2019年 直島特別例会レポート(直島・豊島)

【直島視察レポート】

木下 仁志 (岡山政経塾 18期生)

1. はじめに
 直島に行った目的は2つある。ひとつは「なぜ直島は人口約3000人、面積14.22 km²の小さな島に年間55万人の観光客が訪れるような国際的な観光地になったのか」。過疎化した島を再生させた理由を知りたい。もうひとつは「現代アートを見て私自身が何を感じることが出来るのか」ということである。子供の頃から音楽・図工などが苦手で芸術に関して非常に鈍感な私が、どの作品に何を感じることが出来るのかを知りたい。

2. 直島が成功した理由

  • (1) コンセプトに現代アートを用いた
    • ① 安藤忠雄や草間弥生など、一流の人たちにも参加してもらったこと(若手や学生にも参加してもらったこと)
    • ② 島内全体を現代アートに統一した
      • 美術品が設置されているのは美術館内だけでなく、家プロジェクト(島の空き家を改修した美術品群)や宿泊施設「ベネッセハウス」内などにも多くの現代アート作品が展示されており、普段見られない美術品が多い
      • 作品制作手法としては、「サイトスペシフィック・ワークス(特定の場所でつくられ成立する作品)」が主流である。アーティストを招き、直島や美術館を見て場所を選んでもらい、その場所のためにプランを立て、制作するという手法をとっているため、島の良さを活かした作品ばかりである
  • (2) 島の住民と協力関係を築けた(連携出来たこと)
    • ① 島の住民が参加できる仕組みにした(生活者を起点とした取り組み)
      • 「まずは島満足度を向上させ、住民が誰かを招待したくなるような自慢の島を作り上げ、その結果、多くの人が島を訪問する」というスローガンを掲げた
      • 作品の場所を示す大きな看板を設置しないことにより、作品の場所がわからない観光客は住民に場所を聞くことになる。これが住民と観光客間の対話を生み出すきっかけとなり、住民が自然に参加できるようにした
      • 家プロジェクト第1弾の「角屋(かどや)」を創る時、アーティストの宮島達男は町民125人を公募して、作品を構成する125個のデジタル・カウンターの点滅速度を一人一人にセッティングしてもらい、地域住民参加という手法を取ることで住民の理解を得た
      • 「島プロジェクト」を立ち上げ、島民と観光客を繋ぐコミュニティカフェによる交流を図った
  • (3) サポーターの協力体制を築けた
    • ① こえび隊の協力
      • 瀬戸内国際芸術祭のボランティアサポーターの存在を「こえび隊」と総称し、作品制作のお手伝いや、芸術祭のPR活動、芸術祭期間中の運営、各島での催しのお手伝いなどをしている。これらの活動に一年を通して関わることで、島と人とのゆるやかなつながりを保つ役割を担っている。
      • 生活者起点の取り組みは、教育・アート・建築・食といった様々な文脈でアーティスト・芸術と相乗効果を生み出した。
  • (4) 福武總一郎塾長の牽引力
    • ① 信念
      • 自然こそが人間にとって最高の教師
      • 在るものを活かし無いものを創る
      • 経済は文化の僕(文化が経済の牽引力にならなければならない)
      • 高齢者が生き生きとした生活のできる地域にする
    • ② 熱意と行動力
      • ベネッセが展開しているアート活動がなければ成り立たない
      • 年月をかけてアートを島独自のものに根付かせてきた
      • 島の住民や芸術家との粘り強い説得により協力関係を築きあげた
3. 現代アートを見て感じたこと
  • (1) 地中美術館
    • 地中美術館は、クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームズ・タレルの3人だけの作品をわずか3人の作家の作品を恒久展示し、総合演出の秋元雄史と建築を担当した安藤忠雄が個々の作品ごとに、作品を体感する建築空間を構成している。作品と建築・展示空間が一体となって切り離せないところに特徴がある。建物の大半は地中にある。私が最も印象的だったのは2作品。ひとつは光と影のコントラストが美しい館内の通路(作品①)。地下にありながら自然光を採り入れられ、光の美しさ、暖かさに驚いた。しかも一日のうちでも時間によって作品の見え方が変化することも魅力のひとつであり、あたかも建物全体が巨大な芸術作品であるような印象を与える。ふたつ目はウォルター・デ・マリアによる「タイム/タイムレス/ノー・タイム」。巨大な空間にある金の柱と直径2.2m、14tonの花こう岩の球体。入口から見たとき、巨大な空間と球に圧倒された。

