春名 充明 (岡山政経塾 15期生)
直島の景観、地形と現代アートの調和を通じて、地域固有の魅力を肌で感じ、感性を高めることを目的として、直島特別例会に参加した。
参加日程:平成28年7月9日(土)
視察内容:地中美術館、笠原良二氏講演(つつじ荘)、家プロジェクト、ベネッセハウス
2.直島のチャレンジ
人・文化・アート・自然をかけ合わせた特別な場所として、地域と民間(ベネッセ)が連携し、幸せなコミュニティを実現すること目指している。現在では、3,100人の住む島に、年間約40万人が来島しており、日本全国の地域が目指すべき成功事例の一つと言える。
直島とベネッセの接点は、1985年から始まり、現在も当初の方針と同じく、「直島にしかないもの」を作り続けている。
3.視察で感じたこと
(1)地中美術館
「わかろうとしたが、やはりわからなかった」
地中美術館を訪れるのは6年前に次いで2回目、当時と現在で作品を見た時の感じ方がどう異なるか、記憶をたどりながら、中に入っていった。今回、館内で作品や建物を見て、最も感じたことは、「時間と奥行き」だった。作品の中には、錯覚を起こしそうなものもあり、自分が普段見ているものが、先入観にとらわれた、視点のひとつに過ぎないことを感じた。
特に、ウォルター・デ・マリアの作品は、6年前に見た際は、全く意味がわからなかった。今回は、何かわかろうとして見たが、やはり、わからなかった。数度見ただけでは、この作品の「奥行き」はわからないのではないかと思う。施設の開門と同時に見始めて、夕方までずっと眺めていれば、もっと、この作品について共感し、アーティストの意図がわかるのではないかと感じた。季節や時間帯を変え、何度も訪れたいと思うことが、この作品の魅力ではないか。
モネの睡蓮は、目を悪くした晩年のものであり、輪郭がぼやけていて、遠くから見ることが、この作品の良さではないかと感じた。また、展示スペースの外から、来場者越しに作品をみると、空間全体が作品に思えてきた。
ジェームズ・タレルの作品は、まさに空間がアートになっているものであり、建物や空と一体になったものであると言える。特に、「オープン・スカイ」は、空と建物の境を見ていると、おだやかな気持ちになれた気がする。
(2)笠原良二氏講演(つつじ荘)
「理念を体現化する場所、直島」
これまでの直島とベネッセの関わりを中心に、ご講演していただいた。
直島に住む高齢者と都市部の若者を結びつけるものがアートであり、それは、他の地域においては、アート以外で集客力のある特別な場所を創造することも可能である、というお話が印象的であった。また、北部に産業、中央部に教育、南部に観光・文化とエリアを分別して直島を発展させたことも興味深かった。私の住むまちもそうであるが、学校や観光地が混在する地域では、思い切った事業はできないのではないか。
集客力のある特別な場所を想像する際に、最も大事なことは、理念を伝える体系を構築することではないかと感じた。直島では、アーティストと地域住民の間に、美術館館長とベネッセが入り、双方の考え方を「翻訳」することが必要不可欠であったことがわかった。
直島を特別な場所に変えたのは、現代アートであるが、それは、これからも、この場所で次々と生み出せるものであり、直島がこの先どう変化していくのか、そう思うだけでも、毎年訪れたいと思う魅力がある。これが、古典美術では、「収集」が主となり、変化がないのかもしれない。
(3)家プロジェクト
「古民家再生の新たな手法」
古民家の活用は日本全国の地方の共通課題であるが、アートとして生まれ変わっているものは少ないかもしれない。
実際に町並みを歩くと、アートの民家が点在しており、見学と徒歩での移動のバランスが良いように思えた。町中全体が観光スペースのようで、直島を対外的に知ってもらうには絶好の手法ではないかと感じた。ただし、今後観光客が増加した場合、アート以外の一般の民家の方の治安を守る対策も必要ではないかと思う。古民家の活用は、地域全体が望むことであると考えられるが、この先、居住地を居住地以外の活用方法にした場合、住む人が減少するのではないかとも思う。
(4)ベネッセハウス
「いつかは、泊まりたい」
現代アートを見ながら宿泊できる施設、直島にしかないものの一つである。宿泊者以外にも、アートを見るだけでも訪れる意味はある。野外にも作品があり、瀬戸内海の風景に調和した様子が見られる。特に印象的だった作品は、水平線の写真を展示した、「タイム・エクスポーズド」だった。ずっと眺めていられそうな魅力を感じた。もう一つ、「雑草」は、作品との距離感が絶妙で、あれ以上離れると何があるのか見えにくく、もっと近いと、触ってしまったりするのだろうと思った。年々数が増えたりすると、面白いのではないかと感じた。
宿泊は観光の原点ではないかとも思う。その、宿泊を充実したものに変えることが、集客力に大きく関わるのではないかと感じた。
4.おわりに
特別例会を終えて、思うことを列挙する。
(1)元々、直島にあった魅力が、「現代アート」を用いて、訪れる人々に見やすい形で表現されている、という印象を受けた。
(2)地方に観光客を呼び込むには、自然や地域の人々と、観光客を結びつける「何か」が必要であり、それを「翻訳」することが求められることがわかった。
(3)私自身、心境の変化があれば、地中美術館に行き、ウォルター・デ・マリアの作品を眺めようと思った。