに
商店街といえば「レトロで昭和の雰囲気が漂っている」というイメージや、「空き店舗が目立ち、寂れていて暗い」というイメージを持っている人が多いだろう。しかし、高松市の中心商業地区にある丸亀町商店街は全く違う。モダンで洗練されたおしゃれな通りである。ガラス張りのアーケードからは光が差し込みとても明るい雰囲気だ。国際不動産見本市(MIPIM)世界アワードや日本都市計画学会最高位賞である石川賞など数多くの表彰も受けている。丸亀町商店街は再開発によりこのように生まれ変わり、1日3万人が訪れるという四国随一の人気商店街となった。その再開発について丸亀町商店街商店街振興組合理事長の古川康造氏よりお話を伺った。
2.商店街の衰退
戦国時代末期に築城された高松城の城下町として発展した高松丸亀町商店街。周辺商店街と合わせると日本最長とされるアーケード街を擁し、かつては商圏400万(四国4県人口)と豪語した全国でも有数の商店街であった。約150店舗からなる商店街の総売上は、最盛期の平成4年には270億円、通行量は一日3,000人に達していた。
しかし、バブルにより地価は高騰し、住民は郊外に流出した。その結果、中心市街地である丸亀町は見事に空洞化した。また、昭和63年の瀬戸大橋開通を契機に、物流体制を整えた大手流通チェーンによる郊外大型店立地が進行した。その結果、商店街の通行量は大幅に減少を始め、売上が急速に落ち始め、売上、通行量共に最盛期の50%減となっていた。
丸亀町商店街はこのような事態に陥ることを予測し、商店街の最盛期である平成元年から再開発事業を開始した。
3.再開発の概要
再開発の内容については目から鱗が出るような、よく考えられた素晴らしい事柄がたくさんあった。その中でも、特に素晴らしいと思った内容について以下紹介したい。
①土地問題の解決「所有権と利用権の分離」~再開発計画の核心!
土地の利用方法は所有者の勝手であり、シャッターの降りた商店をそのまま 放置されても誰も制御できなかった。また、過去の一般借地権ではいったん土地を貸すとそこで借りる側に既得権がつき二度と地権者の手元に戻らないというのが定説であったため、地権者は土地を他人に貸すということもしなかった。このような土地の問題を解決したのが、「所有権と利用権の分離」という手法である。「所有権と利用権の分離」とはどのようなものか?概要は下図の通りである。

(当日説明資料より)
簡単に説明すると、
ⅰ)地権者とまちづくり会社との間で各々60年の定期借地権契約を締結する。
つまり、地権者は土地を所有したまままちづくり会社に土地を貸し出す。
ⅱ)建物はまちづくり会社が所有、運営をする。
ⅲ)まちづくり会社は、家賃収入から建物の管理コストなど必要な経費を除いた分を地権者に分配する。
という仕組みである。
これにより、「後継者を失って商売が継続できなくなってしまった」、「業種転換するパワーを失ってしまった」、「相続で細分化され土地の有効活用が出来なくなった」、「衰退する商店街には銀行が融資をしないので投資が一切起こらなくなってしまった」等商店街の問題が解決した。その上、まちづくり会社が建物全体を一体的に運営することができるので、マネージメントが合理的かつ体系的に出来るというメリットもあるのだ。
また、この方法により再開発に係る総事業費が大幅にカットされている。土地を買って建物を建築した場合の総事業費は約200億円もかかるのに対し、土地を借りることよって、建物の費用70億円で済んでいる。総事業費が安くなっているため、事業としてきちんと成立しているのだ。
②テナントミックス(業種再編成)~欲しいものがある商店街
全長470mの商店街をA~Gの7つの「街区」にゾーニングし、商店街の一部だけではなく、すべての街区を対象とした再開発を段階的に行った。
街区ごとに特徴を持たせながら、公園や飲食店、生活雑貨店や福祉サービスなど、これまで丸亀町商店街に不足していた機能を段階的に補っている。つまり、商店街全体をひとつのショッピングセンターと見立て、業種の偏りを是正し、商店街全体のテナントミックス(業種再編成)を行うことで商店や施設を適材適所に配置しようとしている。その結果、丸亀町商店街は住民の欲しいものが揃う商店街になっているのだ。
③住宅整備・医療整備~老後に住みたいまちづくり
既述の通り、丸亀町商店街では、バブルによる地価高騰によって、住民が郊外に流出した。この居住人口の減少が根本的な問題であると考え、住宅整備を行った。「客を取り戻す」のではなく、「居住者を取り戻す」という発想の転換である。1,500人の居住者を目指し、全体で400戸の整備を計画している。2015年時点で、200戸が完成している。
居住者を取り戻すために欠かせないのが医療である。自治医大と連携し、商店街の中に診療所が開設された。上層階には高齢者の方が多く入居される住宅を整備し、その下に診療所が置かれた。そして、診療所の医師がマンションに回診することで、居住者が在宅医療を受けられるという仕組みがつくられた。診療所には手術室や入院施設を持たない代わり、香川大学医学部付属病院などの後方支援病院と十分な検査機器が備わっている。重大な病気が発見されれば後方支援病院に送り込み、手術が終わればまちに帰り、在宅で予後をケアする体制が整っている。
④民間主導
この再開発事業について特筆すべきは、地元住民が中心となって第3セクターのまちづくり会社を立ち上げ、まちづくり会社が商店街全体をマネージメントしていることである。
民間主導だからこそ出来たのが、定期借地権を利用した再開発である。仮に役所主導であった場合、前例がないという理由で実現が困難になっていた。また、様々な省庁の補助金や高度化融資が活用できたのもメリットであった。
イニシャルコストは行政の支援(補助金等)を一部受けているが、ランニングコストは自主財源で賄うよう収支計画を立て、利益は地元へ還元することを目的としている。このような民間主導型の市街地再開発は、全国でも初の試みである。
4.感想
私は岡山政経塾の卒塾論文を執筆する際に、岡山表町商店街の現状を調べたが、表町商店街には顧客ニーズを捉え、それに対応するという経営的な視点が不足していると感じた。また、商店主にとって表町商店街は自分たちのまちであるはずなのに、実際に居住している人が少ないせいもあるのかもしれないが、その維持・発展は他人事であるようにも感じた。
一方、今回訪問した丸亀町商店街は、表町商店街とは全く正反対であった。必要なものやサービスが揃う顧客ニーズを満たした商店街であり、収益性も考えられきちんと経営されているという印象であった。また、瀬戸大橋開通を契機に、郊外に大型店立地が進行し、住民が流出するということを事前に予測し、余力のある商店街の最盛期に再開発事業を開始できたのは、自分たちのまちの維持・発展を本気で考えていたからこそではないかと思う。定期借地権を利用した再開発を真似することは難しいかもしれないが、経営的な視点やまちを本気で考える姿勢は、表町商店街をはじめとした全国の衰退している商店街が見習うべきことであると思う。