      作品①          作品②
  • (2) 家プロジェクト
    • 家プロジェクトとは、香川県香川郡直島町・本村地区において古民家を改装し、現代の芸術家が家の空間そのものを作品化した7つの建築からなるプロジェクトのこと。私が最も印象に残ったのは、この2作品。ひとつ目は、日本画家、千住博が手がける家プロジェクト「石橋」の柱(作品③)。壁の木目を全て削って製作しており、その出来に大変驚かされた。ふたつ目は、築200年前の建物を修復し、内部に宮島達男のアートの世界を展開する「角屋」。古い外観とはうらはらに、内部は部屋全体に水が張られ、色鮮やかなライトを点滅する「Sea of Time。古民家ならではの静けさと、ついたり消えたりする光のタイマーが絶妙である。

      作品③          作品④
  • (3) ベネッセハウス ミュージアム
    • ベネッセハウス ミュージアムは、「自然・建築・アートの共生」をコンセプトに、美術館とホテルが一体となった施設のこと。ここの展示されている作品は、太陽の位置や、空の動きによって、24時間違う顔を持っている。私が最も印象に残ったのは、この2作品。ひとつ目は、安田侃「天秘」(作品⑤)。ギャラリーの奥に、正方形の空間があり、人間より少し大きいイタリアの大理石がふたつ置いてあり、この石に寝そべると、四角い開放された天井から空が見える。実際寝そべっていたら、両方の石とも背中の当たり具合が心地よく、空の景色と心地よい吹き込んでくる風で思わずうたた寝をしてしまった。ふたつ目は、ブルース・ナウマン作 「100生きて死ね」。美術館の中央の吹き抜けの円形ホールにたたずむ巨大な作品で、生と死を関係付けたネオン管のメッセージが1つずつカラフルな色で点滅し、最後に100個全てが点灯する。また近くにある階段は人生を表しており、毎年一歩づつ登り、最上階へ登り切ると、天へ召されるとのこと。人生の儚さをあらわすこの空間は、色彩や空気感としても引き付けられ、隅に置かれた椅子に座り、ボーっと人生について考えてみたいと感じた不思議な作品である。

      作品⑤           作品⑥
  • (4) 素晴らしい景色
    • 直島のいたるところに現代アート作品が存在しているが、これらに負けないくらい素晴らしい景色がいたるところに存在していた。これらを見て、風や光、音を感じることが出来、何とも言えない心地よさを感じた。また、自然と現代アートが上手く融合していることを改めて感じた。
4. 感想
 この直島のプロジェクトの成功は総合プロデューサーである福武塾長の信念、熱意、行動力なくしてはあり得なかった。企業によるトップダウンの取り組みと、島民やサポーターのボトムアップの融合が上手くいった一因である。このような企業と地域の間に壁を創らない関係性づくりが成功の秘訣である。具体的には観光客ではなく島民の満足度を第一に考えた観光地にしたことは、高松丸亀商店街の街づくりに通ずると感じた。
地域と企業の協力・連携した、プロセスを考察し、実行していくこと』このことが街づくり事業を進めていく上で最も重要で、私のNPOの新規事業を進めていく上で参考にしたい。
 私は直島で現代アートを見て一言で言うと「圧倒」された。現代アートを島全体に配置し、現代アート、建築物、自然との調和、光の使い方が抜群、そしてその空間から心地よさも感じることができ、驚かされる作品ばかりだった。島、生活、現代アートが融合した多くの作品を見て感じるためには、島を直接訪れなければ見たり体験したりできない。観光客が増えている一因だと思った。
 今回の直島訪問は岡山政経塾でしか実行出来ないスケジュールでたくさんの場所を見せていただき、大変感謝しているが、一方では結構駆け足で見てまわった感じがした。一日で直島全体を見てまわることが出来る規模ではない。全部見て回るには時間が必要だし、ひとつひとつをゆっくり見てまわりたい。あと地中美術館のナイトプログラムも見てみたい。
 個人的には私用で直島しか見られなかったことは非常に残念だった。来年も参加し、直島の見るポイントを絞ってゆっくり、じっくりと見たい。あと今年行くことが出来なかった豊島にも行って見たい。
 今回、お忙しいなか講演をして頂きました福武塾長、直島に行く機会を設けていただいた小山事務局長、案内をして頂きました西美先輩、東京から参加されたお2人の議員さん、参加されていた先輩や同期の皆さんに改めて感謝申し上げます。

以 上