『アートとは己の価値観を表現するもの』
剱持宏明 (岡山政経塾 14期生)
●地中美術館(直島)
心地よい初夏の瀬戸内の晴れ間の中、睡蓮が私達を出迎えてくれました。先ず世界の安藤忠雄が設計し、緻密に施工された建築物の人工的な美しさに魅かれました。続いてモネの睡蓮、ウォルター・デ・マリアの球と長方形で構成された幾何学的な作品、そしてジェームズ・タレルの光のアートを見学しました。最も印象的であったものは、ジェームズ・タレルの光のアートでした。光の色が立ち位置によって、青色からオレンジ色に変化していきました。物事は見方によっては様々な姿に見えるということをジェームズ・タレルがアートを通じて伝えているようでした。心の中で何度も何度もシャッターを押しました。「もし秋の紅葉の季節に再度訪れたら、地中美術館はどのようなおもてなしをしてくれるのだろう」と再会を心に誓いました。
●家プロジェクト(直島)
入母屋や切妻の屋根が特徴的な江戸時代に建築されたであろう家屋が軒を並べていました。町並みを歩きながら本村の歴史や、住民の方が生活を営んでいる様子を肌で感じることができました。ジェームズ・タレルの南寺を皮切りに、角屋、護王神社、碁会所、はいしゃの5箇所を廻りました。古民家を改修し現代アートの作品として再生している様は、歴史とアートの共生を表現していました。在るものを上手く活用することは大切なことだと思いました。
ジェームズ・タレルの南寺に足を踏み入れた時点では、無の中に放り込まれた気持ちでした。何も見えず「右手を壁に当て周りからはぐれないようにしよう」との闇の中での防衛本能が働きました。やがて目が暗闇に慣れ、正面にスクリーンのようなものが見えてきました。これが光の空間と知ったとき、地中美術館と同様のジェームズ・タレルのメッセージを受け取ったようでした。
●ベネッセハウス・ミュージアム(直島)
ジョナサン・ボロフスキーの「3人のおしゃべりする人」の3体の人形が印象的でした。3体とも自分のペースで喋っていましたが、歌うときは接妙のハーモニーでした。3体の内1体の人形が背筋が曲がっているにも関わらず、他の2体とハーモニーが揃っているのを聴いて、若干無理をして他の2体に合わせているように見えました。
●福武總一郎幹事の講演(直島)
福武幹事の講演を生でお聴きできたことが本例会で最も衝撃的でした。直島にあるアートは、「在るものを活かし、無いものを創る」との着想が作品になって表されていると悟りました。そして、直島をアートの島として創り上げるという発想には、幹事を除いて誰も辿り着けないであろうと思いました。アートに直に触れることにより、右脳で感じとることができました。そして、幹事の講演から左脳で体系的に考えることができました。頭の中の引き出しを上手に整理できた瞬間でした。
直島に向かう前からアートとは何かとの問いに自問自答していました。幹事の想いを聴いているうちに「アートとは己の価値観を表現するもの」ではないかと考えることができました。価値観とは、自己の人生で培った考え方と定義づけることもできました。
岡山政経塾に入塾したことに誇りを持てた1日でした。
●豊島美術館(豊島)
山吹色の棚田と優しく寄せては引いている瀬戸内海の波の動きが目に飛び込んできました。豊島美術館の中では多くの人が仰向けになっていました。一緒に私も仰向けになりました。コンクリートの冷ややかで心地よい感触を背中に感じながら。これも現代アートを体感するメソッドの1つなのかなと思いました。心地よいそよ風でリボンが舞い踊り、床からの湧き水がまるで生きているかのように動き、止まり、一体となっていく様子を飽きずに見続けました。まるで無機物の水に生命が宿っているようでした。晴れの日に湧き水の姿を見ましたが、雨の日は湧き水が一層生き生きと駆けていくのではないかとの想像を心に膨らませていました。
●豊島産業廃棄物処理問題について(豊島)
元県会議員の石井亨氏の話をお聴きしました。豊島事件を解決できた原因が、豊島の住民には地域の問題を自主的に解決できる力がかろうじて残っていたからと言われていました。豊島の住民の方々は自らの故郷への愛があったからこそ一丸となって戦い抜けたのではないかと、石井氏が語られる熱意から感じ取ることができました。また、豊島総合観光開発に事業者の許可を下ろしたことに対する豊島の住民の直訴を見て見ぬふりをしていた香川県には強い憤りを感じました。人間が判断をすることなので、間違えることはあるかもしれません。しかし、香川県は自らの非を認めずに直そうともしませんでした。このことが、豊島の住民の方々を苦しめた大間違いにつながったのではと思いました。
また、産業廃棄物処理費用の約700億円は県民と国民が負担した税金を投入しています。香川県の失政を県民と国民になすりつけているのと同然です。二度と同じ過ちを県にも繰り返させないために県の責任を明確にし、行政を県民が細かくチェックできる仕組みが必要であると思いました。
●おわりに
初めての直島・豊島への訪問でした。例会担当として至らない点がありました。その中で、小山事務局長と西美様には細やかな配慮を頂き感謝しています。そして、14期生の同期の方々や岡山政経塾と松下政経塾のOBの皆様にもご協力いただきありがとうございました。アートとは何かという問いにわずかでも自ら考えて答えを出すことができました。しかし、アーティストからの作品を通じてのメッセージを全て受け止めることはできませんでした。直島・豊島例会は現在でも続いていると思います。繰り返しアートの島に足を運んで自らの感性を磨いていきます。