現代アートの島直島・豊島で合宿
山本 正日 (岡山政経塾 16期生)
直島の事はニュースで見たことがあるが、一度も行ったことはなかった。そして瀬戸内芸術祭で賑わっていると聞いても自分はピンと来なかった。また、産業廃棄物の問題を少し、新聞で読んだことがあるが、とても遠い島のことと考えていた。日本の自然環境を破壊する産業廃棄物問題が、隣の香川県で起こっていることに悲しい思いをしたが、それ以上調べることを自分自身でしなかった。今回の直島・豊島合宿はアートと産業廃棄物についての2点を勉強できるものと楽しみにしていた。実際に初めてフェリーを利用し直島に行ってみると、意外と近いことに驚いた。芸術を言葉にすることは難しいし、私は芸術センスもないが、このような機会をいただいたことに感謝し、驚きと感動の連続であったこの直島・豊島合宿で自分なりに感じたことをレポートとしたい。
2.不法投棄・産業廃棄物処理で有名になった豊島と直島
1975年より豊島の産業廃棄物に関する事件が始まった。企業による『ミミズの養殖を騙った産業廃棄物不法投棄』に正直怒りを覚える。長い年月の訴えで裁判が行われ、マスコミ報道によって多くの人が知ることになった。豊島に不法投棄された産業廃棄物を直島にて処理することが決められ、豊島の産業廃棄物が運び出されて14年の歳月が過ぎ、2017年3月28日にすべての産業廃棄物が豊島から運び出された。これを一つの区切りとすると、行政として香川県が謝罪して、処理に掛かる費用に700億円もの税金が投入されたという事実が残る。しかし、直島での処理や豊島の地下水の浄化などは終わっていない。
そんな直島と豊島が、今度は瀬戸内海の島々とアートの融合による美しい観光地として、世界でも有名な島となる。直島町は人口約3,000人の町であり、1990年は観光客数が年間1万人程度であった。それが2016年の瀬戸内国際芸術祭では、年間70万人以上もの観光客が訪れている。しかも、日本人のみならず外国人が多いのが特徴である。島は過疎化が進んでいた。そして産業廃棄物問題による自然破壊で有名となった島が、今では日本でも有数の観光地として活性化している。信じられない奇跡であると私は思う。
しかし、豊かな自然というだけでは大きなアドバンテージにはならない。自然環境は豊かだが過疎化の進む町や村が、日本中には多く存在するからだ。さらに島ということは、交通の便で考えれば船が必要不可欠となり、大きなハンディとなる。交通の便が悪くとも、遠方の外国人の方々が訪れてくれる島、その魅力はどのようなところにあるのか?もちろんアートを見るために来るのだが、他の美術館との違いを考えてみたい。瀬戸内海の自然の美しさと芸術の融合は、大きな魅力や人気と関係しているのか?他の場所でも直島や豊島の真似をして成功できるものか?と多くのことを考えさせられた。
3.福武總一郎氏の講演
福武塾長は講演の中で「自分にできることを信じてやる」と言われていた。東京が一番正しいのではなく、地方で活躍している方の本を読むことも推奨されていた。「根っこに地方を愛する思いを持つことが大切である。今の文明は自然などのあるものを破壊して、新しいものをつくっている。しかし、これからは今あるものを活かして、無いものを創造していくべきだ。」とも言われた。だから、今存在する古民家を活用して『家プロジェクト』に取り組んだのではないか。この取り組みも、当初から順風満帆に進んだわけではない。様々な困難のなか多くの地元住民の支えもあり成し得たことである。しかし、粘り強く、自分の信念を貫き、アートの島をつくることができた。福武塾長は「行政に頼るのではなく自分たちで考え自分たちの努力でまずやるべきだ。工業誘致すらも、もう古い手法だ。日本の食料自給率はカロリーベースで39%、エネルギー自給率は原子力も含め20%、原子力無しでは6%しかない。つまり、日本は自給自足できていない。ここに1次産業の大切さをもう一度考えるべきだ。さらに、活性化には人の情熱が必要である。」と言われた。過疎が進む日本の田舎で、しかも『島』を活性化したというのは本当に尊敬してやまない事実であり、すばらしい成功例だ。最後に福武塾長は言われた。「人や物事を動かすのに最も大切なのはコミュニティだ。良いコミュニティをつくることによってみんなが幸せになれる」約一時間程度の講演であったが福武塾長の熱い言葉に迷いは無かった。
