春名 充明 (岡山政経塾 16期生)
1.はじめに
人・文化・アート・自然をかけ合わせた特別な場所として、多くの観光客で賑わう直島、豊島を訪れ、島の人たちとふれあい、その魅力を肌で感じるため、直島・豊島合宿に参加した。
参加日程:平成29年7月8日(土)~9日(日)
視察内容:地中美術館、福武總一郎塾長講演(つつじ荘)、家プロジェクト、ベネッセハウス、豊島美術館ほか
2.世界のNAOSHIMA
この1年間で4回目の来島になる。四国汽船のフェリーに乗ると、船内はいつもと同じように、多くの人で混み合っている。直島までは、約20分程度のわずかな船旅だが、フェリー好きの私にとっては、楽しみな時間の一つである。海の駅「なおしま」が見えてくると、乗客たちは下船の準備にかかる。7月上旬の直島は、雨の予報をものともせず、波の音と、強い日差しで観光客を迎えている。
「本当にここは日本なのか!」と思うほど、直島を訪れる外国人の数が多い。しかも、アジアだけでなく、ヨーロッパからの観光客の割合が多いのが特徴だ。つまり、直島は遠くても行く価値のある、行ってみたいと思う場所なのだ。
図-1に直島町の観光客数の推移を示す。
1990年には、わずか1万人の観光客数だったが、2016年の瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)の年には、72万人、瀬戸芸のなかった2015年においても50万人が訪れる町となった。同年の直島町の人口はわずか3千人であることから、この観光客数がいかに大きな数であるかがわかる。
このような観光客の増加は、日本の多くの観光地の目指すところであるが、町にとっては、どのような効果をもたらしているのか、調べた。

図-1 直島町の観光入込客数(直島町観光協会より)
3.逆境から転換した直島
直島町は、1916年、企業による銅の製錬所を受け入れ、翌年から製錬所が稼働した。その後、町は急速に発展し、香川県でも高所得の自治体となった。しかし、製錬の際に排出される亜硫酸ガスによって、製錬所がある島の北側を中心に、山の木々が枯れ、深刻な環境問題へと陥った。
1982年、当時の三宅親連直島町長と、福武書店創業者の福武哲彦氏が、負の遺産のイメージを払拭し、文化的な島を創る構想を描いた。その意志は、子の福武總一郎氏(岡山政経塾塾長)に受け継げられ、現在の現代アートと自然の島へと発展した。
直島町の平均所得は、現在でも高い水準を保っており、これは、観光業の発展による影響もあるのではないかと考える。
図-2に直島町と豊島のある土庄町、そして、私の住む美作市を比べてみると、直島の所得の高さが一目瞭然である。2016年の比較では、直島町が316万円に対して、美作市は242万円である。移住・定住が進む昨今であるが、所得の多い地域に移り住みたいと思う人は多いだろう。

図-2 平均所得の推移(総務省:市町村税課税状況等の調より作成)
直島や豊島の人口や高齢化率は、他の地域と同じように、年々高くなっている。2015年の国勢調査の結果では、直島町が3,139人、高齢化率34.2%、豊島(土庄町)が14,002人、高齢化率38.1%、美作市が27,977人、高齢化率38.9%であった。

図-3 人口と高齢化率の推移(総務省:国勢調査より作成)
しかし、国立社会保障・人口問題研究所が2010年の国勢調査を基に、2013年に将来の日本の人口を予測した数値と、実際の人口を比較すると、大きな差が出た。
表-1 2015年における人口の予測と実際の値の差
予測 実際の値 差
直島 3,114 3,139 + 25
豊島(土庄町) 13,908 14,002 + 94
美作市 28,381 27,977 -404
これは、直島や豊島が、推計より人口を維持していることを示している。2018年には、2015年の国勢調査を基にした予測値が発表されることから、表-1の値が、どのように修正されるか、注視したい。
人口が、予測を上回った要因は、一つではないと考えられるが、直島や豊島に多くの観光客が訪れ、元気な高齢者が増えていることが、大きな要因であることは間違いない。
4.直島町はどのように変わったのか
年間50万人が訪れるようになった直島町、町の財政について調べた。2005年からの10年間で、町税は6億3千万円から8億円まで増加している。

図-4 直島町の町税の推移(直島町ホームページより)
この自主財源の増加を、直島町では、衛生費の拡充にしている。2005年度歳出予算では、3億8千万円だったが、2015年には10億5千万円まで増やしている。衛生費は一般的に、健康増進、疾病予防、環境保全に使用される経費であり、この項目を増やしたのは、住民の意向が強かったのではないかと考える。

図-5 直島町の歳出予算の比較(直島町ホームページより)
2017年3月に策定された、第4次直島町総合計画中期基本計画の第3章には、「まちづくりに関する町民の評価と意向」として、望ましい直島町の将来像のアンケートを実施している。その内容を抜粋する。

このアンケートでは、80%の住民が、医療・福祉が行き届き、安心して暮らせるまちを望んでいる。衛生費を増やしたのは、このような住民の思いがあるからに他ならない。
さらに、直島の将来像は、「小さい島を大きく美しく美のなる島へ」を掲げている。これらのビジョンの基、今後の直島が、さらに魅力的なまちへと転換していくことは、間違いない。
5.おわりに
直島で、福武塾長のご講演を拝聴して、仲間とともに合宿ができて、何て充実した機会だったのだろうと、感慨深い。福武塾長のお言葉、「自然こそが、人間にとって最高の教師である」を体現する場所、直島を訪れると、何かパワーをもらうような気がする。まさに、「人間らしさは自然の中から生み出される」ということである。以下に、今回の合宿で感じたことを列挙する。
(1)念願の豊島美術館に行けたことが、今回の合宿で最も印象深い。初めて中に入ると、そこは、地球の内部に踏み入れたかのような、懐かしい感覚があった。次回はぜひ、女の子とデートで訪れよう!と心に決めた。
(2)福武塾長の講演の中で、「未来人から見て、現代人は、感謝されるのだろうか」という言葉が、私の心に響いた。
(3)島々が元気になった要因を探求するため、何度も直島・豊島を訪れようと、決めた。