自然とアートが教えてくれたこと
中山 真里 (岡山政経塾 16期生)
はじめに
製煉所のガスや排水、産業廃棄物などで、豊かな自然を失い、人々の暮らしを脅かす島となった「直島・豊島」。その島を、どのように再生させたのか。
世界中から観光客が年間70万人以上訪れる「ベネッセアートサイト直島」のプロジェクトをどのような思いで作り上げたのか。
緊張と期待に胸を膨らませ、心地よい夏の潮風を頬に感じながら、船に乗り込んだ。
1.地中美術館
モネの庭をイメージした美術館までの道には、繊細にバランスよく植えられた植物が静かに美しく咲き、本物のアートに触れる空間へと心地よく誘われる。
入館ゲート近くになると、一変してコンクリートのエッジの効いた壁や床に変わる。表面や傾斜を精密に計算し設計された建物は、アートを引き立て、それ自身もアートとなって、移動する空間さえ楽しませてくれる。
館内のスタッフは、壁の色に合わせたユニフォーム使用し、「目立たない」ことでアートをより際立たせ、より感じられる環境を提供している。
自然光を使って鑑賞する地中美術館のアートは、天気や季節、時間によって様々な表情を見せる。故に同じ光の中で、もう一度鑑賞することは極めて難しい。それも大きな魅力となり、何度も足を運ぶファンは増え続け、平成28年には187,676人が訪れている。

・クロード・モネ
モネの絵画「睡蓮」の緑の深さ、本物の色合いに思わず息を飲んでしまった。
美術館に絵を飾るという「当たり前」の思考から、モネの絵画を自然光で鑑賞
する為の美術館を作るという発想に強く感動した。
・ウォルター・デ・マリア
空間をアートにするウォルター・デ・マリアの作品は、長方形に空いた天井と階段の途中にある大きな石の玉、壁面には木材を金で塗った柱がそれぞれの角度をつけて立っている。
階段を上下左右へ行き交う人の動きまでが、アートに組み込まれたような空間で、目と体で感じるアートを体験した。
・ジェームス・ダレル
光を見る、光を形にする。地球上の光は目に留まらない早さで降り注ぎ、反射角で様々な色として目に入ってくる。真っ白な部屋で光を使い空間をから更に空間を作り出していく。光と視覚の高度な計算から生まれた現代アートは霧の中にいるような妖艶で不思議な空間を感じさせた。
・安藤忠雄
美術館そのものが安藤氏のアート。細部に渡る高度に計算された角度や組み合わせ、質感により、シンプルかつ大胆な作品となっている。何よりも、地中に自然と融合させた美術館をつくる「発想」こそ、アートなのかもしれない。
2.福武塾長講演
工業が発展することで、美しい自然が壊されていく憤りから、「在るものを活かし、無いものを創る」発想で、現代アーを武器に勝負した。役員も全員反対したプロジェクトを、創造したビジョン貫き完成させた。
最も印象に残ったのは「戦う」という言葉。事業は常に戦いで、新しい何かをするとき、様々な武器(情報・知恵・人脈)が勝敗に大きな影響を及ぼす。
「私より頭のいい人もいる、お金を持っている人もいる。なのになぜ誰もしないのか?」この言葉も深く共感を覚え、「生き方」や本当の「強さ」が込められていた。
「本当の幸せとは 豊かさとは」、幸せなコミュニティーに住むこと。幸せなコミュニティーとは「人生の達人であるお年寄りの笑顔が溢れているところ」。
宿泊した「つつじ荘」で朝食を食べているとき、海外からのゲストが次々と朝食会場へ入ってくる中、高齢の女性たちが、大胆かつ笑顔いっぱいの片言の英語で対応していた。これも「幸せなコミュニティー」の一つではないかと思った。忙しく動き回る中、生き生きとした笑顔と張りのある元気な声がとても印象的だった。
幸せはひとりだけでは実現しない。隣の人、家族、仲間が一人でもさみしかったり、苦しかったり、辛い思いをしている中で心から幸せや豊かさは実感できない。
この素晴らしいプロジェクトが、島全体の思いを一つに合わせ、みんなが幸せで豊かになることを実現させた。
現代アートによる地域再生事業「ベネッセアートサイト直島」は、世界中から観光客が押し寄せ、平成2年11,358人だった客数を平成28年には727,057人と拡大し続けている。

3.豊島美術館
シャトルバスを降りると、美しい自然と瀬戸内海が広がり、自然の豊かさを目の当たりにした。
内藤礼の「母型2010年」のアート。
シェル状の構造で二つの大きな空洞からは、太陽の光、風、小鳥のさえずり、葉を揺らす音が静かに流れ込んでいる。
小さな穴からは水が湧き出し、様々な大きさや速さで走り、止まり、集まり、また走り、吸い込まれるように、小さな音をたて地下へ落ちていく。
湧いては走り、吸い込まれていく水の玉を見ていると「命」や「人生」と重なった。何故か母の顔が浮かび、涙が溢れ、忘れられない場所となった。
【内藤礼氏のメッセージ】
「豊島美術館の「母型」は1日を通して、いたるところから水が湧き出す「泉」です。二つの開口部からは、光や風、鳥の声、時には雨や雷や虫たちも連なり、響き合い、たえず無限の表情を鑑賞者に伝えます。静かに空間に身を置き、自然との融和を感じたとき、私たちは地上の生の喜びを感じることでしょう。」

終わりにv
初めての経験と感動は岡山政経塾から生まれる。
「いつも同じ」ではないアートは「あたりまえ」が通用しない。二度とない今を生きろ、今をしっかり感じ、今を全力で楽しめ。
同じ場所に同じものがいつもあるから、いつでも行ける。ではなく、出会いも、時間も、感情も、「今」しかない。一瞬を大切に生きる。
残り半分の人生を生きる為の何より大切なメッセージを頂いた、幸せと感謝でいっぱいの二日間となった。
最後になりましたが、ご講演頂いた福武幹事、素晴らしい機会を作ってくださった小山事務局長、お忙しい中ご参加頂いた渡辺監事、終始私たちをサポート頂いた西美先輩、楽しい時間をご一緒させて頂いた、先輩方始め関係者の皆様、心よりお礼申し上げます。貴重な体験をありがとうございました。

四季折々の風に吹かれ、思い出の直島で手をつないで歩く日を夢見る中山です。
大きくて暖かい男性の手と愛を絶賛募集中です。