4.芸術・美術の館。直島と豊島
ここ直島、豊島の芸術品は島全体にちりばめられている。美術館の中にも保存されているが、コンセプトは壮大な美しい海・島を含めた芸術品と、芸術品を納めるための芸術的に創造した美術館。一般の美術館は絵画や芸術品を保存・展示する美術館に、芸術品を集めて並べている。しかし、ここ直島では芸術品を納めるための建物も、島の美しい自然との融合によって芸術品(アート作品)として創造・制作されているというのだ。「だから、ここでしか無い、できない芸術がここにある。」そう言われてそのスケールの大きさや芸術に対しての資本の集中投資に驚愕した。飾ってある作品の中のモネの『睡蓮』は、世界的に有名で知っていた。この作品は晩年に目を悪くした後にモネが描いたと聞き、感動し胸が震えた。個人的には自然が好きな私はジェームズ・タレルの『オープンスカイ』や豊島美術館のコンクリートでできた、シェルが気に入った。時が止まった感じがして、「このままいつまでも、ここにいていいの?」という感覚になる。一言で言うと『新感覚体験アート』だろうか。本当に、「他では経験できない芸術がここにある」と感じた。特に建物に関してはコンクリートの肌の冷たさが個人的に好きなので、非常に嬉しかった。しかし、コンクリートの地肌は年月が経つと、水漏れやひびが入るので維持が困難であり、とても心配になった。心配なので、また見に行きたいと思った。
また、『家プロジェクト』という考え方も素晴らしいと思った。廃屋や古民家を再利用し、住民と一体となって地域をアートにする。色々なアートがあったが、真っ暗な空間の中で、光の存在を考えさせるアートに、『時、空間、光、闇』を同時に考えさせられ、不思議な感覚となった。また、古民家の場所は点在していたが、地域全体でアートを応援するというか、島の人との心が一つにつながっているアートであると私は感じた。
今回はOBの西美様の丁寧な解説を聞きながら見ることができた。現代アートとして素材を工夫し、生命を吹き込んだようなアート。自分一人で見ただけでは全く理解しがたい作品群ばかりであった。頭がグラグラと揺さぶられるくらい印象に残り、考えさせられた。また、何度でも見たいと思ったし、家族も連れて行きたい。次は同じものを見て、どのように変化して感じるのか楽しみである。
5.終わりに
アートとは?と聞かれたらずいぶん昔だったら、消耗品でないもの、心を癒すもの等と答えたかもしれない。今、アートとは?に対する考えは、『空間を支配する、無限のエネルギー』と答えると思う。それほどまでに、この直島・豊島合宿で芸術の持つ情熱や自然とのコラボレーションによる美しさは、私にエネルギーを与えた。また、理論的な勉強だけでなく、心を揺さぶる『感性を磨く』ということができた直島・豊島合宿であった。色々と考えさせられたが、同じことを他の自治体や場所が真似をしてもできるかと言えば、私は難しいと思った。絶対にできないとは言い難いが・・・、美しい自然環境との融合、時間や人と経済力、時代など多くのキーワードがあり、長い努力の結果、奇跡的に生まれたものだと思った。高松市の丸亀商店街でも考えたことだが、その中でも人間の情熱と人とのつながりが、大きなキーワードになっているのではないかと思った。また、岡山政経塾例会の中で、地域活性化に成功した例をもっともっと学ばねばならないと感じた。もっと多く見ることで、得ることもあるし、得たことを実践していく力も磨いていきたいと思った。
最後に今回の直島・豊島合宿では幸運なことに岡山政経塾のOBである西美様による解説をいただいた。非常に丁寧でわかりやすく貴重であると思った。
また、福武總一郎氏の貴重なお話も私のエネルギーとなった。最後にこのような貴重な経験や機会をいただき、いつも鍛えてくださる小山事務局長に感謝して終わりにしたい。ありがとうございました。